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指を食べる | 春ピリカ応募
「ぼくの指を、食べてみないか」
おどけた口調で恋人に指を差し出されて、軽く眉をひそめた。
「わたし、別にお腹減ってないよ?」
そう断ったものの、彼は差し出した指をそっとわたしの顔に滑らせて、にゅっと口のなかに入れてきた。
「おやつにぴったりだと思うんだけどなぁ。そのうち、もとに戻るしさ」
たしかに指くらいなら、一週間あればもとに戻るだろう。
子どものころに石に挟んで指を失ったときはこの世の終
【小説】栃栗毛のペガサス
事の発端は、狸とアマビエの喧嘩だった。
狸は最近アマビエがやっている動画サイトに度々出演し、人気ボーカロイドやアニメのキャラクターに化けてさまざまな歌を歌っていた。
その声の野太さと音痴な歌声に「見た目とのギャップがウケる」と固定のファンがついたが、次第に飽きられてしまうであろうことをアマビエは見越しているらしい。
「おめえもそろそろさ、なんか新しいことやろうよ。このまんまじゃ飽きられちまうから
【ピリカ文庫】チョコレート【ショートショート】
「たでぇま〜」
間延びした声で、父が帰ってきた。
外は雨だというのに、だいぶ呑んできたらしい。
両肩に下げたエコバックには、半額の焼き鳥やコッペパンがぎゅうぎゅうに詰まっている。
それをどさりと床に置くと、父は洗面所へ手を洗いに行ってしまった。
「あ、そうだ。これ」
居間に戻ってきた父はズボンの前ポケットから、何かを二つ取り出した。
受け取ってよく見ると、それはひしゃげたチョコエッグだった。父の