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08_金髪の魔女は、今日もビールを飲んでいる。

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風呂上がり、ばあちゃんに「明日、どこに行くと?」と聞いてみた。
「別府って言ったやろ。聞いとらんかったん?」
と返された。
「別府ってどこなん?」
僕が聞くと、「大分だよ」と教えてくれた。

「バスと電車で3時間くらいかかるけど、ばあちゃんは旅行中にゲームするのは好かんけん、ゲームは持っていったらいかん。明日着替えるパンツとシャツと靴下、あとはゲーム以外やったら自分のリュックに入るもんは持ってっていいけん」

3時間か、と僕は思う。結構長い。
ゲームができないのに、3時間もばあちゃんと二人で何をすればいいって言うんだ。

ある意味、地獄。

こっそりゲームを持っていくことも考えたけど、ばあちゃんにバレたら取り上げられて終わりだろう。ばあちゃんと二人で過ごす2日間、自ら閻魔大王の怒りを買いにいくわけにはいかない。

僕はばあちゃんの言うとおり、リュックサックにパンツとシャツと靴下を入れた。何を持っていこうかと、僕は机の中をガサゴソ探る。

トランプ? カード? ……将棋とかオセロはありえない。一応、ルービックキューブは入れておいてもいいかもしれないけど、遊ぶかなぁ。
なんて色々と考えるうちに僕はめんどくさくなって、ベッドに潜り込んだ。

☀️


「ユースケ、起きなー!」

朝、6時。外はまだ暗い。まだ夜みたいに暗い。
外では人が動き出す音が聞こえ、それで僕は朝だと分かった。

ばあちゃんがどすどすと二階へ上がってきた。引き戸をガラッと開けて、まだベッドで丸まっている僕を叩き起こす。僕は仕方なしにまだ重たい体をゆっくりと起こした。本当ならまだ寝ていてもいい時間。せっかくの冬休み2日目。

ぼんやりとした頭で眠気を感じながら、その片隅に少しだけ高揚している自分がいることに気づいた。

別府ってどんな街なんだろう。ばあちゃんの生まれた街に行くって言ってたけど、僕はその街を知らない。今まで一度もばあちゃんの小さい頃の話を聞いたことがなかったと、いまさらながらに思う。

「電車に乗り遅れたらいかんけん、早く準備して降りてきなさいよ」
ばあちゃんはそう言い残すと、僕の部屋を後にした。
僕はベッドから這い出し、洋服に着替えるとゲームも何も入っていないまだ隙間がいっぱいのリュックを持って一階に降りた。

一階のダイニングテーブルには、ばあちゃんが並べたと思わしきお菓子が所狭しと並べられている。
「ユースケ、やっぱり旅行はお菓子がないと始まらんけん、こんなかから好きなの入れなさい」
ばあちゃんがドヤ顔でこちらを見ている。僕が喜ぶだろうことを期待している顔だ。

「やっぱりつまみとみかんは旅のお供やけん」
ばあちゃんは視線をダイニングテーブルの上に落とした。視線だけでダイニングテーブルの上に並んでいるものを物色してから、椅子の上に置いてあったばあちゃんのリュックサックに柿の種やみかん、ビーフジャーキー、チョコレート、チーたらを詰め込んだ。

僕はリュックサックをテーブルの上に下ろすと、クランチの入ったチョコレートとチーたら、じゃがりことチョコレートクリームが挟まったクッキーを入れた。
遠足みたいで楽しい。
机の上のお菓子を全部詰め込むと、リュックサックはいい感じにパンパンになった。

「おはよう。もうそろそろ行くと?」
ばあちゃんの叫び声で起こされたお父さんが、頭をポリポリかきながらリビングに入ってきた。
「ご飯食べたら、行くよ」
ばあちゃんはお父さんに返事をすると、空になったテーブルに朝ごはんを並べた。その間に僕は顔を洗ったり、仏壇のじいちゃんとお母さんに挨拶をする。

ばあちゃんが朝ごはんを用意し終わると、三人で朝ごはんを食べた。
朝ごはんを食べ終わるや否や、僕とばあちゃんはトイレを済ませ、歯磨きをし、上着を羽織って玄関に向かった。

お父さんは何かを思い出したように、「あ」と間の抜けた声を出すと、席を立った。そしてそのまま、2階にあるお父さんの部屋に上がって行った。そして、すぐに部屋から出て、玄関まで戻る。手には何かを持っていた。

「ばあちゃん、ユースケ、気をつけてな。とりあえず、着いたら連絡して」
お父さんの眉は少しだけハの字になっていて、心配そうな顔に見えた。ばあちゃんと僕の二人で旅行に行くなんて初めてのことだから、お父さんも心配なんだろう。正直、僕も心配だ。

「それとユースケ、これ」
お父さんは、手に持っていた黒いカメラを僕に手渡した。
「簡単に撮れるやつやけん、せっかくやから色々撮ってきていいぞ。どこに行ったか、帰ってきたらお父さんに見せてな」
「わかった」
僕はお父さんからカメラを受け取ると、首からカメラを下げた。


「行ってきます」

僕とばあちゃんは元気に手を振って家を出た。



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