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感情のエッセイ

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気持ちを込めて書いた文章
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#家族

あなたを見つめた3日間

あなたを見つめた3日間

その電話がかかってきた時、僕は本当にどうしようもない奴だという事実が、避けようもなくやってきた。二日酔いで鉛のように重い体をなんとか動かし、スーパーへ入ろうとした頃のことだったと思う。いつも通り気の抜けた声で電話に応じると、母さんが震えた声で言った。

「陽ちゃん、お父さんがね、倒れたの。心肺停止なの。」



電話の向こうで母さんは救急隊員に呼ばれ、通話がきれた。その後も何度か電話がかかってき

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親じゃないからできること

親じゃないからできること

夏休みの終わりに、双子の甥っ子ズがうちに泊まりにきた。

嫁さんのお兄さんの子供で、小学5年生。10歳だ。
僕と出会ったのは小2の頃だったから、ずいぶんおっきくなったなぁとおもう。あのころ見分けのつかなかったふたりが、最近はすっかり別タイプの顔として育ってきている。

夜勤明け。ベッドから重い体を起こしてしばらくするとチャイムが鳴り、彼らはこのアパートへなだれこんできた。来るやいなやリビングに直行

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心の棚に灯りともして

心の棚に灯りともして

そういえば、夏休みに入ったんだなぁ。noteを読んでいてぼんやりとそう思った。

僕たち夫婦に子供はいないので、そういう季節感があまりない。いつだって僕らは2人で、暑い寒いといいながら思い出に色を添えている。
心の棚に飾られたそれらを眺めながら「また2人が彩られたね」と確かめ合う日々。

写真が並んでも埋まらない空白は、子供ができたら埋まるのだろか。

なんて思いながらも、目に見える多忙の毎

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ぼくのそばにいて

ぼくのそばにいて

姉が結婚した時、めでたい気持ちより先に一抹の寂しさがあった。

嫌いな部分はあっても、ずっと仲良く笑いあってきたお姉ちゃんが遠いところにいってしまう。嫁いでいく先が遥か遠くの土地だとか、そういうことじゃなかった。

名字が変わるだけ。そう意識しても、離れていく感覚はどうにもぬぐえない。さびしい。さびしかった。
姉はこの家にずっと嫌悪感を抱えていて、一人暮らしを始めるときも「ここにはいられない」と言

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曇りのなかで

曇りのなかで

死にたくなる時ってある。なんとなく気が乗らない程度のことで。
だるさと共に自分を捨てるようにして、電源を落としてしまいたくなる。

やりゃしない。ただ、そんなに大袈裟な話じゃないと思う。
寝たいのと同じ。二度と目覚めないだけで。

楽しいことがあること、愛しい人がいること。風が気持ちいいこと、美味しいものがあること。
その全てが、さほど重要と思えない瞬間がある。

疲れてるからだ。
全ては自分が健

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人生を眺める

人生を眺める

他人の人生を見ているのは面白い。

自分にはまったくフィットしない価値観があって、そこから産まれる悲劇や喜劇がある。出来事をどう受け取るかというのはひとそれぞれで、それによって未来はかわっていく。

自動販売機にお金を入れて、ジュースが出てこなかった時、自販機をぶん殴ってしまう人もいれば、その場で「まじかよ」と笑いだす人もいるのだ。
どちらがいいとかではなくて、もうその時点で道は分かれてしまい、ど

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私のへどろを知って

生まれた赤子の手を触って、涙が止まらなくなる。そんな夢をみた。

僕たちの間にまだ子供はいない。現在のスタンスとしては「できてもいいし、できなくてもいい」といった感じ。

最初は子供は作らないつもりだった。嫁さんにもその旨は伝えていた。

金銭問題であるとか、嫁さんのメンタル問題だとか、年齢による流産やダウン症等のリスク。色々と理由はあった。

しかし、一番の理由は「僕が頑張りたくない」からであ

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優しいを貪る

キレる、という行動をとったことがない。

自慢ではなくて、キレるというのは技術だと思う。そこにデメリットが存在するだけであって。

ゲームとかでいう、呪われたスキルみたいな。乱用しすぎるとキレやすくなってしまったり、場を制せる有能感に浸ってしまったり。そういうマイナス値みたいなのを管理しながら上手く使っていく技術なのだろう。

そのスキルを僕がなぜ習得できないのかと考えると、これまた呪いがかかって

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