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3分で読める小説

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1〜3分で読める!〜1800字以内の創作小説
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#短編

【1話完結小説】通販

【1話完結小説】通販

通販で何でも買える時代になった。友達、恋人、内定、大義名分。高くても1万円程度だから気軽にポチっちゃうよな。周りより少しでも幸せでいたいから毎日ポチるんだ。ポチらないと不安なんだ。新商品チェックも欠かせない。こういうのがなかった時代の人達は不幸だよな。ポチポチポチ。

…電話が鳴ってる。
ポチった友達と恋人からだ。煩わしいな。今ポチるのに忙しいんだ。

…また電話が鳴ってる。内定先の企業からだ。ど

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【1話完結小説】事務員

【1話完結小説】事務員

カタカタカタ…

PCシステムに次々と指定された内容を入力していく。顧客ごとに細かい仕様変更があるので地味にめんどくさい。
朝から延々この作業をこなし、すでに110件目の入力完了だ。勤務時間中ひたすらこんな事を繰り返していると、まるで自分がAIになったような気がしてくる。
その仕事に私の意思はなく、ただひたすら上司の指示に従って入力しているだけの文字や数字。感情なんてものは無用の長物で、求められる

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【1話完結小説】140字の向こう側

【1話完結小説】140字の向こう側

「140字で紡げる物語なんてたかが知れてる!限界だ!もう、このジャンルは限界なんだよ!」
トーマは突然悲痛な叫び声をあげその場に崩れ落ちた。
「150字じゃダメなんですか?160だと不都合あるんですか!?」
頭を抱えながらブツブツ呟き続けているトーマは、Twitterの創作アカウントですでに300以上の140字小説を発表していたが全くもって鳴かず飛ばずであった。
俺は震える彼の肩に手を置いた。

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【1話完結小説】セクシー美女になりたい

【1話完結小説】セクシー美女になりたい

もしも願いが叶うならセクシー美女になりたい。
好みの服に身を包み、毎日男に言い寄られ、その日の気分で遊び相手を取っ替え引っ替え。しかし「本当の私を見てくれる人はどこにもいない」と心には常に冷めた風が吹いていた。最終的に選んだ男は胡散臭いがカリスマ性のあるIT社長で「この人だけが私の真の理解者だ」と半ば洗脳されつつのモラハラ奥様ライフ。我に返り離婚成立した時には美貌のピークもとうに過ぎていた。外見に

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【1話完結小説】良い母親

【1話完結小説】良い母親

子供を持ってからずっと、「良い母親」の影が私を執拗に追ってくる。

そいつは時に私の母親の顔だったり、近所のママ友の顔だったり、情報番組のコメンテーターの顔で私をじっとりと見つめてくるのだった。
私が子育てで何か失敗をする度に、「昔の母親はもっと我慢強かった」「そんな接し方じゃ全然言うこと聞かないでしょ」「最近のお母さんは孤立しがちだから地域コミュニティをもっと活用すべきですね」としたり顔でまくし

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【1話完結小説】Trick or Treat or …

【1話完結小説】Trick or Treat or …

気だるい仕事帰り。僕はホームセンターに寄ってからいつもより少し遅い時間に最寄駅に降り立った。ライトアップされた駅前通りは浮かれた若者達の仮装行列でごった返している。今日はハロウィン。いつからこんな得体の知れない行事が市民権を得たのだろう。何が楽しいのかちっとも分からない、最低最悪の日だ。

若者達に圧倒されつつ駅前通りを抜け、ふらふらと住宅街に辿り着く。さすがにここまで来ると、ハロウィンの喧騒が嘘

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【1話完結小説】西瓜人生

【1話完結小説】西瓜人生

僕の人生は、まるで種の多い西瓜を食っているようだと思う。思い切り楽しみたくても、口中で種を選り分けるのに手一杯。そしていくら慎重にやっても失敗して、時にガリリと固くて苦い種を噛まされてしまう。そんなことの繰り返しだ。

そして最近、僕はもっとショックなことに気付いてしまった。周りの奴らをよく見れば、そもそも西瓜じゃなく苺やメロンを手にして優雅に食っているじゃあないか。奴らは種のことなど気にせずに思

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【1話完結小説】蝉

【1話完結小説】蝉

毎年夏になると蝉の鳴き声がして、「ああ夏が来たな」なんてぼんやり思うものだが、今年の蝉の声は少し違った。

「ほらほら夏が始まるよ!なんでもできる夏が始まるよ!君がその気になればなんだってできる夏がさ!いつまでも暗い部屋にこもってないで早く家から飛び出そうよ!僕らもずっと暗い土の中にいたから分かるんだけどさ、やっぱり明るくて広い外はサイコーなんだぜ!好き好んでそんな暗い部屋にずっといるヤツの気がし

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【1話完結小説】どうもこうも押すよね

【1話完結小説】どうもこうも押すよね

リセットボタンがあれば君は押すかな
口うるさくて面白みのない両親
君にレッテルを貼る先生
偉そうに上から目線の友達
君を縛り付ける窮屈な世界の中で

リセットボタンがあれば君は押すかな
愛に溢れた理解ある両親
君の個性を認めてくれる先生
助け合える優しい友達
君が毎日笑ってる世界を求めて

リセットボタンがここにあるけど
君はどうする?
もし押すのなら君は目の前の僕も
消すことになるんだ
君がどう

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【1話完結小説】線路

僕が幼稚園の頃から、家の前ではずっと工事が行われていたが、小学五年生になった春、ついにピカピカの線路が完成した。
近所のおばさんは「いくら迷惑料を貰っても、うるさくなるのは困るわよねぇ」とぶつぶつ文句を言っていたけれど、僕は内心ワクワクしている。
フェンス越しに真新しいレールを見つめた。「おでこに金網の跡がついてるよ」と後でお母さんに言われるくらいに張り付いてじっと見つめた。一体どんな最新型の新幹

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【1話完結小説】原因

【1話完結小説】原因

問題解決のために原因を探究することは面白い。知的好奇心というやつだ。
原因を見つければ自ずと対処法も考えつくだろう。

俺は自分の部屋のあちこちを探しまわる。
そしてついに。

「…みつけた」

叔父さんから入学祝いに貰った分厚い国語辞典。春から開きもせず秋までずっと放置していたそのページの間に、小さな呪符が一枚。

これが最近俺の周りで起こる不幸の原因に違いない。原因がはっきりすると途端に目の前

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【1話完結小説】記憶に無いおつかい

【1話完結小説】記憶に無いおつかい

「あんたは小さい頃“は◯めてのおつかい”に出たことあるのよ。」

 そう言いながら一度もその時の映像を見せてくれたことのない両親は、俺が20になった年に交通事故で死んだ。
 葬式も終わり、両親の部屋の片付けをしていると“は◯めてのおつかい”と書かれたDVDが出てきた。

「ああこれか。言ってたことは本当だったんだな。」

 特に興味もなかったが、何の気無しに再生してみる。例の音楽と共にVTRが始ま

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【1話完結小説】自慢の息子

【1話完結小説】自慢の息子

「うっせぇクソババア!」

 反抗期を迎えた息子が叫ぶ。私は一瞬固まり、そして目の前が真っ暗になった。

 幼少期から性格も穏やかで優しく、自慢の息子だった。運動神経も良かった。当然頭も良かった。芸術的センスも持ち合わせ、親バカながら将来が楽しみだった。

 だから彼が吐いた陳腐な言い回しに心底ガッカリしたのだ。

「もっと自分の言葉で!魂の底の底から湧き出す想いを貴方なりに掬い取るの!そのドロド

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【1話完結小説】階下のベランダ

【1話完結小説】階下のベランダ

 マンション下階のベランダ、そのピンチハンガーに干された女物の下着を上から覗く。

 タオルでうまく四方を囲って隠しているが、上からの視線は想定していないだろう。俺は上階の者の特権を存分に行使していた。

 しかしある日以降、ピンチハンガーには下着ではなく干からびた生首が吊るされている。ピンクや花柄のタオルに囲まれたその真ん中で、だらしなく口を開いた生首が揺れる。

 なんだこれは。通報したいが覗

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