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土竜のひとりごと

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エッセイです。日々考えること、共有したい笑い話、生徒へのメッセージなどを書き綴っています。
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#人間

第35話:壁

第35話:壁

人間というやつは不思議なもので、海に向かって浜辺に立つと必ず石を手に取って海に投げ込もうとする。どういう習性に基づいた行為なのか知らないが、それは毎日誰かの手によってなされているに違いない。
人類が発生してからかなり長い年月が経った訳だが、こんなに石を投げ込まれて、それでも埋まってしまわない海ってやつも、こう考えると感動に値する何かなのかもしれない。
ご多分に漏れず僕も大概は石を投げ込む。無論、理

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自己嫌悪

自己嫌悪

どうでもいいことを
ふと思いついたりするもので、
この間
通勤の帰り道、
ほとんど信号にかからずに
スイスイと帰れたことがあった。

それで、ふと
通勤の道には
幾つ信号があるだろうと
考えてみたのだった。

片道25キロの自動車通勤。
混んでいなければ40分くらいだろうか。
混んでいれば1時間ちょっとかかる時もある。
途中、信号のないバイパス道路を走るので
そんなに信号が多いわけでもない。

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脱身体

脱身体

授業で黒崎正男氏の評論を読んでいる。ざっとこんな内容である。

身体は現代にとって大切なテーマであるゆえに高校の国語の授業においても大事なテーマとなっている。それは哲学者が身体について書く評論が教科書や入試問題に採り上げられるからだが、一方で、彼ら彼女らがこれから直面するAIの時代は、また別の意味で「身体」について考えてみなければならない時代でもある。

例えば授業は、「腹を割って話す」「恋に身を

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水俣の甘夏

水俣の甘夏

『水俣の甘夏』という1984年3月に公開された映画がある。この映画の存在は気にかかっていて、いつか観たいと思いながらも、なかなか手が伸びず、そのまま半ば忘れかけていたのだが、さもしいことながら今年、生徒の持ってきた入試問題に採り上げられていてのを見て、「ああ、これはいかん」と思いついて早速購入して観た。

水俣病の説明など不要とも思われるが、今の高校生にとっては教科書にちょっと出てくる公害問題の一

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ひま

ひま

 

高校時分、テスト監督をしている先生が羨ましくてならなかった。不勉強を悔いながら出来の悪い頭を必死に働かせて問題を解いているのに、いかにも暇そうに窓の外を眺めたり、椅子に腰掛けてぼんやりしていたり、中には野球の投球フォームをしてバランスを崩してひっくり返ったりする先生もいたが、いずれにしても、どの先生ものんびりと心地よく自由時間を楽しんでいるように見えた。
あんなご身分になってみたいと夢のよ

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第16話:I was born

第16話:I was born

親と喧嘩したとき最後の捨てぜりふに、「生まれたくて生まれて来たんじゃねえ」などと言ったことのある人もいるかと思う。

そんな台詞を吐いたところでどうなるわけではないのだが、言われる親にとっては返答のしようもないわけで、親を黙らせるには効果的な言葉であるようだ。別にそう言えと勧めているわけではない。

しかしよく考えてみると、僕らは確かに生まれたくて生まれて来るわけでもなく、生まれることについて自分

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第36話:仁和寺にある法師

第36話:仁和寺にある法師

徒然草に「仁和寺にある法師」という有名な話があるが、これは石清水八幡宮への参拝を年来の夢としていたある法師が、ある時思い立って四里の道を一人で歩いて参拝に出掛けたという話である。

それ自体は別にたいしたことはないのであるが、この法師、実は八幡宮の位置も知らなかったために付属の社だけを拝み、肝腎の八幡宮は拝まずに帰って来てしまう。しかも帰って来て拝んだつもりの八幡宮の様子をあわれがって仲間に披露す

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