よかぜ

山口県下関市出身。最終学歴中央大学法学部法律学科、65歳 、考古学調査員、横浜市在住。…

よかぜ

山口県下関市出身。最終学歴中央大学法学部法律学科、65歳 、考古学調査員、横浜市在住。 やりたいこと~ぼくを含む世界の成り立ちと行方を知ること。人間という生物を知ること。 詩や短歌、小説、批評文、様々な文章媒体を駆使して「今」に肉薄してみたい。ここで本気でやれるといいな。

マガジン

  • 現代詩

    現代詩をまとめています。

記事一覧

〈Love Song ソウル 2024〉

青灰色の海から せり上がってくる 丘から 見下ろせば 静かな入江を 囲繞する 釜山の ビル街の灯り 例えば 8月の海風は 一羽の鴎と ともに 君の 恋しい人の …

よかぜ
1か月前
1

〈追 憶〉

忘れられない思い出は 金の小箱に入れましょう 金の小箱に入れたなら 誰も知らない 満月の 静かな入江に 沈めましょう 忘れられない思い出は 銀の小箱に入れましょ…

よかぜ
1か月前
9

〈愛の発明〉

遺伝子の記憶は新しく もちろん人の世になって 生まれた ジュラ紀の大きな風に吹かれて 黄龍たちの影が、なだらかな さ緑の丘を 降りてゆく 沖積世の涼しい朝と夜の…

よかぜ
1か月前
3

〈7月の悲歌〉

夕刻 風が落ちて 天空を占拠する 紅(くれない) 上は 羽根を持つものの 下は 多足のものの 王国 はるか銀河にかかる 昔日の虹を 栄光のように 勘違いした こと…

よかぜ
2か月前
5

〈皐月夢想〉

名残の桜が散って 遠山(えんざん)から なだれる 青葉の裾を 五月の風がわたる 朝晩は まだ冷える 列島の春の ゴールデンの 市井の四井から 匂いたつ フェミニン…

よかぜ
4か月前
6

詩 〈水彩  壱〉

青色インクを 零したら 夜になった 晴朗な 西の国の 砂浜に 南風(はえ)が吹いて 今宵の星空は きっと 世界の果てまで 広がっている たとえば? たとえば 誰も…

よかぜ
6か月前
5

書評【市川沙央〈ハンチバック〉再読】

 本日、障害者の安楽死問題に関わるニュースを観ていて、以前、読んだ市川沙央の芥川賞受賞作 〈ハンチバック〉を再読してみた。ひょっとしたら読み違えているかと危惧し…

よかぜ
6か月前
7

詩 〈泳人 壱〉

アフリカから Asiaへの十万里 黎明の沖を 泳ぐひと 抜手を切って マゼランの 喜望峰を 回りこむ 彼女の滑らかな 水をはじく 背中から 昇る朝陽 広大なブルーグ…

よかぜ
6か月前
6

詩 〈往 還〉

すぅーっと降りてったら 足がついた その時から すべての 生き物に 気を配った 濡れたり乾いたりする きなりの膚を 彩る 赤や緑や黄色の カビさえ 愛しかった …

よかぜ
6か月前
4

詩 〈風 野〉

春が来る前に もう若い色がついている 陶器の白い肌には 緑の葉脈が透けてみえる 谷をわたる 風の天涯は 真っ青 いやむしろ 眩む群青か 宿命のように 生きてきた…

よかぜ
6か月前
3

詩 〈25番目の春〉

夏に向かって 開く その肌への ぬるさ 曖昧な季節の 領域を 容認する時間 新助坂を 女の 足だけが 下ってゆく 地から沸いてくる 野太い読経の声に 唱和しなが…

よかぜ
7か月前
2

詩 〈後朝 壱〉

まだ 乱れたままの 床の上で 先の御門に 召還された 未明 起き上がった 女と男の その身体の先触れ 国学に 偏向する 明治の亀裂に 向かう 中心の穂先は まだ柔く ゆ…

よかぜ
7か月前
2

詩〈せいじん 壱〉

うずくのは 胸の奥所なのか それとも 鳩尾の切れ目なのか 下腹からせり上がってくる ものは押さえずともよい いずれ後継もなく 枯れ草のように 燃え落ちる身体なのだ …

よかぜ
7か月前
2

レイモンド・チャンドラー  「プレイバック」

 チャンドラーの最後の作品であり、翻訳の刊行を待たずに、訃報が出された。プレイバックとは、「再生」と言う意味だが、何の再生なのか、訳者も後書きで不思議がっている…

よかぜ
7か月前
7

詩 〈詩 人 壱 〉

何が不満なのか 書きすぎて 円環の亜細亜に 欧風の伸展が 鮮やかな毒色に 滲んでいる 石に漱ぐ と書いた 棗形の 骨壷 その 薄暗い奈落から 国の扉に手をかけた 髑髏…

よかぜ
7か月前
8

詩 〈繚 乱〉

真っ青な空の端から 堕ちてくる 背中のショウセキは 長い怠惰と 稀にみる 狭い了見の報い それでも 人並みに 身過ぎ世過ぎの 間には 幻の女の 幾体かに 美しい手技を…

よかぜ
7か月前
3
〈Love Song ソウル   2024〉

〈Love Song ソウル 2024〉

青灰色の海から

せり上がってくる

丘から

見下ろせば

静かな入江を

囲繞する

釜山の

ビル街の灯り

例えば

8月の海風は

一羽の鴎と

ともに

君の

恋しい人の

住む

夜の国へと

易々と

鉄錆びた

境界を越えて

ゆくだろう

東京から京城へ

飛ぶ

鋼の光の羅列が

懐かしい声と

その面影に

向かって

幾重にも続く

夕焼けの雲海を縫い

いまあなたの

もっとみる
〈追 憶〉

〈追 憶〉

忘れられない思い出は

金の小箱に入れましょう

金の小箱に入れたなら

誰も知らない

満月の

静かな入江に

沈めましょう

忘れられない思い出は

銀の小箱に入れましょう

銀の小箱に入れたなら

数千キロの

旅をする

鳥の翼に

託しましょう

忘れられない思い出は

銅の小箱に入れましょう

銅の小箱に入れたなら

真っ赤な

夕陽が落ちていく

風の大地に

埋けましょう

忘れ

もっとみる
〈愛の発明〉

〈愛の発明〉

遺伝子の記憶は新しく

もちろん人の世になって 生まれた

ジュラ紀の大きな風に吹かれて

黄龍たちの影が、なだらかな

さ緑の丘を

降りてゆく

沖積世の涼しい朝と夜の閾で

もう何十万年も

黄金(こがね)に染まる

空を仰ぎながら

待っているのだ

煌めく銀河の天涯の下(もと)

幾本もの柔らかい

生命の糸が織り込まれ

温かい何かが

きみの心のなかに

いま

満ちてくる

誰かを

もっとみる
〈7月の悲歌〉

〈7月の悲歌〉

夕刻

風が落ちて

天空を占拠する

紅(くれない)

上は

羽根を持つものの

下は

多足のものの

王国

はるか銀河にかかる

昔日の虹を

栄光のように

勘違いした

こともあった

記憶は苦く

いまだに

灰色の苔のように

若い舌を覆う

宇宙(そら)の

真空で

震える

きみの蒼い



恋人も知らない

海辺の

コテージに

千泊の予約を

入れたあの日

細々と

もっとみる
〈皐月夢想〉

〈皐月夢想〉

名残の桜が散って

遠山(えんざん)から

なだれる

青葉の裾を

五月の風がわたる

朝晩は

まだ冷える

列島の春の

ゴールデンの

市井の四井から

匂いたつ

フェミニンと

ジューシーな

若草色の夢を

もう一度

なぞってみたい

 

君のやるせない

熱望は

いつも九時の方向から

組み上げられ

一万ヘクタールの

獄(ひとや)のように

押し黙った部屋の

三時の方向

もっとみる
詩 〈水彩  壱〉

詩 〈水彩  壱〉

青色インクを

零したら

夜になった

晴朗な

西の国の

砂浜に

南風(はえ)が吹いて

今宵の星空は

きっと

世界の果てまで

広がっている

たとえば?

たとえば

誰も

叩いたことのない

木製の扉の

内側で

咳をする

痩せた人の

乾いた胸の

空洞にも

静かな

夜が満ちるのだ

その頃

玲瓏な

東の国の

青く

透き通るような

春の森に

優しい風が

もっとみる
書評【市川沙央〈ハンチバック〉再読】

書評【市川沙央〈ハンチバック〉再読】

 本日、障害者の安楽死問題に関わるニュースを観ていて、以前、読んだ市川沙央の芥川賞受賞作 〈ハンチバック〉を再読してみた。ひょっとしたら読み違えているかと危惧したからだ。だが、再読しても根底的な部分でのわたしの感じ方や考えは、以下に再掲する〔   〕内の短評を揺るがすものはどこにもなかった。

文学作品の評価の原則は、ただ1つだ。それはどんな政治的、社会的な価値観をも退けた地点でなされるもので、こ

もっとみる
詩 〈泳人 壱〉

詩 〈泳人 壱〉

アフリカから

Asiaへの十万里

黎明の沖を

泳ぐひと

抜手を切って

マゼランの

喜望峰を

回りこむ

彼女の滑らかな

水をはじく

背中から

昇る朝陽

広大なブルーグレーの

塩辛い水を

湛える陸の窪みから

聳え立つ

巨岩に滴る

緑と緑とさ緑の

樹木たちの

数えきれない

祝祭の日々

蠕動と褶曲の

地の皺

斜面に

穿たれた

参道を歩む

ああ

数万の白

もっとみる
詩 〈往 還〉

詩 〈往 還〉

すぅーっと降りてったら

足がついた

その時から

すべての

生き物に

気を配った

濡れたり乾いたりする

きなりの膚を

彩る

赤や緑や黄色の

カビさえ

愛しかった

400年が経てば

美男美女も

あらゆる

余計な肉や皮を

そぎおとして

綺麗になる

髑髏の愛人に

優しく

袖を引かれ

口説かれるたびに

第七肋骨の疼く春が

今年も

もうすぐ訪れる

だが

この

もっとみる
詩 〈風 野〉

詩 〈風 野〉

春が来る前に

もう若い色がついている

陶器の白い肌には

緑の葉脈が透けてみえる

谷をわたる

風の天涯は

真っ青

いやむしろ

眩む群青か

宿命のように

生きてきた途上の

幾つもの

有り様が

暗い頭蓋の

透明な結節の

内部に

点々と灯る

下って行く人と

すれ違いざまに

短い挨拶も交わす

この峠を越えたら

なだらかな

眉間のような

小さな平原(ひらば)に

もっとみる
詩 〈25番目の春〉

詩 〈25番目の春〉

夏に向かって

開く

その肌への

ぬるさ

曖昧な季節の

領域を

容認する時間

新助坂を

女の

足だけが

下ってゆく

地から沸いてくる

野太い読経の声に

唱和しながら

坂下の

南元町に

ゆっくりと

沈んでゆく

ゆるやかに

雁行する

風の手になぶられ

縷々

縷々と

ほどけていく

硬直した

身体の節目

もうすぐ

茜色に

やがて

紅(くれない)に

もっとみる
詩 〈後朝 壱〉

詩 〈後朝 壱〉

まだ
乱れたままの
床の上で

先の御門に
召還された
未明

起き上がった
女と男の
その身体の先触れ

国学に
偏向する

明治の亀裂に
向かう

中心の穂先は
まだ柔く

ゆっくり
練り上げられていく
朝の白い粘りには

江戸の西端
かの大木戸を
囲繞する
みるく色の
霧を溶かし混む

虹色に
染まる

想い人との
逢瀬まで

吹き抜ける風と
歌う観覧車の
回る

黒々とした
影の下で
待つ

もっとみる
詩〈せいじん 壱〉

詩〈せいじん 壱〉

うずくのは
胸の奥所なのか

それとも
鳩尾の切れ目なのか

下腹からせり上がってくる
ものは押さえずともよい

いずれ後継もなく
枯れ草のように
燃え落ちる身体なのだ

夢の廃墟に続く道の
黒ずんだ石畳を踏む

甲高の白い足

踵に入る
融雪期のあかぎれのように

遥か足下の
武蔵野ロームを
迷走する

姶良火山の
光る灰を

〈蹴散らし〉

固い生活を版築した
2万4千年の
いま

その先端で

もっとみる
レイモンド・チャンドラー  「プレイバック」

レイモンド・チャンドラー  「プレイバック」

 チャンドラーの最後の作品であり、翻訳の刊行を待たずに、訃報が出された。プレイバックとは、「再生」と言う意味だが、何の再生なのか、訳者も後書きで不思議がっている、のちにハードボイルドの古典と呼ばれた名作「長いお別れ」の後に、4年半待たされたにしては、泰山鳴動鼠一匹の感があると、ニューヨークタイムズの批評家に言わしめている不思議な作品。
 読んでいる当方もなんというか、さびぬきだが、ちゃんと味わえる

もっとみる
詩 〈詩 人 壱 〉

詩 〈詩 人 壱 〉

何が不満なのか
書きすぎて

円環の亜細亜に
欧風の伸展が

鮮やかな毒色に
滲んでいる

石に漱ぐ
と書いた

棗形の
骨壷

その
薄暗い奈落から

国の扉に手をかけた
髑髏の人

あの日
背後で音もなく

迸るもの

やがて
滴るものを

目で追い

落ちる首に

影色に
軋むこの体を

なお

この世紀も
いまだ

受けとめかねている

詩 〈繚 乱〉

詩 〈繚 乱〉

真っ青な空の端から
堕ちてくる

背中のショウセキは

長い怠惰と

稀にみる
狭い了見の報い

それでも
人並みに
身過ぎ世過ぎの
間には

幻の女の
幾体かに

美しい手技を
披露するひとときも
あったのだ

岩棚を吹きすぎる
ゆるい風が

つゆの寝覚めを
うながす

もう幾万年
眠ったら

あの水色の
夢の端に
たどり着くのか

果てしない思いに
茫々とした時を刻み

涼やかな目元の
凛とし

もっとみる