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都市壊滅の預言書になった本! ジャック・ドンズロ『都市が壊れるとき』を紹介

ジャック・ドンズロが著した『都市が壊れるときー梗概の危機に対応できるのはどのような政治かー』(邦訳2012,4)は、2005年10月にフランスで起きたパリ郊外の暴動を分析した社会学論考です。今日のフランスの移民問題などがわかる重要な1冊だと感じたので、紹介してみようと思います。
この本の凄さは、結果的に彼の予測した通りになってしまったという史実にあると私は思っています!

あまり聞き慣れない作家だと思うので、今回はドンズロの紹介から入っていきましょう。

ジャック・ドンズロとは

1943年フランスのアルジェリア生まれの歴史社会学者、都市社会学者です。 ドンズロの専門は、フランスの都市社会と移民問題です。特に、都市空間におけるマイノリティグループの経験とアイデンティティ、都市における差別と不平等、郊外暴動などのテーマについて研究してきました。
ドンズロの研究は、フランス社会だけでなく、ヨーロッパや北米の都市研究にも大きな影響を与えてきました。彼は、都市社会の複雑性とダイナミックさを理解するために欠かせない貴重な洞察を提供しています。

2005年の暴動について

当時、フランスの移民政策への不満や経済格差の拡大などが背景となって、パリ郊外の諸都市で若者を中心とした暴動が発生。この暴動は、フランス社会の深刻な問題を浮き彫りにし、大きな衝撃を与えました。
ドンズロはこの暴動を単なる犯罪行為としてではなく、フランス社会の構造的な問題に根ざした政治的な出来事として捉えています。彼は、暴動に参加した若者たちが、社会から排除され、見捨てられていると感じていたことを指摘します。そして、このような若者たちの声を政治が真摯に受け止め、社会の不平等を是正しなければ、将来さらなる暴動が発生する可能性があるとこの本の中で警鐘をひびかせました。

この本では、主に以下の点が論じられています。

  • 2005年パリ郊外暴動の背景と経過

  • フランスの移民政策と社会格差の問題

  • 暴動に参加した若者たちの心理状態

  • フランス社会の将来展望

「都市が壊れるとき」は、現代社会の抱える問題を考える上で非常に重要な1冊です。

  • 社会の不平等や格差が、人々の心にどのような影響を与えるのか

  • 排除された人々が、どのような行動に出るのか

  • 政治は、社会の分断をどのように修復できるのか

これらの問いに対する答えをドンズロは多角的な視点から考察し、特に第3章の「都市を擁護する政策」のなかで丁寧に拾い上げていきます。

そして、ドンズロが指摘したようにフランスのアルジェリア移民問題は長年にわたり続いており、さまざまな社会的・政治的な緊張を引き起こしてきました。実際に暴動やテロが表面化した事件もあります。

暴動とテロの背景

  1. 1980年代の暴動: 1981年から1983年にかけて、フランスの多くの都市でアルジェリア系移民による暴動が発生。これらの暴動は、移民社会の経済的な困難や社会的な差別、そして警察との緊張関係から生じた

  2. 1995年のパリ地下鉄爆破事件: 1995年7月25日、アルジェリアのイスラム過激派組織がパリ地下鉄で爆弾を爆発させ、8人が死亡し約150人が負傷。この事件は、アルジェリア内戦の影響を受けた過激派グループによるもので、フランスに対するテロの一例とされた

  3. 2005年のバンリュー暴動: 2005年10月27日から11月17日にかけて、パリ郊外のバンリュー地域で大規模な暴動が発生。これは移民や少数派コミュニティが抱える社会的・経済的不満が爆発したもので、警察との対立や暴力行為が続出した

  4. 2015年のテロ事件: 2015年1月と11月には、イスラム過激派グループによるパリでのテロ事件が発生。特に2015年11月のパリ同時多発テロでは、130人以上が犠牲となった。これらの事件は、アルジェリア系移民コミュニティを含む多様な人々による攻撃であり、フランスの安全保障と社会秩序に大きな影響を与えた

※本書の末尾では、1958年から2010年までの「フランスにおける郊外暴動と都市政策略史」が年表として詳述されていますが、ここでは省略します。

現在の状況

現在でもフランスでは、移民や少数派コミュニティが直面する経済的・社会的な問題や差別、そして過激派の脅威に対する不安が続いています。政府はこれらの問題に取り組むために、経済的支援や社会的統合プログラムを導入していますが、解決は容易ではありません。

フランス社会におけるアルジェリア系移民の問題は、歴史的な背景や地政学的な要因も含め、非常に複雑であり、多くの場合、暴動やテロがその深刻さを象徴する出来事として挙げられます。

ドンズロのどこが凄いのか

この本が宇城輝人の翻訳によって出版されたのは2012年4月です。しかし、その3年後に、誰もが知る2015年のテロ事件が起こってしまったことです。
その後、フランスではテロ事件を契機に、国内外で議論が活発化しました。特に、イスラム系移民や少数派コミュニティに対する社会的な緊張が高まり、政治的な対立も顕在化しました。一部の政治家やメディアは、移民や少数派をテロリズムと結びつける危険な論調を取り、それがさらなる分断を生むこととなりました。この背景を受けて、アルジェリア系移民を含むコミュニティの統合や、過激派のリクルートを防ぐための取り組みが強化されましたが、その成果は限定的であり、根本的な解決には至っていません。また、経済的支援や教育の改善といった取り組みも、実効性に欠ける場面が見受けられます。一方で、多文化主義や包摂政策の再評価も進んでおり、社会的な課題に対する新たなアプローチが模索されています。フランス社会における多様性の受容や対話の重要性が再確認され、それが将来の方向性に影響を与えることが期待されています。このように、フランスにおける移民や少数派コミュニティの問題は、単なる経済的・社会的な課題にとどまらず、国家レベルでの政策や社会のあり方にも根本的な影響を与える重要な課題であると言えます。

まるで予言書のようなこの本を、あなたも手に取ってみませんか?



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