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12月11日 寒河江駅(山形県)~最上川と湯けむりの100年~

山形県のほぼ中央部に位置する寒河江は、最上川と寒河江川の合流点に開けた扇状地に広がる町で、かつては舟運が往き来したこの町にも、大正10年には山形からレールが延びてきた。翌大正11年には同じく最上川舟運の河岸として発展した左沢の町まで開通し、現在の左沢線が形成された。
それから今年で全線開通100年を迎えたのである。100年というロマン感じる響きに誘われて、私は左沢線の旅に出た。

12月11日朝5時、まだ薄暗い仙台駅前は小雨が降っていたが、山形へ向かう仙山線に乗っていると、県境のあたりでみぞれに変わった。まもなく列車は雪の山寺に到着し、趣深いものだなと物思いにふけっていると、山形盆地に下りてゆくと再び雪は消えて、7時38分定刻に山形駅に到着した。

向かいのホームには、水色に白色の左沢線のディーゼルカーが4両もつながって止まっている。ローカル線で4両編成とはなかなか長いと感じるが、前の2両が終点まで向かう左沢行きで、後ろの2両はこれから向かう寒河江で切り離すようだ。寒河江には左沢線の基地があって列車運行の中枢となっているようだ。

北山形駅で奥羽本線と別れた左沢線は、遠くに出羽三山のひとつである月山を望みながら農村広がる田園風景の中を快走した後、豊かな水の流れを川幅いっぱいに広げる最上川に架かる古めかしい鉄橋を渡っていく。

この鉄橋は日本最古の現役鉄道橋として知られ、そのルーツは明治19年にイギリスから技術と資材を輸入して建設された、愛知県と岐阜県にまたがる 東海道線 木曽川橋梁を遠く山形の地に移設したもので、136年もの歴史を誇る鉄道遺産である。保守点検の努力あってこそではあるが、現代でも揺るがない高い技術力はすごいものである。

果樹園の中に町並みが広がって、8時24分列車は寒河江駅に到着した。
上り列車と下り列車の行き違いが行われ、山形へ向かう乗客と寒河江で降りる人々で、朝の賑わいを見せており、列車が切り離されたり運転士が交代したりと小さなホームではいくつもの光景が展開していた。

階段を上がって改札口に降りると、山形訛りの温かみを感じる優しそうな男性駅員さんに出迎えられ、ホームへ向けて発車の放送をマイクで話しつつ、きっぷを器用に発券していた。このあたりは雪はまだないのかと尋ねると「例年はクリスマスの頃には降り始めて1月には真っ白になるんです。」と教えて頂いた。帰り際には「またお越しください」と見送られて、温まる出会いであった。

旅の終わりに、湯けむりに誘われて温泉に浸かることにする。寒河江は温泉の湧出も豊かなところで、寒河江、新寒河江、寒河江花咲か、みいずみ温泉といった、それぞれ泉質の異なる温泉が町中に点在している。私は、寒河江駅から1駅下った南寒河江駅で列車を降り、最上川のほとりにある、寒河江市市民浴場へと歩いて向かった。

新寒河江温泉の源泉を100%贅沢に使った温泉は、濃い茶褐色でつるつるすべすべ感を感じて温度も高い。湯量も大変豊富で浴槽から溢れんばかりの勢いである。これで200円という信じがたい入浴料も相まって、地域住民と観光客で賑わいを見せていた。来年には市民浴場はもう少し南寒河江駅よりに新しく移転するとのことで、今の温泉に入れるのもこれが最後かもしれない。

じっくりと浸かり、温泉を後に再び駅へと歩いていると最上川を吹き抜ける川風が身体に心地よい。母なる川と湯けむりに誘われた良い旅であった。

寒河江駅(さがえ)-大正10年12月11日開業 開業101年


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