Battlecry

其れはいつも通り、開幕を告げた。

歴史とともに苔生すように錆を纏った鉄の壁が

悲鳴を上げながら姿を隠し、並ぶ人々を戦場へ誘う。

我先にと、血走った目の飢えた獣たちが座席とプラカードを手に取る為に

円滑な足捌きで鉄の壁の先へと雪崩れ込んでいく。

列を為すある者は連れと何気ない言葉を交わし、

またある者は目の前の電子の海に潜り込み、

そしてまたある者は聞き慣れた電気信号を耳へと流し込んでいる。

「待つ」という行為を意識しないように、「楽しいこと」「慣れた事」を

しようという意志の表れが各々に見え、図らずとも展覧会宛らの様相である。

等価交換の法則というものが嘘でないならば、重い鉄の壁が開かれる前から

陣取り、その先で自分の要求を満たすまでに必要な時間と費用は同じである。

並んでまで食事をすることを厭うものが居るというのは、かかる時間と

差し出されるものを天秤にかけ、其れが不等だと判断するだけのことである。

しかし敬虔な信者、もとい常連からすれば、

「並ぶことも含めて様式美である。」と言わんばかりの論調で

これでは互いに噛み合うはずがない。

自分の番を待ちながら眼を楽しませ、

換気扇から漏れ出してくる匂いで鼻を楽しませ、

何気ない会話を交わしながら口と心をウォーミングアップし、

自分と同じくその先をくぐることを心待ちにする者達が発する言葉に

耳を楽しませる。それだけのことである。

門の中に至れば、注文を尋ね、せっせと飯の種を育てるのに勤しむ姿や

先程まで同じように列をなしていた者たちが

舌鼓を打ち、一つのものを囲って笑顔を見せながら会話する様を楽しみ、

目の前で自分の要望が形になるまでに

戦いの場で上がる火、そして人ともにその場で奏でられる音に心を澄ます。

そうして多くの人が様々なモノを掛けて築き上げたものに対し、

再度自ら号砲を鳴らす。

木の割れる音と、手を合わせる音。そして一言「いただきます。」

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