見出し画像

山に坐すもの-続・岩木山回顧録-

岩木山には、多くの神々が住まう。

そればかりか、仏様方も沢山お住まいである。

岩木山お山参詣で、山登る者達が口ずさむ祝詞を紹介しよう。


サイギ サイギ(懺悔 懺悔)

ドッコイ サイギ(六根清浄)

オヤマハツダイ(お山八代)

コンゴウドウサ(金剛行者)

イーツニナノハイ(一々礼拝)

ナンキンミョウチョウライ(南無帰命頂礼)


( )内が訛った言葉を、登拝する行者達は口ずさむ。

余談だが、県外の人にはカタカナ部分が( )の言葉に聞こえないらしい。

言われてみれば、確かに聞こえない気もするが…県民としては、愛着のある津軽訛りが心落ち着く響きである。

この祝詞にあるお山八代は、観音様をはじめとする八仏を指している。

観音菩薩様、地蔵観音様、普賢菩薩様、不動明王様、弥勒菩薩様、虚空蔵菩薩様、金剛夜叉明王様、文殊菩薩様…。

山には他にもたくさんの神仏が坐すのだが…。

とにかく、神仏が文字通り山のように坐す山。

それが、霊峰 岩木山なのである。



この岩木山に、私は都合2度登っている。

とりわけ印象深かったのは、初回の登拝だ。

イタコ修行中の姉弟子と兄弟子、師匠と共に山頂にある奥宮を目指して登った時の話である。

「ううう…」

目の前を歩いていた姉弟子が、低い声で唸っている。

どうしたのか尋ねると、

「肩が痛い。背中が重い。絶対、何か拾ったと思う。」

姉弟子は、身体が痛くて歩行スピードが出せないことを謝罪した。

確かに彼女の背中には、レトロな登山服を着た若者がへばりついている。

レトロな登山者は凝視する私をちらっと見て、再び姉弟子の背中にぎゅうとしがみついた。

幽霊は目が合うと寄ってくるのだが、どうやらこの死者は私より姉弟子が好みらしい。

イタコは死者の霊を身体に乗り移させ、霊たちに代わって語る。

この姉弟子も、幽霊を身体に降ろすとまぁ面白いように語るのである。

ここから先は

2,046字

¥ 300

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?