マガジンのカバー画像

ゆっくり読みたい創作大賞記事

100
時間のあるときに拝読させていただきます!
運営しているクリエイター

#恋愛

ロビンソンの飼い犬【前編】

ロビンソンの飼い犬【前編】

 芽衣子が両手指にマニキュアを塗っているとき、ぼくは決まって彼女にくだらない話をする。
 ヤスリで丁寧に整えた指先に神経を集中する芽衣子の左の手は、すでに薄いピンク色に染まっている。右はまだ一本目を塗り始めたところで、爪の色が若干の不健康を証明するように白かった。ぼくは母親の腕を引っ張る子供みたいに、芽衣子に喋りかける。
「夢でしか行けない場所ってない?」
 一瞬彼女の動きが止まったように見えたけ

もっとみる
《創作大賞2024:恋愛小説部門》『友人フランチャイズ』第1話 白花色 0.5〜

《創作大賞2024:恋愛小説部門》『友人フランチャイズ』第1話 白花色 0.5〜

◇プロローグ

「次のニュースです。昨夜未明、市内のアパートから男女の遺体が発見されました。取材に対して警察は以前から親交があったとされる医療従事者の女性を第一発見者とし、死因について捜査を進めて参ります。との回答がありました……。では、ここからはスタジオに戻して、この事件で亡くなられた男性について、今日お越しになっております、デザイナーの秋山 海さんとお話をさせて頂ければと思います。秋山さん今日

もっとみる
点滅とかぎあな【創作大賞 恋愛小説部門 短編】

点滅とかぎあな【創作大賞 恋愛小説部門 短編】

 知らない男とのセックスの後は喉が渇いてしかたがない。十代半ばに覚えた気晴らしはいつしか労働に代わっていて、生活のための金銭になった。たったいまも初対面の男に抱かれている間、男が吐きだす臭気を感じないようにできるだけ口から酸素を補給している。キスのときだけはしかたがないけれど、してしまいさえすればもう気にならなくなっていた。
 ひどい作り笑顔で客を見送ったあと、今日何度目かのマウスウォッシュを口に

もっとみる
人魚屋敷の脳先生 (第1話/全26話)

人魚屋敷の脳先生 (第1話/全26話)

01

 文机に向かって終日原稿を書いていた。
 あの日から毎日書いている。書き続けている。
 しかし一向に書き上がる気配がしない。
 そろそろ休もうかと思った所に傍らの金魚鉢から彼女が話しかけて来た。
 手のひらに収まるほどの、小さな小さな彼女。
 上半身はひな人形のように整った面立ちの女人である。
 しかしながら、下半身は鮎のような虹色の鱗に包まれている。
 人魚である。
 彼女が揺れるといつ

もっとみる
連載小説★プロレスガール、ビジネスヒロイン? 第一話 プロローグ

連載小説★プロレスガール、ビジネスヒロイン? 第一話 プロローグ

第1話 プロローグ

 三千人で超満員のアオーレ長岡。大歓声と悲鳴が入り混じる混沌。
 リング上では、黒髪をお団子にまとめた女子プロレスラーが相手の体を抱え上げ、リング中央に叩き付ける。その瞬間、興奮の中でリング上に緊張が漂う。
 すぐさま、コーナートップロープに駆け上り、大歓声を繰り出す観客に向かって右腕をあげた。その人差し指は天を指す。
「いくぞー!」
 甲高い叫び声と共にトップロープから思い

もっとみる
コイン・チョコレート・トス_第1話

コイン・チョコレート・トス_第1話



🪙 プロローグy=-3x²の放物線を描きながら、宙を舞うコインチョコ。

玄関の白い天井の少し下の位置を最高到達点とし、コインチョコは幸子の手の平に落ちてきた。幸子はそれを両手で優しくキャッチする。

幸子はコインチョコが左手に落ちてきた瞬間、上から右手をそっと添える。コインチョコがどちらかを向いているかが見えないように静かに隠す。

表か、裏か。

全ての決断は、コインチョコに委ねられた。

もっとみる