青森で、祈祷師をしています。 祈祷師暮らしのエッセイ、神様や精霊、幽霊から聞いた話を物…

青森で、祈祷師をしています。 祈祷師暮らしのエッセイ、神様や精霊、幽霊から聞いた話を物語にしています。 『今日もいち日、かみさま日和』https://ameblo.jp/roxizy/には、書ききれなかったお話ばかりです。 祈祷師の日常や、不思議な話をお楽しみください!

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神様好きのいわれ少々と処女作

私はずいぶん、疑り深い。 石橋を叩いて、叩いて、叩き壊したあげく、 「橋が壊れちゃ仕方あるまい。」 壊れた橋の袂で、次の橋を探す。 間違っても、 「橋がなければ作る…

橘
2年前
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疫病神-肆-

「誰も私を助けてくれない! 皆、自分勝手に私を使って面白がって、自分勝手に私から離れて行く。 私の人生、こんな事ばっかり。 いつも自分勝手な人間に、私ばっかり振…

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橘
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疫病神-その参-

『例えば、お前さんが三日前に批判した龍神使い。 あの男は、お前さんのブログのせいで、家から出られなくなっている。 このまま鬱々とし続けりゃ、病院のご厄介になる事…

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橘
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疫病神-その弐-

でもそんな香織に対し、「あなたそれ、間違ってますよ?」と教えてくれる人はいない。 そればかりか、意見を同じくする人も沢山集まってきて、香織には友達まで出来た。 …

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橘
1年前
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🌸疫病神-その壱-

「あぁもう,つまらない。生きてる気がしない。私の空しさなんて、誰も分かってくれやしない。いっそのこと、死んじゃおうかな。」 首吊りが良いか。 いつも飲んでいる薬…

橘
1年前
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🌸疫病神-まくら-

えー…誹謗中傷と言う言葉がございます。 昔は面と向かって「おい、そこの馬鹿!」「とんま!」と罵ろうもんなら、「やいやい!お前さん、それは誹謗中傷でぃ!」という事…

橘
1年前
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山に坐すもの-続・岩木山回顧録-

岩木山には、多くの神々が住まう。 そればかりか、仏様方も沢山お住まいである。 岩木山お山参詣で、山登る者達が口ずさむ祝詞を紹介しよう。 サイギ サイギ(懺悔 懺…

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橘
2年前
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🌸岩木山 回顧録-序文-

岩木山は、真っ白な霧に覆われていた。 スカイラインで山の8合目まで登り、そこからリフトで9合目を目指す。 「明日、暇だが?」 師匠に聞かれたのは、昨夜だった。別…

橘
2年前
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🌸『走れ、白狐。』

 どちらかと言えば、体が弱い。 医師からも、激しい運動は控えるよう言われている。 それなのに、走らねばならない。そんなこともある。  数年前。私がまだ、祈祷師では…

橘
2年前
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さらば、愛しき人よ-4500年越しの離婚-

前世というものがある。 この人生すら難儀しているというのに、私は懲りずに何度も生まれ変わっているらしい。 袖振り合うも他生の縁と言うが、人生の中ですれ違う人は…

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橘
2年前
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いつかの海辺にてー湊村 奇譚ー

 物寂しい、漁村だった。 ひっくり返った船の脇に、千切れた網や割れた木の板が転がっている。 ここはどこだろう。 辺りを見渡すと、湊村と看板があった。 知らない村…

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橘
2年前
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或る先導たち―三輪山 登拝記―

 旅に先導があるのは、心安まるものだ。 数年前、奈良へ行った。修行のためだ。 春日大社を詣で、神様やご神木と会話を交わし、 「明日、三輪山を登拝させていただきま…

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橘
2年前
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不思議な家に生まれつきまして候

思い返せば、不思議な家だった。 割烹料理屋を営む祖母の家には、神様がたくさんいた。 お稲荷様。龍神様。だるま様。弘法大師様。 天照大御神様と氏神様に加え、神棚…

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橘
2年前
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幻燈会の夜

私は祈祷師 橘。 これは、大ちゃんから聞いた話。 消防団の屯所につく頃、辺りはすっかり暗くなっていた。 息を整え、脱ぎ散らかされたゴム靴や下駄の隙間に何とか靴を…

橘
2年前
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神様好きのいわれ少々と処女作

神様好きのいわれ少々と処女作

私はずいぶん、疑り深い。
石橋を叩いて、叩いて、叩き壊したあげく、
「橋が壊れちゃ仕方あるまい。」
壊れた橋の袂で、次の橋を探す。

間違っても、
「橋がなければ作るか!」
こんな熱いパッションは持っていない。
道無き道を作ろうなんて、思ったこともない。

その私が、祈祷師になった。
齢三十と幾年。
他は知らないけれど、青森では若いほう。
つまり、三十路の祈祷師は道無き道だ。

祈祷師になる前は、

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疫病神-肆-

疫病神-肆-

「誰も私を助けてくれない!

皆、自分勝手に私を使って面白がって、自分勝手に私から離れて行く。

私の人生、こんな事ばっかり。

いつも自分勝手な人間に、私ばっかり振り回される。

どうして誰も私を助けてくれないの?

どうして私を分かって、傍にいてくれないのよ!」

『言ったろう?

お前さんの周りに集まってくる人間は、ぜぇんぶお前さんの鏡だって。』

老夫は優しく、香織を諭しました。

『お前

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疫病神-その参-

疫病神-その参-

『例えば、お前さんが三日前に批判した龍神使い。

あの男は、お前さんのブログのせいで、家から出られなくなっている。

このまま鬱々とし続けりゃ、病院のご厄介になる事もあるだろう。

お前さんが、ひと月前に責めた占い師はもっと酷い。

あの占い師は、ブログでお客を集め生計を立てていた。

コロナで失業。

自宅には、介護が必要な年寄りと、病気がちの幼い子どもがいる。

再就職先はなかなか見つからず、

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疫病神-その弐-

疫病神-その弐-

でもそんな香織に対し、「あなたそれ、間違ってますよ?」と教えてくれる人はいない。

そればかりか、意見を同じくする人も沢山集まってきて、香織には友達まで出来た。

こうなると、もう死ぬなんて思わない。

毎日が楽しくてしょうがない。

【スピリチュアルブームの中、多くの人が何の考えもなしに霊能者やスピリチュアーの言うことを妄信しています。

でも、香織さんのように勇気を持って異を唱えてくれる人がい

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🌸疫病神-その壱-

🌸疫病神-その壱-

「あぁもう,つまらない。生きてる気がしない。私の空しさなんて、誰も分かってくれやしない。いっそのこと、死んじゃおうかな。」

首吊りが良いか。

いつも飲んでいる薬を、一度にたくさん飲んだら楽に死ねるか。

あれやこれやと算段していると、ふとパソコンが目に入った。

この香織という女、暇さえあればネットばかり見ている。

「死ぬ前に、もう一回だけブログをやってみようかな。」

ブログと言うのは、イ

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🌸疫病神-まくら-

🌸疫病神-まくら-

えー…誹謗中傷と言う言葉がございます。

昔は面と向かって「おい、そこの馬鹿!」「とんま!」と罵ろうもんなら、「やいやい!お前さん、それは誹謗中傷でぃ!」という事になったものではございますが。

今は時代がとんと違う。

インターネット―とりわけSNSの世界は、とにかく複雑で分かりづらいものでございます。

うっかり特定の誰かをネガティブな言葉で表現しようものなら、どこからともなく警告が入る。

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山に坐すもの-続・岩木山回顧録-

山に坐すもの-続・岩木山回顧録-

岩木山には、多くの神々が住まう。

そればかりか、仏様方も沢山お住まいである。

岩木山お山参詣で、山登る者達が口ずさむ祝詞を紹介しよう。

サイギ サイギ(懺悔 懺悔)

ドッコイ サイギ(六根清浄)

オヤマハツダイ(お山八代)

コンゴウドウサ(金剛行者)

イーツニナノハイ(一々礼拝)

ナンキンミョウチョウライ(南無帰命頂礼)

( )内が訛った言葉を、登拝する行者達は口ずさむ。

余談

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🌸岩木山 回顧録-序文-

🌸岩木山 回顧録-序文-

岩木山は、真っ白な霧に覆われていた。

スカイラインで山の8合目まで登り、そこからリフトで9合目を目指す。

「明日、暇だが?」

師匠に聞かれたのは、昨夜だった。別段急ぎの用もなかったため、頷く。

「せば、明日迎えに行く。」

大きく頷き、師匠は目じりに皺を寄せて笑った。

 師匠一家は、どこか浮世離れしたところがある。

本人たちはいたって真面目なのだが、ちょっとしたところで常識からズレるの

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🌸『走れ、白狐。』

🌸『走れ、白狐。』

 どちらかと言えば、体が弱い。
医師からも、激しい運動は控えるよう言われている。
それなのに、走らねばならない。そんなこともある。

 数年前。私がまだ、祈祷師ではなかった頃の話。見える(だけ)子ちゃんだった時分のことだ。
旧青森駅の改札を抜け、連絡通路へ向かうエスカレーターに乗った。
ぴちぴちギャルだった私は、ハイヒールのロングブーツ。
ちらつき始めた雪をも恐れぬ格好で、ヒールの音高らかに闊

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さらば、愛しき人よ-4500年越しの離婚-

さらば、愛しき人よ-4500年越しの離婚-

前世というものがある。

この人生すら難儀しているというのに、私は懲りずに何度も生まれ変わっているらしい。

袖振り合うも他生の縁と言うが、人生の中ですれ違う人はたいてい前世でも出会っている。

彼と私もそうだった。

一番古い前世は、古代バビロニア。

私は琴弾きの男性で、彼は勝気な女性だった。

私は自然の中で四六時中琴を奏で、彼は人間に興味のない私に苛立っていた。

その次は古代

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いつかの海辺にてー湊村 奇譚ー

いつかの海辺にてー湊村 奇譚ー

 物寂しい、漁村だった。

ひっくり返った船の脇に、千切れた網や割れた木の板が転がっている。

ここはどこだろう。

辺りを見渡すと、湊村と看板があった。

知らない村だ。なぜ私はここにいる?

縁もゆかりもない村にぽつねんと立っている理由を考え、私は「あっ」と声をあげた。

 夜、父がお客を連れて帰ってきた。

ざっとみて、百人前後。当然、生きている人間ではない。

お客は総じてボロを纏い、裸足

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或る先導たち―三輪山 登拝記―

或る先導たち―三輪山 登拝記―

 旅に先導があるのは、心安まるものだ。

数年前、奈良へ行った。修行のためだ。

春日大社を詣で、神様やご神木と会話を交わし、

「明日、三輪山を登拝させていただきます。」

登拝の無事をお願いした。

地図はあるものの、初めての三輪山である。

加えて、御年六十うん歳の母も共に登る。

登拝の途中、母がくたびれやしないか。怪我はないか。

山中で迷い、遭難したらどうしよう。

不安要素はたくさん

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不思議な家に生まれつきまして候

不思議な家に生まれつきまして候

思い返せば、不思議な家だった。

割烹料理屋を営む祖母の家には、神様がたくさんいた。

お稲荷様。龍神様。だるま様。弘法大師様。

天照大御神様と氏神様に加え、神棚はたいそう混雑だったろう。

収まり切れなかった神様が、床の間にまで進出する始末である。

 床の間には、龍神様の掛け軸が掛けてあった。

この龍神様と私には、ひとかたならぬ縁がある。

 産後、母が私と床についていると、

ぴちゃ、

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幻燈会の夜

幻燈会の夜

私は祈祷師 橘。

これは、大ちゃんから聞いた話。

消防団の屯所につく頃、辺りはすっかり暗くなっていた。

息を整え、脱ぎ散らかされたゴム靴や下駄の隙間に何とか靴をねじ込む。

 今日は、幻燈会の夜だ。

うたた寝を過ごしたことを後悔していると、

「おぉい。」

二階から、青白い腕が手招きしていた。

 襖の外された部屋から、幻燈の青白い光が漏れている。

四畳半ほどの小部屋は、チビやのっぽの

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