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【書評】プラトン入門におすすめの『ゴルギアス』は読みやすい!

ロッシーです。

プラトンの『ゴルギアス』(光文社古典新訳文庫)を読みました。

「ゴルギアス」というのは、本書に出てくる弁論術の教師の名前です。

本書は、プラトンの師匠であるソクラテスが弁論術をめぐり、ゴルギアス、ポロス、カリクレスの3人との議論を対話形式にした内容となっています。

私は、プラトンとかアリストテレスといった古代ギリシャの哲学者の本に苦手意識があり「なんだか難しそうだな~。」と思っていました。

しかし、この『ゴルギアス』は非常に読みやすい!

2500年前の話とは思えないくらい普通にサクサクと読めました。

しかも内容も面白い!

翻訳の仕方にもよるのかもしれませんが、ソクラテスが相手を論破していく様子が非常に躍動感のあるかたちで描かれています。

初めはちょっと下手に出ておきながら、徐々にギアを入れていき、相手が逃げられないようにして、最後に畳みかけていく様は痛快です。絶対に議論の相手にしたくないタイプの人間ですね(笑)。

そして、相手の3人も面白いです。

特に、最後に登場するカリクレスがいいですね。

「動物を見てみろ!強いものが弱いものを食い物にする弱肉強食の原理ではないか!だとしたら人間の世界だって同じ原理を正義とすべきではないか!」

という意見でソクラテスに対抗しようとするのです。なかなかのジャイアニズムですね(笑)。

ただ、いわゆる強者や勝ち組といわれる人にとっては、同意できる部分もあるのではないでしょうか?

「弱者は努力もせずに国から何かしてもらうことばかり要求している。俺たちが払った税金でなんでそんな奴らの面倒を見なければならないんだ?弱者のルサンチマンによって作られた慣習に俺たちが従わなければならないのはおかしいじゃないか?」

という風に考える人もいるでしょう(その是非は置いといて)。

持つ者、持たざる者がいる世界であれば、昔も今も、カリクレスのような考え方を持つ人が出てくるのは当然なのかもしれません。


本書を読んで、ソクラテスが最も大事にしていること、それは同時に作者であるプラトンが大事にしていることと同義なのかもしれませんが、それは

「魂を清浄に保つこと」

なのではないかと思いました。

ソクラテスはこう言います。

「不正をされるよりも、するほうが悪いことなのだ。」

「不正をして罰せられるよりも、罰せられないほうが大きな悪なのだ。」

しかし、相手のポロスはそれに納得がいきません。

「いやいや、不正をしても見つからなければそのほうが良いではないか。」

でも、ソクラテスは「罰せられることにより魂が良い状態に回復する」という考えを持っています。

つまり、ソクラテスは魂という視点から物事を判断しているのに対し、ポロスは自分の利益という視点から判断をしているという違いがあるわけです。

もちろん、現世利益ということを考えれば、ポロスのように考えることが合理的なのかもしれません。

しかし、本当にそうなのでしょうか?

「自分の魂が汚れることと、不正とひきかえに現世利益を享受することと、どちらを選びますか?」

と問われたら、ほとんどの人は前者を選ぶのではないでしょうか(一部の政治家を除き)

魂という概念は、死後の世界という概念とつながります。死後の世界が存在すると信じている人は、魂をきれいにしておかなければと考える傾向が強いでしょう。

ソクラテスは「不正をして魂を汚すくらいなら、死ぬほうがマシ。」という信条を持っています。だから、死刑判決が出ても逃げることはせず、自ら毒を飲み死んだのでしょう。

私は、死後の世界があるかどうか分かりませんし、魂なるものが実在するのかも分かりません。しかし、それがあろうがなかろうが、自分の魂的なものが汚れるようなことはしたくありません。だからソクラテスの言っていることは感覚的に分かります。

「そんなのきれいごとだよ!」と考える人もいるかもしれませんが、そうなのでしょうか。

『罪と罰』のラスコーリニコフは、最後に自分からを告白します。彼は、殺人という最も重い不正をしてしまいました。自分の魂が汚れた状態のまま自分の不正が見つからないことに耐えられなかったのではないでしょうか。だからこそ、魂の救済のためにもを求めたのではないかと思うのです。

もちろん、世の中はきれいごとだけではすまないのも分かります。政治の世界だけではなく、会社という限定された世界においてもそれは同様です。

しかし、だからといって不正をすることを自分に許してしまってはいけないと思います。何が自分にとっての「善」なのかを考えることは、哲学者だけの仕事ではなく、私達ひとりひとりの人生の課題なのだと思うのです。

自分の魂を汚したくないと思い、その信条に基づいて行動する人が増えれば、今よりもこの世界はより「善」に近づくのではないかと思います。


・・・と、大げさにきれいごとを語ってしまいました(笑)。


とにかく、本書はおすすめです!

ソクラテスという論客が、バッタバッタと3人をなぎ倒すプロセスをぜひ楽しんでほしいと思います。ひ〇ゆき氏のような論破を楽しむのもいいですが、本物の論破というのはこういうものなのだ、と知っておくのも大事だと思いますよ。

プラトン入門としておすすめと言われる『ゴルギアス』、想定外に面白かったです!

やっぱり古典はやめられませんね。


最後までお読みいただきありがとうございます。

Thank you for reading!


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