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詩 〈水彩  壱〉


青色インクを

零したら

夜になった


晴朗な

西の国の

砂浜に


南風(はえ)が吹いて


今宵の星空は

きっと

世界の果てまで

広がっている



たとえば?


たとえば

誰も

叩いたことのない

木製の扉の

内側で


咳をする

痩せた人の


乾いた胸の

空洞にも


静かな

夜が満ちるのだ



その頃

玲瓏な

東の国の


青く

透き通るような

春の森に


優しい風が

起(た)って


無数の

ちいさな

花びらが

舞っている



大切な人の

手を握る


柔らかい指の

皮膚の温度が


いま


まさに


きみの


頭のてっぺんから

爪先まで


さくら色に

染めてゆく



それから?



それから

零れたインクの

青が


あらゆる

世界の街角の


賑やかな

夜を

滲ませ



遠い日に

失くした

恋と


きなりの

白い

パラソルが


軽やかに


4月の

風の谷を

渡ってゆく


その朝


青色インクを

零したら

夜になった














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