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神様好きのいわれ少々と処女作

私はずいぶん、疑り深い。
石橋を叩いて、叩いて、叩き壊したあげく、
「橋が壊れちゃ仕方あるまい。」
壊れた橋の袂で、次の橋を探す。

間違っても、
「橋がなければ作るか!」
こんな熱いパッションは持っていない。
道無き道を作ろうなんて、思ったこともない。

その私が、祈祷師になった。
齢三十と幾年。
他は知らないけれど、青森では若いほう。
つまり、三十路の祈祷師は道無き道だ。


祈祷師になる前は、至極現実的な仕事をしていた。
学歴もそこそこで、黙って働いていれば食いはぐれることもない人生だったろう。

しかし、それが祈祷師。
Why?なぜに?
矢沢永吉ではないが、マジで誰かに聞きたい。

あまりに納得が行かないので、祈祷師は神様に聞いた。

「神様!どうして私は祈祷師になる羽目になったんですか?」

神様はふむふむ質問を聞き、

なる羽目になったのではありません。なる予定だったんです。」

微笑みながら教えてくれた。


予定...予定かぁ。
それなら仕方がない。
一体いつ組んだ予定なのか、さっぱり思い出せないけれど。


でもきっと。

神社仏閣で出会う存在も。
山歩きでふと見かけた精霊たちも。
目を見張るほど大きな龍神様も。
傍でお昼寝したくなるくらい、安心感のある仏様たちも。
ラフに会話できる幽霊さん達も。

彼らとの対話は面白くて楽しくて、喜びに満ちている。

生きるって何か。
愛おしいって何か。

姿かたちを持たない彼らを通せば、世界は朝露に映る光のように新鮮な感情に溢れている。

好き。
そう、好きなんだ。
私は彼らのことが。

そんな訳で。
忘れてしまった計画通り、私は祈祷師をやっている。
覚えていないんだけど、ここに伝聞録を記すのもたぶん計画のうちなんだろうなぁ。



祈祷師 橘。
どうぞよろしく。



大好きな泉鏡花先生に、敬意を称して。

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