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土竜のひとりごと

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エッセイです。日々考えること、共有したい笑い話、生徒へのメッセージなどを書き綴っています。
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#短歌

第141話:人が山に登る理由

第141話:人が山に登る理由

僕がまだ学生の時、友人と飲んだくれて終電もなくなり、近くの後輩の下宿に転がり込もうとした夜のことだった。

近くといっても歩いて1時間以上もあったのだが、酔っ払っているから距離は気にならない。深夜、いい気持ちで歩いていると道端に大売り出しの大きな赤いノボリバタが立てかけてあった。見渡すが、近くに商店もない。
「こいつはいい」と僕はその赤いハタを担ぎながら、時々は振り回したりなどして気分良く歩いてい

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第285話:エアコン

第285話:エアコン

この夏は酷暑だった。

僕が御殿場に越してきたのは26歳の時。もうかれこれ35年以上ここに住んでいることになる。
ここに越してきた頃は、御殿場は湿気が強く、梅雨の時期はよく霧が出て水の中にいるようだった。何でもカビてしまうような湿気と暑さに悩まされたが、それを過ぎると、日差しはそれなりに熱いが、空気は冷たく澄んで高原にいるような爽快さがあった。部活でテニスコートにいると鳥肌が立つことさえあった。

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第222話:ペップトーク

第222話:ペップトーク

風という風をあつめてみたくなり海への丘を駆けのぼりゆく

何かの拍子でプラスの衝動みたいなものも、日々の中で、わけもわからないまま沸き起こってくることがあります。

何年か前、学校でペップトークについての講演があり、受験勉強でげんなりしている生徒たちがみんな元気をもらったことがありました。簡単に言えば、ポジティブな言葉を自分や人に語りかけようという話でした。ご興味があれば、こちらをご覧ください。

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第213話:捨てられない気質

第213話:捨てられない気質

子供の頃は「あてつぎ」というのがあって、服やズボンが破れると別の布を当てて糸で縫い付けた。「あてつぎ」と僕らは言っていたが、一般には「つぎあて(継当)」と言うらしい。

若い世代にとっては「死語」なのかもしれない。

昔は貧乏だったので、衣服など次から次へと買えるわけではなく、三男坊の僕は兄貴の「おさがり」、いわゆる「お古」を着ていた。セーターとかズボンとかが破けると、オフクロやオバアチャンは、こ

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第121話:ふうらり生きる

第121話:ふうらり生きる

これはくだらなすぎる話なので、ぜひ素通りしていただきたい。

毎年、冬休みに入ると年賀状との悪戦苦闘が始まる。印刷やパソコンで作れば楽なのだが、何だかそれではいけないような気がして版画を彫ったりしているからである。
版画は小学校以来続けていて、昔はそれなりに凝ったりもしたのだが、ここ数年は百何十枚もゴシゴシ刷る気力がなくなり、2、3枚刷って、できのいいやつをプリントゴッコにかけて量産している。全く

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第120話:オノマトペ

第120話:オノマトペ

森山良子にサトウキビ畑という歌があって、これはなかなかにいい歌だと思う。フォークで育った僕らには懐かしい調べだし、彼女の透き通った歌声や歌唱力の素晴らしさはまがうべくもない。
沖縄戦の悲劇が切なく歌われていることもサトウキビ畑の哀切な響きを魅力あるものにしている。

同時に、何と言っても、あの「ざわわ」という言葉が繰り返し繰り返し歌われて、それが耳に心地よい。「ざわわ」はサトウキビが風に揺れる音だ

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第60話:愛と恋と

第60話:愛と恋と

古典では恋しい男女が互いを思い合うと、肉体を離れた魂同士が夢の中で会えると考えられていた。(もしよろしければ59話を見てください)

そのお互いの魂が夢の中で通い合うルートを「夢の通ひ路」とか「夢のかけ橋」と呼ぶのであるが、天空の星の輝きの中に虹のような橋がかかり、その上を恋しい人が向こうからやって来るなどという想像は、確かにしてみるだけでも楽しいものではある。

小野小町に「いとせめて恋しき時は

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明けましておめでとうございます

明けましておめでとうございます

今日は共通テストの初日でした。
朝は試験会場前で生徒の見送りをしてきました。毎年、手近にあるもので励ましのメッセージを作っています。

「がんばるみかん」とか。

「がんばるバナナ」とか。

今年は、台所にあったジャガイモで「がんばるおじゃが」を。

この「くだらなさ」が、結構、生徒のリラックスを誘うと、自分では考えているのですが・・。

午後からは「どんど焼き」。

この地域では「さいと焼き」と

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第250話:母

第250話:母


「あんたは誰?」と母が言うので「ああ僕はあなたの子だ」と言ってはみたが

母の痴呆は進んでいる。

僕は実家を離れていて一番上の兄に母のことは任せっきりになってしまっているが、家に帰るたびに兄からは愚痴がこぼれる。

「店に行って勝手にパンを食べてしまう」とか
「庭でいろんなものに火をつけてしまう」などなど。
以前には、階段を頭から落ち救急車で運ばれたと突然電話がかかってきたこともあった。幸い頭

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第234話:ぽつんと一軒家

第234話:ぽつんと一軒家

日曜の夜は「ぽつんと一軒家」を観る。カミさんは「イッテQ」を観たそうなので、何となくたまに観る。大河ドラマは録画して置いて別の日に観ることになっている。

多くの同じ世代の人が結構「ぽつんと一軒家」に嵌っていると聞くのだが、確かにいい。あんな暮らしがしてみたいと思ってみたりする。何だか、ただただ忙しく毎日が過ぎていくと、やむにやまれず、ああ自然の中で原点に帰りたいと思うのかもしれない。

紫陽花が

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第83話:ガキと主夫生活

第83話:ガキと主夫生活

[子育ての記憶と記録]

「ゴツモンがモノクロモンに変化した」子は叫びつつ風呂に入り来る

小学校3年のガキである息子と2人暮らしをした時期があった。別にカミさんに逃げられたわけではないので、結婚を申し込みたいと思う方がいるかもしれないが、ご遠慮願いたい。お気持ちだけはありがたく受け取らせていただくことにする。本当は“お気持ち”だけでは勿体ないのだが、やむを得ない。

実はカミさんのお母さんが肺ガ

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雨の匂ひ

雨の匂ひ

雨のにほひ かすかに風の運ぶ夜を 焼酎に梅落として憩ふ

金田一春彦氏の小文に

国文学者に栗花落裕さんという方がある。「栗花落」が苗字で、これはツユリさんと読む。毎年梅雨の候になるとクリの花が散る。このことから「栗花落」と書いてツユイリと読むので、ツユリはその転だ。

とあります。

今年も栗が花を付ける頃になって、今週にも梅雨入りしそうな気配です。

梅雨は、古典では?「五月雨」。よく生徒には

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第79話:ひまという苦しみ

第79話:ひまという苦しみ

高校時分、テスト監督をしている先生が羨ましくてならなかった。
こちらは不勉強を悔いながら出来の悪い頭を必死に働かせて問題を解いているのに、いかにも暇そうに窓の外を眺めたり、椅子に腰掛けてぼんやりしていたり、中には野球の投球フォームをしてバランスを崩してひっくり返ったりする先生もいたが、いずれにしても、どの先生ものんびりと心地よく自由時間を楽しんでいるように見えた。
あんなご身分になってみたいと夢の

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第7話:生と死について考えてみたこと

第7話:生と死について考えてみたこと

■我が家の猫

猫が陽の当たる居間で昼寝をしている。わが家の猫はサビ猫という種類で決して美しくはない。家の中で見るとそうでもないが、外で見るとコンクリート色の薄汚い貧相な猫に見える。
そう言うとカミさんは「かわいそうに」と猫をかばうのだが、そのカミさんの愛情によって結構いいキャットフードを食べているせいか、毛並みはいい。ふかふかつやつやしている。
それを撫でていると、「猫は毛物(ケモノ)なんだなあ

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