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父のこと

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2021年3月の記事一覧

初めて病院に泊まった夜

初めて病院に泊まった夜

私が病院に初めて泊まる日、何とも言えない緊張感がありました。それはやはり、父がいつ亡くなってしまってもおかしくないと宣告されていたからです。

日中から父の側にいて話しかけたり、プロレスや相撲を観るのが好きだったのでYouTubeで動画を見せたり。父の世代の流行りの音楽をかけたり。動画を観ている間は集中しているようでじっとしていますが、それが終わるとベッド上で動き出します。ベッドサイドに置いてある

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余命の一週間が過ぎた

余命の一週間が過ぎた

平成30年10月下旬。

母、妹、私の三人で協力しながら毎日父の付き添いをしているうちに、余命を言い渡された一週間が過ぎていました。

父の容態は変わりなく、落ち着いているようにも見えました。毎週月曜日の早朝に採血をし、血液検査のデータを取っています。

ある日、担当の看護師さんより「ずっとベッドに寝てばかりいても良くないから、車椅子に乗ってみるのはどうか?」と話がありました。高熱が続いていました

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仕事を辞めて父の側にいる

仕事を辞めて父の側にいる

平成30年11月

父が入院する病院に毎日行くようになって1ヶ月が経とうとする頃、職場の上司から電話がかかってきました。

「さすがにこれ以上休めないよな。」

そう思っていたので、退職したい旨を伝えました。後日、職場へ挨拶に伺いましたがみんなが優しく労いの言葉をかけてくれました。人が少なくて仕事が大変な中、突然ご迷惑をおかけしてしまいました。私にとってたった一人の父。後悔したくないという気持ちを

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一口食べるのに一苦労

一口食べるのに一苦労

父はバイタルサインが落ち着いている日には、車椅子に乗って30分から1時間程デイルームで時間を過ごすのが日課になっていました。

「何か食べさせてあげたい。」母がそんな事を言うようになりました。その気持ちはよく分かります。しかし父の病状や理解力、誤嚥のリスクなど色々と問題があるんじゃないか?と話しました。

母はやれることはやってみたいという気持ちが強く、少しでも可能であるならばと、私は看護師さんに

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好きなものの写真を飾ろう

好きなものの写真を飾ろう

私の実家には猫がいます。かなり気性が荒いオス猫。父が入院していた当時8歳くらいでした。家族の中では父が一番可愛がっていて、悪さをすると「コラ!」と言いながらいつもじゃれあっていました。

父が家から姿を消し、猫はずっと父を探しているというのです。毎日一緒にいたのに急にいなくなって…会わせてあげたいなー。

スマホに保存してある写真を見せていると、その日担当の看護師さんが、「壁に写真を貼ってもいいで

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介護福祉士の本領発揮

介護福祉士の本領発揮

突然ですが、私は介護福祉士です。

今回、父の側にいるため退職しましたが、それまでは十数年間働いてきました。だから母は、私がいると心強いと言ってくれていました。

ある日、そのことが看護師さんの耳に入ったようで、「娘さん、介護やってたんですって?それなら、お父さんに食べさせてもらっても大丈夫?なんなら、その後の口腔ケアも」

おいおい、急に!?まぁいいけど。もし誤嚥させても怖いからと看護師さんにお

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歯ブラシに噛みつく

歯ブラシに噛みつく

入院中は、一日三回口腔ケアをしていたのですが、これがすごく大変でした。

口に物を入れると何であろうと噛みついてしまいます。調子が良いときはちゃんと口を開いていられるのですが、スイッチが入るとものすごい形相で噛みつきます。まだ60代の父は歯もしっかりと残っているので大変です。

さぁどうしよう?

まず、母本人が歯の治療があった為歯科に行った時に先生に話を聞きました。先生は、割り箸をたくさん束ねて

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毎日の大相撲観戦が楽しみ!

毎日の大相撲観戦が楽しみ!

父は昔から相撲を観るのが好きで、毎場所楽しみにしていました。奇数月には場所が始まるので、平成30年11月頃から病室でテレビを見ることになりました。

病院ではテレビはタダで観ることはできません。テレビカードを購入して、それをカード入れに挿入して見ることができます。

私達家族は、ちゃんと集中して見ていられるか心配でしたが部屋のテレビをつけて、父が見やすい角度にセッティングするとニコニコしながら画面

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お風呂に入れた!

お風呂に入れた!

平成30年11月中旬。

父の容態は安定してきていて、毎日車椅子に乗って、プリンやゼリーを食べたりテレビで相撲を見たりと落ちついていました。

週に1回朝のオムツ交換時に、全身清拭と着替えをしてくれているのですが、「今日はお風呂に入りましょう。」と看護師さんが声を掛けてくれました。

入浴は3ヶ月ぶりです。「お風呂に入れるんだって!良かったねー?」と父に話しかけるとすごく険しい表情で首を振ります。

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お風呂に入れた!2

お風呂に入れた!2

今日は入浴日。いつものように看護師さんと助手さんの二人一組で、お迎えに来てくれました。

介護福祉士として働いていた私は、「ここのお風呂は横になって入るタイプなんですか?」など、興味があったので色々質問していました。

すると、看護師さんが「それなら、娘さんも一緒に行ってみますか?」と言ってくれました。私は高齢者施設での勤務しか経験がなかったので、病院のお風呂場を見られることは貴重ですし、父がどの

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暑がりな父

暑がりな父

父はもともと暑がり。病院は冷暖房完備で、常に快適な温度に設定されています。11月にもなると、病院全体が暖房に切り替わっているので、父は汗だく。

仕方がないので、うちわを持参してパタパタあおいでいました。しかし、それでも汗はなかなか引きませんし、疲れてしまいます。困った私達は何かいい方法はないかと考えていました。

考えた結果、部屋の中に扇風機を設置させてもらえないかと看護師さんに頼みました。そう

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心配だけど…

心配だけど…

母と妹と私の三人は、約1ヶ月半もの間交代で病院に泊まり込んでいたので、とても疲れていました。

ある日、看護師さんがそんな私達を見かねて「お父さんの状態も今は落ちついているから、夜の付き添いは止めてみて日中だけにしてはどうですか?なにより、家族さんが倒れては大変ですし。」と提案してくれました。

付き添いを始めて約1ヶ月半。一時は危篤との事でしたが、今は小康状態。もし何かあったときはすぐに連絡をく

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涙

父は、脳に散らばった腫瘍の影響により認知症のような症状が現れていました。

人の認識はできているようで、私が病院に行って挨拶するとちゃんと「おはよー」と言います。しかし、モードが変わってしまうと何を話しかけても無反応になります。そして、男性の言うことはきちんと聞きます。主治医、男性看護師が対応すると全然反応が違うのです。

不思議だなーと思いながら毎日父の様子を見ていました。10月位まではポツリと

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うなぎ

うなぎ

父は鰻が大好き。

元気な頃、親戚の伯父や伯母、母と一緒に何回か食べに行ってたそうです。

「あれ?私誘われてないなー!」なんて伯父や伯母に話したら、「お父さんのこと毎日見てくれてるんだから、必ずご馳走するよ!」と約束してくれました。

伯父たちは県外に住んでいるのですが、時々父の様子を見に来てくれていました。とても仲が良かったので父の反応も良く、表情もいつもより明るく見えました。

好きだった鰻

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