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#66日ライラン

16_金髪の魔女は、今日もビールを飲んでいる。

16_金髪の魔女は、今日もビールを飲んでいる。

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「犬かよ!」

思わず僕はツッこんでしまった。
ネズミがすぐそばにいなくてよかった。あのネズミなら、基本的動物権の尊重とかアニマルハラスメントとか言い出しかねない。

ネズミが駆け寄った相手は、洋服を着た茶色のラブラドールレトリバーだった。確かに賢そうではあるが、先生が犬だとは思わなかった。よく考えればわかりそうなことだが、ばあちゃんが紹介した相手と言っていたので、勝手に人

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15_金髪の魔女は、今日もビールを飲んでいる。

15_金髪の魔女は、今日もビールを飲んでいる。

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僕はネズミをフードに入れたまま、激しく揺れる車両を慎重に歩いた。

特急ソニックの連結部分はかなり揺れが激しく、2号車に入る時によろけて壁にぶつかった。
その拍子にフードの中でネズミが驚いたのがわかった。

僕が小さな声で「ごめん」と言うと「大丈夫です」と言うネズミの息遣いが聞こえた。

猫は2号車にいるらしい、ということはネズミから聞いていた。僕は2号車の最後尾から、車内

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14_金髪の魔女は、今日もビールを飲んでいる。

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「なに?」

僕が驚いたタイミングで、ネズミは座席からぴょんと飛び跳ねた。向かいの僕の座席に飛び移ると、僕の体をするするとよじ登った。そして僕の肩にちょこんと乗った。そのまま僕のフードにすっぽりと収まった。

「レッツらゴーです! 坊ちゃん」

景気のいい声がフードの中で響く。
「はぁ?! どこに?!」
僕の嫌そうな返事を聞いて、ネズミが耳打ちしてきた。

「坊ちゃん。1

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13_金髪の魔女は、今日もビールを飲んでいる。

13_金髪の魔女は、今日もビールを飲んでいる。

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「やば。トイレ!」

急に尿意を催して、僕はその場で立ち上がった。
トイレに行くために通路に出ようとしたその瞬間、電車がぐらりと揺れた。

「おわっ」
間抜けな声が出た。その場でバランスを崩し、ばあちゃんの方へ倒れた。
「ほ〜ら、言わんこっちゃない」
僕が倒れるのを予測していたかのように、ばあちゃんがさっと僕を支えた。ばあちゃんは右の片手一つで僕を支えている。チラリとばあち

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12_金髪の魔女は、今日もビールを飲んでいる。

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「あ!」

ばあちゃんはニカッと笑うと、リュックに手を突っ込んだ。そして何かを取り出した。ばあちゃんの手にはみかんが握られていた。
「食べます?」
ばあちゃんはネズミにみかんを見せた。
「よろしいんですか? ぜひ、いただきたい!」
ネズミは嬉しそうに、尻尾をぴょんと跳ね上げた。

「もちろん! この時期のみかんは甘くて美味しいですからねぇ」
ばあちゃんはそう言うと、「外の皮

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11_金髪の魔女は、今日もビールを飲んでいる。

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誰も乗っていない座席を使わないのも、もったいない。せっかくだし空いてる座席も使ったほうがいいやろ。そう思った僕は、靴を脱いでどかっと足を椅子の上に乗せた。

ばあちゃんがすかさず僕の足をペシっと叩く。
「みっともないけん、やめなさい」
「ちぇ」
僕は舌打ちをして、足を下ろした。

するとどこからともなく、
「あ、マリさん! こんにちは! ここの席空いてます? もしよろしけれ

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10_金髪の魔女は、今日もビールを飲んでいる。

10_金髪の魔女は、今日もビールを飲んでいる。

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僕とばあちゃんは、バスにゆらゆらと揺られて博多駅に着いた。
駅はどこもかしこもクリスマスの飾り付けが装飾されていた。流れてくる音楽も全部、クリスマスソングだ。

僕の心臓はまるでシャラシャラと鈴の音が鳴っているようにワクワク、ふわふわとしていた。僕はお父さんから借りたカメラのシャッターを押しまくった。赤や緑、キラキラと光る金色の飾りなんかを夢中でカメラに収めていく。

今日

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09_金髪の魔女は、今日もビールを飲んでいる。

09_金髪の魔女は、今日もビールを飲んでいる。

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「いい天気でよかったね」
ばあちゃんが嬉しそうに僕に話しかけてきた。
「どうせばあちゃん、自分が晴れ女やけん、今日の晴れは自分のおかげとか言うんやろ」
僕は軽く笑う。
「さすがユースケ、私の孫なだけある。ばあちゃんの言うことがよくわかっとる」
ばあちゃんは目尻に皺を寄せて、くしゃっと笑った。

これは、ばあちゃんとどこかに行く時の定番のやり取りだ。
確かにばあちゃんと出かけ

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08_金髪の魔女は、今日もビールを飲んでいる。

08_金髪の魔女は、今日もビールを飲んでいる。

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風呂上がり、ばあちゃんに「明日、どこに行くと?」と聞いてみた。
「別府って言ったやろ。聞いとらんかったん?」
と返された。
「別府ってどこなん?」
僕が聞くと、「大分だよ」と教えてくれた。

「バスと電車で3時間くらいかかるけど、ばあちゃんは旅行中にゲームするのは好かんけん、ゲームは持っていったらいかん。明日着替えるパンツとシャツと靴下、あとはゲーム以外やったら自分のリュッ

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07_金髪の魔女は、今日もビールを飲んでいる。

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「ただいま」

玄関のドアが開く音がした。僕はその音でお父さんが帰って来たことに気づいた。ちょうどその時、僕はばあちゃんが作った焼きそばをずるずると啜りながら食べているところだった。

お父さんはリビングに入ってくるなり、
「ユースケ、ごはん食べたら、どっか遊びにでも行くか。ゲーセンか? それともバッティングセンターか?」
と聞いた。

「どっちも!」
僕が焼きそばを口から

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06_金髪の魔女は、今日もビールを飲んでいる。

06_金髪の魔女は、今日もビールを飲んでいる。

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なんとかできると思ったのが間違いだった。

僕が隠していたばあちゃんのポーチは、次の日の朝、あっさりとばあちゃんに見つかった。

「ユースケ、ばあちゃんのポーチ、どこにやったとね?」
ばあちゃんがノックもせずに僕の部屋に入ってきた時、僕は勉強机の上に置いたばあちゃんのポーチと格闘している最中だった。

机の上には、裁縫道具と粉々に割れた巻き貝。僕の右手には水色のポーチと白い

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鬼退治師たち

鬼退治師たち

私が愛犬ポッキーの散歩をしていた時のことだ。

時刻は朝7:30。最近は文字の打ちすぎで首と肩が凝っているなぁと、腕をブンブン回し、首もゴキゴキ回しながら散歩をしていた。

朝も早よからポッキーは大量にうんちをしている。よきかなよきかな、と私はうんち袋にうんちを入れた。うんちがほんのり温かい。ポッキーの内臓がしっかりとあたたまっている証拠だと、私は一人満足げな表情を浮かべる。

場所は川沿い。

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雲を編む

雲を編む

近所に「わたあめ屋さん」ができた。
名前もそのまんまの「わたあめ屋さん」。

私は別にわたあめに興味はないから、行こうとも思わなかったけど、中学校の同級生のみんなは、最近そのわたあめ屋さんの話をよくしている。

「何色食べた?」
「ピンク色がやばかった」
「幸せに味があるとすれば、多分ほんのりオレンジ色だと思う」

なんて詩的なことを言い出す子まで出る始末。

「サナ、まだ行ってないの? まじで絶

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プレジャー・ランドへようこそ_最終話

プレジャー・ランドへようこそ_最終話

↓  第3話

14

「だいじょ〜ぶですか〜? ここ結構、落下する人がいるんですよね〜」
ノキアは横に立った声の主の顔を確認する。ノキアは入り口の時にいたピエロの女の子だと気づく。

「大丈夫です」
ノキアはカートに乗ったままピエロの女の子の質問に答える。ピエロの女の子が笑いながら手を差し述べた。ノキアは差し出された手を取る。
「ありがとうございます」

ノキアがお礼を言うと、ピエロの女の子はニ

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