犬飼 愛

主に感想文などを。

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記事一覧

「能」を奥深くまで楽しみましょう(『和ろうそく能「葵上」生霊となる愛』感想文)

はじめにこの度は、初めての観能ということで緊張していましたし、伝統藝能は敷居が高い(誤用)との先入見を持っていたので、きちんと楽しめるか不安でもありました。し…

犬飼 愛
2週間前
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私の読書について(雑記)

 私には、日に一時間以上は読書をする習慣があります。そして私は凝り性であり、一冊の本を徹底的に読み込む傾向があります。この傾向がいささかヘンな方向に走ってしまっ…

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9か月前
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君は完璧で究極のアイドル(『森 麻季ソプラノ大阪リサイタル2023』感想文)

公演『森 麻季ソプラノ大阪リサイタル2023』(住友生命いずみホール)へ行ってきました。本公演のプログラムは次のとおりです。 ・C._グノー:歌劇《ファウスト》(CG 4) …

犬飼 愛
10か月前
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華々しき光景と、いくつかの印象的な歌(佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2023 歌劇「ドン・ジョヴァンニ」感想文)

 公演「佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2023 歌劇『ドン・ジョヴァンニ』」(兵庫県立芸術文化センター)に行ってきました。まず、私は「METライブビューイング2016-17…

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1年前
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全ての音を愛せる「ゴルトベルク」(『ティエンチ・ドゥ ピアノ・リサイタル《ゴルトベルク変奏曲》』感想文)

 演奏会「ティエンチ・ドゥ ピアノ・リサイタル《ゴルトベルク変奏曲》」(あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホール)に行ってきました。初めに本演奏会の曲目で…

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1年前
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それに接した瞬間、私の目はハートになる(『デザインに恋したアート♡アートに嫉妬したデザイン』感想文)

 展覧会「デザインに恋したアート♡アートに嫉妬したデザイン」(大阪中之島美術館、読売新聞社)に行ってきました。この展覧会の概要は次のとおりです(大阪中之島美術館…

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1年前
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あゝすばらしきバロック音楽(『KOBEバッハ合奏団〜4th Concert〜』感想文)

開演:2023年4月6日(木)19:00 プログラム: 〇G.F.ヘンデル / 4声の協奏曲 ニ短調 (Cem.小林道夫、Fl.榎田雅祥、Vn.寺西一巳、Vc.細谷公三香) フルートが思っていたよ…

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1年前
1

力業のドラマをフランス趣味で彩って(クロード・ルルーシュ『遠い日の家族』感想文)

 第二次世界大戦、ヴィシー政権下のフランスにおけるユダヤ人一家の受難と、その背景にある人間模様が主題。主人公のうら若きサロメ・レルネルは、ピアニストである兄のサ…

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1年前
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丸谷才一『文章読本』における修辞技法(レトリック)の分類表(丸谷才一『文章読本』読書メモ)

(2023/6/9 更新:ファイルの内容を一部変更しました。) 丸谷才一『文章読本』の「第九章 文体とレトリック」では、「隠喩(メタファー)」や「直喩(シミリー)」とい…

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1年前
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私はハルキストにはなれない(村上春樹『ドライブ・マイ・カー』感想文)

 村上春樹『ドライブ・マイ・カー』(文春文庫『女のいない男たち』所収)読了。本作は男の女に対する捉え方を扱った作品であり、それが三層で形成されているように思われ…

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1年前
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「能」を奥深くまで楽しみましょう(『和ろうそく能「葵上」生霊となる愛』感想文)

「能」を奥深くまで楽しみましょう(『和ろうそく能「葵上」生霊となる愛』感想文)


はじめにこの度は、初めての観能ということで緊張していましたし、伝統藝能は敷居が高い(誤用)との先入見を持っていたので、きちんと楽しめるか不安でもありました。しかし、それらの心持ちとは別に、ある種の余裕を持って臨めたこともまた事実です。というのも、今回鑑賞する『葵上』の詞章[1]を前もって予習してきたからです。今回はプロジェクターによって舞台上に詞章が映し出されていましたが、それでも、知らない単語

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私の読書について(雑記)

私の読書について(雑記)

 私には、日に一時間以上は読書をする習慣があります。そして私は凝り性であり、一冊の本を徹底的に読み込む傾向があります。この傾向がいささかヘンな方向に走ってしまったのが、今年の4月からのことでした。日本文学の専門家が書いた日本史の研究書を読んでいる最中に、テクストに書かれている知らない言葉をそのままにしておけなくなったのです。たとえば「木曾義仲」とか、「後深草院二条」とか。あるいは『吾妻鏡』とか。そ

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君は完璧で究極のアイドル(『森 麻季ソプラノ大阪リサイタル2023』感想文)

君は完璧で究極のアイドル(『森 麻季ソプラノ大阪リサイタル2023』感想文)

公演『森 麻季ソプラノ大阪リサイタル2023』(住友生命いずみホール)へ行ってきました。本公演のプログラムは次のとおりです。

・C._グノー:歌劇《ファウスト》(CG 4) より〈宝石の歌〉
・J._S._バッハ,_C._グノー:《アヴェ・マリア》(CG 89a)
・M._レーガー:《素朴な歌》(Op._76) より〈マリアの子守歌〉
・J._ブラームス:6 つの小品 (Op._118) より第

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華々しき光景と、いくつかの印象的な歌(佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2023 歌劇「ドン・ジョヴァンニ」感想文)

華々しき光景と、いくつかの印象的な歌(佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2023 歌劇「ドン・ジョヴァンニ」感想文)

 公演「佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2023 歌劇『ドン・ジョヴァンニ』」(兵庫県立芸術文化センター)に行ってきました。まず、私は「METライブビューイング2016-17 モーツァルト《ドン・ジョヴァンニ》」[i](以下、「MET 2016 版」という)の録画を繰り返し視聴してから、本公演に臨みました。すべての歌について、数秒聴いただけでそれぞれの場面を思い浮かべられる程、この録画を熱心に視聴

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全ての音を愛せる「ゴルトベルク」(『ティエンチ・ドゥ ピアノ・リサイタル《ゴルトベルク変奏曲》』感想文)

全ての音を愛せる「ゴルトベルク」(『ティエンチ・ドゥ ピアノ・リサイタル《ゴルトベルク変奏曲》』感想文)

 演奏会「ティエンチ・ドゥ ピアノ・リサイタル《ゴルトベルク変奏曲》」(あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホール)に行ってきました。初めに本演奏会の曲目である J.S. バッハの《ゴルトベルク変奏曲》(Goldberg-Variationen, BWV 988)について、本演奏会のプログラムを引用するところから始めます。

 変奏が「大きく三つのグループに大別される」法則は、第 29 変奏ま

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それに接した瞬間、私の目はハートになる(『デザインに恋したアート♡アートに嫉妬したデザイン』感想文)

それに接した瞬間、私の目はハートになる(『デザインに恋したアート♡アートに嫉妬したデザイン』感想文)

 展覧会「デザインに恋したアート♡アートに嫉妬したデザイン」(大阪中之島美術館、読売新聞社)に行ってきました。この展覧会の概要は次のとおりです(大阪中之島美術館の公式ホームページから引用)。

 本展は、このコンセプトの元、地域も様式も問わず、様々な作家の作品をざっくばらんに展示しているようです。このタイプの展覧会は、作品ごとのオーセンティックな文脈が見えないため、長らく苦手としておりました。どち

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あゝすばらしきバロック音楽(『KOBEバッハ合奏団〜4th Concert〜』感想文)

あゝすばらしきバロック音楽(『KOBEバッハ合奏団〜4th Concert〜』感想文)

開演:2023年4月6日(木)19:00

プログラム:
〇G.F.ヘンデル / 4声の協奏曲 ニ短調
(Cem.小林道夫、Fl.榎田雅祥、Vn.寺西一巳、Vc.細谷公三香)
フルートが思っていたよりも強かった。第三楽章(Largo)が良いという印象は家で聴いていたときと変わらず、チェロの響きが美しく、また情熱的だった。

〇G.Ph.テレマン / 2つのヴィオラのための協奏曲 ト長調 TWV52

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力業のドラマをフランス趣味で彩って(クロード・ルルーシュ『遠い日の家族』感想文)

力業のドラマをフランス趣味で彩って(クロード・ルルーシュ『遠い日の家族』感想文)

 第二次世界大戦、ヴィシー政権下のフランスにおけるユダヤ人一家の受難と、その背景にある人間模様が主題。主人公のうら若きサロメ・レルネルは、ピアニストである兄のサロモンを愛し、家族とパリで温かい暮らしを送っていた。しかし或る日、アパートの管理人による密告を理由に、一家ともども、父親の友人であるリヴェールの住む田舎町に疎開する。リヴェール家の一人息子であるヴァンサンの執着的な片思いを不気味に感じながら

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丸谷才一『文章読本』における修辞技法(レトリック)の分類表(丸谷才一『文章読本』読書メモ)

丸谷才一『文章読本』における修辞技法(レトリック)の分類表(丸谷才一『文章読本』読書メモ)

(2023/6/9 更新:ファイルの内容を一部変更しました。)

丸谷才一『文章読本』の「第九章 文体とレトリック」では、「隠喩(メタファー)」や「直喩(シミリー)」といった一般的なものから、「パリソン」等の普段は目にしないものまで、結構な量の修辞技法(レトリック)が紹介されています。丸谷はそれらを非常にわかりやすく説明してくれているのですが、私はふと思いました、「これらを分類し整理すれば、各々が

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私はハルキストにはなれない(村上春樹『ドライブ・マイ・カー』感想文)

私はハルキストにはなれない(村上春樹『ドライブ・マイ・カー』感想文)

 村上春樹『ドライブ・マイ・カー』(文春文庫『女のいない男たち』所収)読了。本作は男の女に対する捉え方を扱った作品であり、それが三層で形成されているように思われる。女への神聖視が中核にあって、それを表層の方では取り澄まして一見洒脱でさえあるように装い、反対側、つまり深層では「詰まるところ、男の人生においてそれは捉えどころのない儚い夢だよ」と諦念してみせる。前者はまあ見え透いた飾りつけと言って差し支

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