疫病神-その参-
『例えば、お前さんが三日前に批判した龍神使い。
あの男は、お前さんのブログのせいで、家から出られなくなっている。
このまま鬱々とし続けりゃ、病院のご厄介になる事もあるだろう。
お前さんが、ひと月前に責めた占い師はもっと酷い。
あの占い師は、ブログでお客を集め生計を立てていた。
コロナで失業。
自宅には、介護が必要な年寄りと、病気がちの幼い子どもがいる。
再就職先はなかなか見つからず、自宅で出来る占い家業で何とか暮らしていたわけだ。
それなのに、お前さんのせいで客足が落ちた。
介護費用や子どもの病院代どころか、来月の食費も心もとない有様になっている。
家賃が払えなくなったら、一家で路上生活か、あるいは車で生活するしかない。
だが、介護が必要な老人に車上生活なんざ無理だ。
だからと言って、施設に入れる金もねぇ。
家族の前では必死に明るく振舞っているが、占い師の脳裏には一家心中がちらついている。
お前さん、自分の言葉が誰かを殺すかもしれねぇ可能性を少しでも考えたことはあるかい。』
「あ、あったりまえじゃない!
私だって良い大人なんだから、人の気持ちくらい汲むわよ!」
嘘でございました。
ネット上で批判される側の気持ち?立場?
そんなの、想像したこともない。
パソコンの無機質な画面に映し出されるのは、いつだってきらきらしいスピリチュアー達の生活ばかり。
困った時には、龍神様や観音様がアドバイスをくれる。
望んだ未来を引き寄せて、人生が輝いている。
香織から見れば、彼らはいつだって富んでいる側の人間でございます。
豊かに富んでいるから、ネット上で赤の他人に優しい言葉や豊かなアドバイスを公開することが出来る。
だからこそ腹が立つし、羨ましい。
香織はそう思って、ハンケチを噛んでいたわけでございますな。
ですが、ネットの世界は玉石混合。
嘘も真も、ぐちゃぐちゃに混ざりあっております。
もちろん、真実を語る誠実なな御仁もいらっしゃいますが、人生を美しくデコって演出する方々も多い。
そして、その判別は全く難しい。
さらに、顔の見えないパソコンを通しての人間関係では、画面越しの人間の人生なんざこちらで想像するより他にない。
香織が想像したのは、精神を病むほど弱り切ったスピリチュアーや、一家心中を考えているスピリチュアーではなかったのでしょうなぁ。
そんな現実は、全くの想定外!ってなもので。
さて、香織は老父の言葉に冷や汗が止まらない。
私に非難された霊能者達が、痛い目をみたら「ざまぁみろ」とは思うけれど…。
胡散臭い霊能者や占い師を攻撃し、清々している自分の影で、誰かが路頭に迷ったり死ぬこともあるだなんて…。
『お前さんのやっていることは、正義かねぇ。』
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