昨夜未明(鯨)

2020年4月7日、始めました 安全な僕ら Twitter @kujuranosen…

昨夜未明(鯨)

2020年4月7日、始めました 安全な僕ら Twitter @kujuranosenaka

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固定された記事

誰かが誰かの記憶を重ね合わせるひかりの一室になりたい

 強く短い雨が降ってレースのカーテンを開けたら家の前の団地のベランダには洗濯物がそのままになっていた。濡れたそれらを見た時その部屋に住む人は何を考えるだろう。今…

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補助輪なし

生きるのが下手な気がする。純文学の主題としてよくある「生きづらさ」とはまた別の、もっと根本的に生きるのが下手な感じ。目的地まで近道しようと道路を渡ったら元いた方…

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退職記念日/別れについて

退職した。大学を卒業してから二年働いた会社だった。一年目は働きたくないと毎朝三回唱えて出社していた。大学生とのギャップに、目に映るすべてに怯えていた。それでも二…

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映画『PERFECT DAYS』を観た

※ネタバレを含むので、ご鑑賞前の方はお気を付けください  起承転結のない(あるいは隠されている)話が好きだ。伏線回収も壮大な音楽もラブストーリーもない。ただそこ…

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大学について

 23歳にデビュー作で芥川賞を受賞した村上龍は「二十代にしか書けない小説というものがある」と他著の解説内で書いた。歳を重ねると感受性が変わる。以前良かったと思って…

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もう少しでnoteを載せるよ

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LANY "Good Girls" 意訳

2017年、ティファニーのCM。主演、成田凌。その主題歌として起用されたLANY「Good Girls」が大好きで、歌詞を自分なりに解釈しようと思った。歌詞を全文載せた方が対比がで…

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横浜のこと

 宛もなく横浜を歩いたことが何度かある。それぞれの記憶は曖昧で絡み合って混同している場面もあるかもしれないけれど、思い出したまま書いていく。  22歳くらいの頃に…

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ツイッターのアカウントを消したら心が軽くなるといいね、どこまで消すか迷うけれどnoteは消さなくてもいいかな、これからもよろしくね

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「キッチン」にみる吉本ばななの言葉についての評価と翻訳の可能性の考察

序論 吉本ばななは『キッチン』(福部文庫,1991)でデビュー、第6回海燕新人文学賞を受賞した。その売上は二百万部を突破し、世界三十カ国以上で翻訳されている。福武文庫…

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まだ見ぬ朝日と黒い犬

 死角から車が飛び出してきて、考えるよりも先に右足がブレーキ・ペダルに伸びている。ダイハツのミラが「ぎゅっ」と何かを絞り出すような音を鳴らす。手は汗ばみ、鼓動は…

小説のすきな一文

 メモしてあった、今まで読んだ小説の中からすきな一文をまとめました。「すきな小説の一文」ではなくて、「小説のすきな一文」です。でもだいすきな小説ももちろんありま…

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いつだって行ける海

茨城に行った。みたもの、きいたおと、感じたこと、忘れる前に書き留めておくメモ 雨。6時半に鳴る目覚まし時計。髪上手にできた。タイムズ・カーシェアリングはすご…

TwitterのDMを開放した

 TwitterのDMを開放した。  毎日、数十件ほど、知らないアカウントたちからメッセージが届く。飼っている猫の写真や道端で見つけたちょっとおかしな看板の写真、紫陽花…

2021.12.28 つめたい部屋

 今年も終わる。いつも日記に書いているようなことを、今夜はnoteに書いてみようと思う。  今、コメダ珈琲でこの文章を書いている。今年の夏に引っ越しをした。その家は…

六月病

 言うことより言わないことの方が増えた。いつのまにか抑制を覚えて、ほんとうに欲しいものを言わなくなって、未送信フォルダやtwitterの下書きばかりが増えていく日々に…

誰かが誰かの記憶を重ね合わせるひかりの一室になりたい

誰かが誰かの記憶を重ね合わせるひかりの一室になりたい

 強く短い雨が降ってレースのカーテンを開けたら家の前の団地のベランダには洗濯物がそのままになっていた。濡れたそれらを見た時その部屋に住む人は何を考えるだろう。今は日曜日の午後だから洗濯し直すことはきっと億劫で、明日から再び始まる仕事と共通してくくりだされる憂鬱をコンクリートにひろがる水滴の染みに重ねて悲しんだり苛立ちを感じたりするのだろうか。

 小さい頃から何もできなかった。クラスで自分だけ逆上

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補助輪なし

補助輪なし

生きるのが下手な気がする。純文学の主題としてよくある「生きづらさ」とはまた別の、もっと根本的に生きるのが下手な感じ。目的地まで近道しようと道路を渡ったら元いた方の道路に目的地があるし、安く済まそうと入ったパン屋で定食屋くらいお金使うし、引っ越す前の家の方が今の職場から近いし、試着せずに買うからいつもシャツはワンサイズ小さいし、電車乗った瞬間トイレに行きたくなるし、健康保険証がない時に限って病気にな

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退職記念日/別れについて

退職記念日/別れについて

退職した。大学を卒業してから二年働いた会社だった。一年目は働きたくないと毎朝三回唱えて出社していた。大学生とのギャップに、目に映るすべてに怯えていた。それでも二年目は私のからだひとつでできることが増え、適度な息の抜き方も覚えた。仕事が楽しいと思えるようになった。任されることも増え、やりがいになった。呼吸が楽になった。冬に病気になった。仕事が原因ではなかった。髪が伸びたから後ろでひとつに結わえるよう

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映画『PERFECT DAYS』を観た

映画『PERFECT DAYS』を観た

※ネタバレを含むので、ご鑑賞前の方はお気を付けください

 起承転結のない(あるいは隠されている)話が好きだ。伏線回収も壮大な音楽もラブストーリーもない。ただそこにあるものをトレーシングペーパーで写し取ったような映画や小説が好きだ。『PERFECT DAYS』もそんな映画だった。

 まずこのあらすじに惹かれ、これに加えてカンヌ国際映画祭で役所広司が主演男優賞を受賞したということしか事前知識がない

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大学について

大学について

 23歳にデビュー作で芥川賞を受賞した村上龍は「二十代にしか書けない小説というものがある」と他著の解説内で書いた。歳を重ねると感受性が変わる。以前良かったと思っていた音楽や小説の嗜好が簡単に変わってしまう。過去の解像度が著しく落ちる。だから今のうちに思い出せる過去をすべて回顧しきらないといけない。明日になるともう二度と思い出せないものがあるかもしれない。美しい思い出の一つとして大学の四年間があった

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もう少しでnoteを載せるよ

LANY "Good Girls" 意訳

LANY "Good Girls" 意訳

2017年、ティファニーのCM。主演、成田凌。その主題歌として起用されたLANY「Good Girls」が大好きで、歌詞を自分なりに解釈しようと思った。歌詞を全文載せた方が対比ができてわかりやすかったけれど、JASRACに怒られると思ってやめた。

YouTube(リンク先に飛ぶと思ったらここで聴きながら読むことができる、いい仕様)

危険な愛の往生際で踊る
君は私の輪郭を一晩で溶かしてしまう

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横浜のこと

横浜のこと

 宛もなく横浜を歩いたことが何度かある。それぞれの記憶は曖昧で絡み合って混同している場面もあるかもしれないけれど、思い出したまま書いていく。

 22歳くらいの頃に高校の同級生と横浜駅で集合して散歩をしたことがある。コンビニでレモン・サワーとハイボールを買って、有料のレジ袋に入れてもらって行く場所も決めず歩いた。汗をかいていたから夏だと思う。思い出す季節はいつも夏な気がする。色が濃いから記憶として

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ツイッターのアカウントを消したら心が軽くなるといいね、どこまで消すか迷うけれどnoteは消さなくてもいいかな、これからもよろしくね

「キッチン」にみる吉本ばななの言葉についての評価と翻訳の可能性の考察

「キッチン」にみる吉本ばななの言葉についての評価と翻訳の可能性の考察

序論 吉本ばななは『キッチン』(福部文庫,1991)でデビュー、第6回海燕新人文学賞を受賞した。その売上は二百万部を突破し、世界三十カ国以上で翻訳されている。福武文庫に同時収録されている『ムーンライト・シャドウ』は2021年に人気俳優らで映画化され話題を呼んだことなどからも、現代でも吉本ばなな作品の根強い人気が伺える。

 私も他の大勢の読者のように、デビュー作『キッチン』で初めて吉本ばななの言葉

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まだ見ぬ朝日と黒い犬

まだ見ぬ朝日と黒い犬

 死角から車が飛び出してきて、考えるよりも先に右足がブレーキ・ペダルに伸びている。ダイハツのミラが「ぎゅっ」と何かを絞り出すような音を鳴らす。手は汗ばみ、鼓動は急速に早まっていた。

 わたしは大学3年の時、免許を取ってすぐに車を買った。わたしの住んでいた町の駅は小さくて、23時頃にもなるといそいそとシャッターが降ろされる。一番近くのマクドナルドは徒歩35分で、住んでいるのは高齢者と僅かな核家族、

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小説のすきな一文

小説のすきな一文

 メモしてあった、今まで読んだ小説の中からすきな一文をまとめました。「すきな小説の一文」ではなくて、「小説のすきな一文」です。でもだいすきな小説ももちろんあります。たった一文だとどんな話かわからなくて、でもどういう流れでこういう一文が生まれたのかとわくわくしませんか、わたしはします。
 人生で読書中に涙が出てくるという体験を一度だけしたことがあるのですが、その一文がこの中にあります。当ててみてくだ

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いつだって行ける海

いつだって行ける海

茨城に行った。みたもの、きいたおと、感じたこと、忘れる前に書き留めておくメモ

雨。6時半に鳴る目覚まし時計。髪上手にできた。タイムズ・カーシェアリングはすごいサービス。ヤリスクロス。ハンドブレーキがない。何もかもが洗練されていく。オープン前のココスの前で友人が待っていた。旅。

筑波宇宙センター。JAXA。葉っぱがたくさん落ちている区画にわざと停める車。宇宙飛行士の模型と、大きなロ

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TwitterのDMを開放した

TwitterのDMを開放した

 TwitterのDMを開放した。

 毎日、数十件ほど、知らないアカウントたちからメッセージが届く。飼っている猫の写真や道端で見つけたちょっとおかしな看板の写真、紫陽花や綺麗な空といった写真を送ってくれる人もいれば、込み入った恋愛や仕事の相談を長文でしてくれる人もいるし、たった一言だけ、意図が一見読みづらい短文を送ってくれる人もいる。そしてそのどれもに、頼まれてもいないのにせっせとひとつひとつ返

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2021.12.28 つめたい部屋

2021.12.28 つめたい部屋

 今年も終わる。いつも日記に書いているようなことを、今夜はnoteに書いてみようと思う。

 今、コメダ珈琲でこの文章を書いている。今年の夏に引っ越しをした。その家は友人に「ほぼ外」と言われるような男子寮で、エアコンなどは当然なく、共同の風呂も壊れていて、最近は本当に寒い。おまけに私の部屋だけWi-Fiが届かない構造だから、自然と家にいる時間が短くなった。今年は色々な過ちを犯して、だからその贖罪の

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六月病

六月病

 言うことより言わないことの方が増えた。いつのまにか抑制を覚えて、ほんとうに欲しいものを言わなくなって、未送信フォルダやtwitterの下書きばかりが増えていく日々に首を垂れる。

 小学生の卒業アルバムにクラスページのようなものがあって、自分の隣の席の女の子がそのページの担当だった。クラスメイト全員の「○○No1」を書くという企画で、あの子は文房具が好きだから文房具No1だとか、足が速いNo1と

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