2020年9月の記事一覧
奥多摩「夏は過ぎ去って」
連休の中日、何もやる事がない。そこそこ遠くて、でも近い秩父の山でも見に行こうかとbooking.comを開いた。一件だけヒットした宿を調べると、奥多摩と書いてある。行った事がない場所に、急に気持ちが高まった。リュックサックに雨具とノート、着替えを放り込んで、翌日最寄り駅前からバスに飛び乗った。
今年の夏は随分暑かった。大阪にいたから東京は知らないが、短く、そして叩きつける様だった日射はもうない
欧州旅行記❼「暗くクラクフ」
クラクフ、そしてその西にオシフィエンツィム。耳慣れないポーランドの都市を、独語の名にした瞬間誰もが思い出す。アウシュヴィッツ。クラクフは暗く、寄る辺が無かった。
プラハからおよそ半日高速鉄道に揺られ、カトヴィツエという街で乗り換える。クラクフの街に辿り着いたのは、既にとっぷりと暮れた夜だった。街灯の少ない夜の街には私が曳くトランクの音だけ響き、心底寂しげだった。唯一、朧に滲むカメラ屋の小さな
欧州旅行記❶「東京 逃避行」
ヨーロッパに行こう。そう決めて、ついに2014年の冬、思えば高かった東京-パリ、ミラノ-東京の旅券を買ったのは、つまるところ一枚のポスターに心を動かされたからに過ぎない。山手線かどこかに貼られていたそのポスターは、大きくパリ、ガルドゥノルを写していた。ガル(駅)ドゥ(の)ノル(北)。アーチ状に聳え立つ駅舎に、朝日が差し込むそのワンカットは、なぜか今でも、心を離さない。北の駅は美しかった。どうして
もっとみる東京、時雨 大阪、驟雨
新幹線は定刻通り、小田原を通過する。次は新横浜、品川、そして東京。新横浜を抜けたあたりから、新幹線の速度に負けた雨はそのまま、横流れの滝になって、眼前の窓を川のように通り過ぎる。東京、時雨はまだ止まない。
三月から、東京と大阪を行ったり来たりしていた。関西営業所の社員が続け様に転職し、存続が危うく、誰かが行かねばならない。その頃恋人と破局し、踏んだり蹴ったりだった私には、渡りに船の関西行きに思