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映画解釈・考察

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#哲学

【漫画解釈/考察】藤本タツキ『ルックバック』と「引きこもりとイマジナリーフレンドの物語として読む」【映画解釈/考察】

【漫画解釈/考察】藤本タツキ『ルックバック』と「引きこもりとイマジナリーフレンドの物語として読む」【映画解釈/考察】

『ルックバック』藤本タツキ
『さよなら絵梨』藤本タツキ
『ブルーアワーにぶっ飛ばせ』監督 箱田優子
『ボクのエリ 200歳の少女』監督トーマス・アルフレッドソン

※この記事は、ネタバレを含みます。原作漫画を先に読むことを、お勧めします。

『さよなら絵梨』と『ルックバック』の共通点

『さよなら絵梨』は、『ルックバック』に続いて、「少年ジャンプ+」上に無料公開された短編の読み切り漫画です。両作品

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【映画解釈/考察】『アンダー・ザ・シルバーレイク』 「『裏窓』と複製されたハイパーリアルで愛を待つ地上の人々」

【映画解釈/考察】『アンダー・ザ・シルバーレイク』 「『裏窓』と複製されたハイパーリアルで愛を待つ地上の人々」

『アンダー・ザ・シルバーレイク』
『マルホランド・ドライブ』
『裏窓』
『インヒアレント・ヴァイス』

"鬼才"デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督2000年以降に台頭してきた“鬼才”と呼ばれる新進気鋭の監督として、デンマーク出身のニコラス・ウィンディング・レフン、 イギリス出身のエドガー・ライト、イタリアのマッテオ・ガローネ、ギリシャ出身のヨルゴス・ランティモスなどが挙げられますが、そのような監

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【映画解釈/考察】『寝ても覚めても』/『ドライブ・マイ・カー』「不条理な世界の存在として、それでも言葉の世界で生きようとする者たち」

【映画解釈/考察】『寝ても覚めても』/『ドライブ・マイ・カー』「不条理な世界の存在として、それでも言葉の世界で生きようとする者たち」

『寝ても覚めても』(2018)濱口竜介監督
『ドライブ・マイ・カー』(2021)濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』を扱った以前の記事で、『ドライブ・マイ・カー』は、不条理な世界を認めざるを得ない一方で、それでも言葉による新たな物語を創出して生きていく人々を描いた物語であるという解釈をしました。

 そして、『ドライブ・マイ・カー』を見た後、再度、『寝ても覚めても』を見返してみると、非常に多くの共

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【映画解釈/考察】黒沢清監督『CURE』「秘密の部屋(エス)の存在を自我に認めさせるCURE(癒し)」

【映画解釈/考察】黒沢清監督『CURE』「秘密の部屋(エス)の存在を自我に認めさせるCURE(癒し)」

『CURE』(1997)
『クリーピー 偽りの隣人』(2016)
『カリスマ』(1999)
『殺人の追憶』(2003)ポン・ジュノ監督

黒沢清監督と言えば、普段私たちが、意識していない存在を、見事に、顕在化させる精緻な脚本が特徴的です。今回は、そのような作品の中から、代表作の一つである『CURE』を考察します。

『CURE』のプロットとリンクする童話『青髭』冒頭、女優の中川安奈さんが演じる高部

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【映画解釈/考察】『ドライブ・マイ・カー』『ロスト・ドーター』「不条理演劇と記号的他者を通した物語的自己同一性による癒し」

【映画解釈/考察】『ドライブ・マイ・カー』『ロスト・ドーター』「不条理演劇と記号的他者を通した物語的自己同一性による癒し」

『ロスト・ドーター』(2021)マギー・ギレンホール監督
『ドライブ・マイ・カー』(2021)濱口竜介監督


今回は、アカデミー賞2022脚色賞にノミネートされた2作品について考察を行います。

1 不条理演劇と実存主義『ロスト・ドーター』は、エスリンの不条理演劇の言葉がはっきりと映画の中に出てきますが、『ロスト・ドーター』のストーリーの構成自体が、不条理演劇そのものになっています。突然安ら

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【映画解釈/考察】スティーブン・ソダーバーグ監督『セックスと嘘とビデオテープ』「女の虚像に囚われた男と、視線の反転による開放」

【映画解釈/考察】スティーブン・ソダーバーグ監督『セックスと嘘とビデオテープ』「女の虚像に囚われた男と、視線の反転による開放」

『セックスと嘘とビデオテープ』(1989)

1.スティーブン・ソダーバーグ監督の映画作家としての凄み スティーブン・ソダーバーグ監督の長編映画デビュー作にしてカンヌ国際映画祭パルムドール受賞作でもある『セックスと嘘とビデオテープ』は、刺激的で挑発的なタイトルとは対照的に、男女関係を哲学的に捉えた、論理的なストーリーが展開されるプラトニックで、精神分析的な作品です。

 そして、この作品だけで、

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【映画解釈/考察】レオス・カラックス監督『ホーリー・モーターズ』(2012)「"眼差し"と"演じる"ことから逃れられない人間たちを、"映画館"に運ぶホーリー・モーターズ(レオス・カラックス監督)」

【映画解釈/考察】レオス・カラックス監督『ホーリー・モーターズ』(2012)「"眼差し"と"演じる"ことから逃れられない人間たちを、"映画館"に運ぶホーリー・モーターズ(レオス・カラックス監督)」

『ホーリー・モーターズ』(2012) レオス・カラックス監督
『ミスター・ロンリー』(2007) ハーモニー・コリン監督
『TOKYO!』(2008) オムニバス映画
『アネット』(2021) レオス・カラックス監督

『ホーリー・モーターズ』の寓話性と疑問点の整理
『ホーリー・モーターズ』は、2012 年(日本では 2013 年)に、レオス・カラックス監督の長編映画としては『ポーラ X』(19

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【映画解釈/考察】『her/世界でひとつの彼女』「スパイク・ジョーンズに見る間主観性の哲学と開かれた世界の贈与としての愛」

【映画解釈/考察】『her/世界でひとつの彼女』「スパイク・ジョーンズに見る間主観性の哲学と開かれた世界の贈与としての愛」

『her/世界でひとつの彼女』(2013) スパイク・ジョーンズ

スパイク・ジョーンズ監督・脚本の『her/世界でひとつの彼女』は、個人的に2010年代の最も好きな映画の1つで、映画の脚本の内容が、大胆、かつ巧妙に構成されています。

もちろん長編映画デビュー作の『マルコヴィッチの穴』は、1990年代を代表するような傑作映画だったわけですが、どうしてもチャーリー・カウフマンの作品というラ

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【映画解釈/考察】『マトリックス』三部作 「シミュラークル(システム)におけるネオ(人間)とサティ(AI)の存在」

【映画解釈/考察】『マトリックス』三部作 「シミュラークル(システム)におけるネオ(人間)とサティ(AI)の存在」

『マトリックス』(1999)『マトリックス リローデッド』(2003)『マトリックス レボリューションズ』(2003) 監督 ウォシャウスキー姉妹
約20年ぶりに続編が制作されているウォシャウスキー姉妹の『マトリックス』は、脚本が本当によく練られており、人文哲学、人工知能、プログラム、システム論など多岐の分野にわたり思索に富んだ作品になっており、多くの解釈ができる作品です。ただ、どうしても、そ

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【映画解釈/考察】『インヒアレント・ヴァイス』(2014)  「相対する二つのインヒアレント・ヴァイス(内的欠陥)と主人公(ヒーロー)の存在」

【映画解釈/考察】『インヒアレント・ヴァイス』(2014) 「相対する二つのインヒアレント・ヴァイス(内的欠陥)と主人公(ヒーロー)の存在」

『インヒアレント・ヴァイス』(2014) ポール・トーマス・アンダーソン監督

『インヒアレント・ヴァイス』は、アメリカを代表する現代小説作家トマス・ピンチョンの同名小説(2009 邦題『LAヴァイス』)を原作としたポール・トーマス・アンダーソン監督作品です。個人的に2010年代のBEST映画の一本なのですが、この作品を推す理由としては、二つあります。主人公のキャラクターと脚本の構成です。

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【映画解釈/考察】『コーヒーをめぐる冒険』(2012) 「現代ドイツとコーヒーをめぐる冒険の先にあるニコの違和感の正体」

【映画解釈/考察】『コーヒーをめぐる冒険』(2012) 「現代ドイツとコーヒーをめぐる冒険の先にあるニコの違和感の正体」

『コーヒーをめぐる冒険』(2012) ヤン・オーレ・ゲルスター監督

『コーヒーをめぐる冒険』は、ヤン・オーレ・ゲルスター初監督作品で、ドイツアカデミー賞の監督賞、脚本賞、主演男優賞などを獲得した2012年のドイツ映画です。

村上春樹の『羊をめぐる冒険』に似た邦題がつけられた本作は、90分の尺で、コンパクトな映画ですが、全編モノクロで、映画好きな人を確実に魅せるためのエッセンスが凝縮されて

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【映画解釈/考察】Netflixアニメーション映画『失くした体』(2019)「メルロ=ポンティの身体図式と身体と世界の共感」

【映画解釈/考察】Netflixアニメーション映画『失くした体』(2019)「メルロ=ポンティの身体図式と身体と世界の共感」

『失くした体』(2019) ジェレミー・クラパン監督
 本作は、Netflixが世界配信するフランスのアニメーション映画です。カンヌ国際映画の国際批評家週間で賞を獲得し、またアカデミー賞長編アニメーション部門にノミネートされました。

この映画の原作小説の作者は、『アメリ』の脚本を担当したギョーム・ローランで、本作でもジェレミー・クラパン監督と共同で脚本のクレジットがされています。

特に

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【映画解釈/考察】『エクス・マキナ』アレックス・ガーランド監督(2015)/『チャッピー』 (2015)「映画にみるAIの意識と人間の心 」(心の哲学)

【映画解釈/考察】『エクス・マキナ』アレックス・ガーランド監督(2015)/『チャッピー』 (2015)「映画にみるAIの意識と人間の心 」(心の哲学)

『エクス・マキナ』(2015) アレックス・ガーランド監督 「エクス・マキナ」は、アレックス・ガーランド監督作品で、2015年のイギリス映画です。アレックス・ガーランド監督は、ダニー・ボイル監督作『28日後...』『サンシャイン2057』の脚本や同監督の『ザ・ビーチ』の原作者として有名で、本作が初監督作品です。 本作でも、脚本も担当しています。製作会社も、上記作品同様『トレインスポッティング2』の

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【映画解釈/考察】『アメリ』(2001) 「ルノワールの絵画とフーコーの〈類似〉→〈表象〉→〈人間〉(アメリの視線の先とアメリの存在が街に浮かび上がる特異点 ) 」

【映画解釈/考察】『アメリ』(2001) 「ルノワールの絵画とフーコーの〈類似〉→〈表象〉→〈人間〉(アメリの視線の先とアメリの存在が街に浮かび上がる特異点 ) 」

『アメリ』(2001) ジャン=ピエール・ジュネ監督
本作は、『デリカテッセン』『ロスト・チルドレン』のジャン=ピエール・ジュネ監督のラブストーリーです。

公開当時は、ブラックユーモアとダークファンタジー色が強い前作2つのイメージとは少し違い、肩透かしを食らった感じでしたが、本作も芸術的な完成度が高いエンターテイメント作品なっています。

もちろん、本作で一躍、世界的に有名になったオード

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