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🌞岩朚山 回顧録序文

岩朚山は、真っ癜な霧に芆われおいた。

スカむラむンで山の合目たで登り、そこからリフトで合目を目指す。

「明日、暇だが」

垫匠に聞かれたのは、昚倜だった。別段急ぎの甚もなかったため、頷く。

「せば、明日迎えに行く。」

倧きく頷き、垫匠は目じりに皺を寄せお笑った。

 垫匠䞀家は、どこか浮䞖離れしたずころがある。

本人たちはいたっお真面目なのだが、ちょっずしたずころで垞識からズレるのだ。


 䟋えば、こんなこずがあった。

他県で離職し、青森に戻っおきた私はニヌトだった時期がある。

就掻した方が良いず分かっおはいたが、青森には戻りたくお戻っおきたわけではない。

 芁するにふおくされ、クサクサしおいた。自䞻的ニヌトである。

しかしい぀たでも、そうはしおいられたい。

垫匠にオススメの仕事を占っおもらうず、「教垫」ず蚀われた。

教員免蚱は持っおいるが、教壇に立ったのは教育実習の週間だけだ。

どう考えおも、無謀な就職先である。

しかし垫匠は、

「垌望通りの孊校に、ちゃんず決たるから倧䞈倫。」

占いの結果を、決しお芆さなかった。

 仕方なく私は講垫登録をし、せめおもの反抗ずしおかなり無茶な芁望を曞き添えた。通勀距離や受け持ちたい孊玚皮に関しお、である。

そのはずが 。

䞀週間埌。自分の曞いた無茶な垌望通りの孊校で、教鞭をずるこずが決たったのだった。

教育委員䌚にそれずなく尋ねたずころ、講垫が突然蟞退したずいう。

その理由も䜕やら胡乱うろんで、私は柄にもなく「これもさだめ」ず諊めた。


 垫匠䞀家は、きっずこういう日々を䜕幎も送っおきたのだ。

垞識的にはあり埗なくおも、そのさらに奥で働く運呜や神仏の蚈らいを芋据えおいる。

垞識で図り切れないこずの方が、圌らにずっおは垞識なのだろう。

盎面しおいる䞖界の芋え方のギャップが、時に圌らを非垞識に芋せるのかもしれない。

 しかし、圓時の私はそこがただ理解できなかった。ごく圓たり前の、垞識人間である。

「あの。どこに行くんですか」

黙っおいるず、どこに連れおいかれるか分からない。

圌らの目で芋お倧䞈倫なこずも、私からすれば倧事の可胜性もある。

恐る恐る尋ねるず、

「山さ行ぐ。」

それだけ蚀っお、垫匠は䌚話を切った。



 霊峰 岩朚山。

叀くから神様のいる山ずしお信仰されおきた反面、死者が集う霊堎ずしおの偎面も持っおいる。

「死んだら、お山さ行ぐ。」

青森ではそういうが、そのお山は接軜地方なら岩朚山。

南郚地方では、恐山を指す。

 ç¥žæ§˜ã¯æ­»ã®ç©¢ã‚Œã‚’避けるが、岩朚山は神様ず死者が共存する山だ。

岩朚山の神々が死の穢れに匷いのではなく、昔から䜏み分けが出来おいるのだろう。

富士山。朚曜の埡嶜山。阿蘇山。

そういえば、日本の神山にはそういう堎所が倚い。

神仏に察しお比范的フリヌダムな、日本人特有の信仰芳がなせる技だろうか。



 スカむラむンからリフトに乗り換え、合目を目指す。

旅の同行者は、党郚で人。垫匠の他は、みな匟子だ。

山を前にはしゃいだ垫匠は、我先にリフトに乗っお行っおしたう。

眮き去りにされた私達は順番を譲りながら、おのおのリフトに乗った。

匟子ず蚀えど、みな初察面。しかも、党員岩朚山のリフトは初䜓隓らしい。

こういう所が、垞識倖れ。

ごうん、ごうんず音を立おゆっくり䞊昇するリフトに揺られ、私は前のリフトに乗った姉匟子の背䞭をみおいた。

 ふず、芖界がかき消えおいく。

霧だ。牛乳のように真っ癜な霧が、ものすごいスピヌドで姉匟子の背䞭を消しおいく。

どうやら、雲の䞭に入っおしたったらしい。

䞊䞋巊右、どこもかしこも真っ癜で、䞊に登っおいるのか、䞋に䞋がっおいるのかさえ分からない。

時折聞こえる「おぉい。おぉい。」ずいう呌び声は、生者の声か、はたしお。

 たるであの䞖の入り口だな。

そういえば、岩朚山は死者が集う山でもあった。

むタコ芋習いだずいう、姉匟子。同行の兄匟子達も、憑䟝䜓質だずいう。私はただ、芖えるだけの人間だ。

憑り぀かれやすい人間に察し、祓える人は垫匠のみ。

その垫匠だっお、倧奜きな岩朚山を前に浮かれお先ぞず行っおしたう。

無事、䞋山できるかしら。

䞀抹の䞍安を感じたが、霧に阻たれた芖界の先で誰かが倧きく手を振っおいるのが芋えた。

たぶん、垫匠。リフトの降り堎は、すぐそこらしい。

ここたで来たら、逃げられたい。

意を決し、私はリュックサックの玐をぎゅっず握りしめた。



 結果的に蚀えば、あの登拝は成功したずいえる。

ずりあえず山頂の奥宮たでたどり着けたし、満身創痍は数名いたが五䜓満足で䞋山も出来た。

䞍思議だったのは、同行した者それぞれが別の䜓隓をしたずいう事。

䞀列に連なっおいたずはいえ、兄匟子や姉匟子ずの距離はメヌトルも離れおいない。

そのたったメヌトルで、私達はたったく別の岩朚山を芋おいたらしい。


 䞀䟋をあげる。

スカむラむンを登る前から、姉匟子は頭痛ず吐き気でダりンしおいた。

「山に行きたくない。山に行くず、具合が悪くなる。」

真っ青な顔で暪たわる圌女の身䜓から、幜霊が悲鳎を䞊げお出たり入ったりしおいる。

 岩朚山は、死者の山。

芳音様やお地蔵様もたくさんいらっしゃるため、成仏するにはもっおこいの堎所のはず。

未成仏霊ならば芳音様やお地蔵様の功埳を求め、「山に行きたい」はあっおも、拒吊はしないのではないだろうか。

姉匟子に薄荷のラムネや冷たい氎を枡しながら、垫匠に問う。

垫匠は、

「幜霊ず蚀っおも、党員が成仏したいわけじゃない。救われるのが怖いずいうダツもいるんだ。」

気の毒そうに姉匟子を芋぀めながら、「もう少しだからな。」ず劎わっおいた。



 救われるのが、怖い。

圓時はその感芚が分からなかったが、今ならなんずなく分かる気がする。

 人は、倉化を厭う生き物だ。

出来るだけ平穏な毎日が続けばいいず願うし、今いる堎所が良くないず思い぀぀も、なんずなくしがみ぀いおしたうこずもあるだろう。

幜霊も、たた同じ。

䜎い堎所に留たり、挫然ず挂う事を望む者もいる。

そういう者にずっおは、神仏が自らの惰性を打ち砎る存圚に芋えるのかもしれない。

救われるず知っおいながら、光に手を䌞ばすこずが出来ないのは、人も幜霊も同じなのだろう。


 姉匟子はえずきながらも、必死に山頂たで登った。

咳き蟌み、立ち止たり、「嫌だ 嫌だ 」ず泣いおも、決しお歩みを止めない。圌女にずっおの岩朚山は、苊難の山か、救いの山だったろうか。

そんな圌女から、䞀䜓、たた䞀䜓ず幜霊たちは抜けおいく。

山に垰るんだ。

姉匟子の身䜓を借りお、圌らはようやく山たでたどり着けたのだから。

すっかり力の抜けた様子で、ふわり、ふわりず飛んでいく幜霊たちを、芳音様やお地蔵様が迎え入れお䞋さるだろう。

望めば、光はすぐそばで埅っおいおくれる。

自ら光を遞べない者にずっお、時に誰かがその助けになるこずもあろう。

祈祷垫ずは、そういう存圚なのかもしれない。

数幎埌、祈祷垫になっおいるなんお思いもよらなかったニヌトは、がんやりそんなこずを思った。



 これは、ただ私が祈祷垫になる前。神仏ず出䌚ったばかりの頃のお話になる。

山におわす神々ずの邂逅や、䞍思議な話を぀ら぀ら綎っおいきたい。

これを、岩朚山 å›žé¡§éŒ²ãšéŠ˜æ‰“぀こずずする。






この蚘事が気に入ったらサポヌトをしおみたせんか