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曇りのなかで

死にたくなる時ってある。なんとなく気が乗らない程度のことで。
だるさと共に自分を捨てるようにして、電源を落としてしまいたくなる。

やりゃしない。ただ、そんなに大袈裟な話じゃないと思う。
寝たいのと同じ。二度と目覚めないだけで。

楽しいことがあること、愛しい人がいること。風が気持ちいいこと、美味しいものがあること。
その全てが、さほど重要と思えない瞬間がある。

疲れてるからだ。
全ては自分が健康な時に感じられるもので、エネルギーゼロの状態じゃ何も受信できない。

昔、肺癌で手術をした時。頭の中で気に入っていた曲のイントロが流れて、止まらないことがあった。
入院中に聴こう思ってウォークマンまで持っていっていたのに、脳内で流れるそれが疎ましくて仕方なかった。

いざ手術だと覚悟をしたあの日。麻酔担当の医師が声をかけた。

「30秒ほどかけてだんだん眠くなってきますよ」

そんなの嘘で、5秒もたたず意識が切れた。

目覚めると、ほとんど呼吸ができなくなってて半分パニックになった。
さっきまでいた場所とは全然違う。ICUという場所らしいが、管だらけの体は起こせないし、照明は暗く、実験動物になった気分だった。
そんな中、頭ではずっとあのイントロが流れ続けている。

それはもはや拷問だった。
大好きなアーティストの大好きな曲の、ストライクゾーンど真ん中のイントロなのに、お願いだから止まってくれと悶えた。
発狂しそうな苦しみだった。

楽しいことというのは、元気があってこそだ。
疲れてちゃ何も楽しめない。

好きな人にもいい顔ができないし、搾りかすのような自分を見せることになる。
それを繕うのも、そんなことを心配する事そのものも、自分を消耗させる。

そういった全てを捨てたくなる。
僕は眠ってしまえば回復するけど、回復できない人が死んじゃうんだろうなと思う。

疲れた体と心で嫁さんとデートをした今日。
そんな気持ちを抱きながら、ふと彼女の手を握った。

暖かくて、ホッとした。

相変わらず疲れていたし、その後もあまり明るく振る舞えなかったけど、やっぱりこの人は愛しいのだと、心に染みた。

おもえば天気がよくなかった。ずっと曇っていて、どんよりとしていた。

僕は晴れていれば大抵気分がいい。疲れていてもすぐに癒される。
それがなかったものだから、駄目だった。

でも、嫁さんの体温。あの温もり。
あれは、柔らかなお日様だった。

なくさないように。彼女は、僕の日向。


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