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詩集
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沈む風船

沈む風船

田んぼに映る空へ 風船がとんでいった

あの紐に まだすこし 体温が残っているから
すこしだけ わたしもいなくなる

アメンボも 蛙も 空を泳いでいるのに
それに気づかないまま

冷たい風のなかの 幼い夏だけが
雲をおいかけていく

さよならと 言わないせいで
なにもおわりに なっていない

わたしの風船 
ずっとむこうへ 消えてった。 

揺れる水色

揺れる水色

紫陽花が濡れている。蒸した森やコンクリ、それらが溶けた空気が佇んでいて、たまにふく風がそれを遠くへ広げていく。
・・・梅雨の声が聞こえる。傘にあたる雨音に混じって、離れたり近づいたりしている。けれど、追いかけはしない。

熟してきた夜。
冷えた湿気が肌に触れ、体温をすこしさらっていく。そしてゆっくりと染み込んでくる、思い出。

いま、心は何色だろう。この花は鮮やかに滴って、どこか泣いているようだけ

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花と火

花と火

枯れた花が燃えている

死んだ後で こんなに鮮やかな色をはなつのは

幸せだろうか

照らされた頬が染まっても 中まで暖まるわけじゃない

枯れた花が燃えている

とっくに消えてもおかしくないのに 火はまだそこにいる

幸せだろうか

照らされた瞳が染まっても 中まで輝くわけじゃない

これがほんとの最後なのに

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元日

元日

甘い夢の裏側で

削られる肌は

まだ 若さを保っている

しんしんと雪は降り

手招きする嘘と 遠ざける本当に

温度のないものしか残らない

目の中の小鬼が

デタラメばかりを叫んでいる

「遠く 遠くに 救いがある」

頷けるわけもなく、ただ明ける年。

依存

依存

蛾が口のなかにいる

頬の内側で ピタリと動かず

わたしが悲しんだり 喜んだりした時だけ すこし羽ばたく

この乾いた不気味が 何度でも心を止めて

巣から 離してくれない

鱗粉が舌におちてくる

言いようのない苦味が 唾液と共に溶けて

侵食してくる

だというのに 

蛾を食べられずにいる

頬の内側で ピタリと動かず

わたしが憎んだり 嫉妬した時でも やはり羽ばたく

この乾いた不気味

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ひとつの絵

ひとつの絵

まあるい月から 雫が垂れたと思ったら それは涙で

いや、それも見間違いで ただ網から油が 炭に落ちただけだった

重く蒸発するようなその音は 一瞬のドラムのように静寂の中に響き また、虫の声が広がっていく

僕の目の前には 愛しい人が ハンモックで寝ていて 

いつものように イビキをかいている

音楽とも言えない音の重なりが 心に沁みてきて

また、僕は酒を呑む

幸せは 移ろうものと知りつ

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感性という麻薬

感性という麻薬

私のなかの とても美しい絵画は

現実には ラクガキにしかならない

私のなかの とても美しい映画も

現実には 学芸会のようなものだ

感性という麻薬が イタズラに心をみだしてくる

あの夕陽も 温もりも 涙も すべてはまぼろしなのに

私はなぜか 駆け出したくなってしまう

真っ白のキャンパスにぶつかって トマトのように潰れてしまえば

芸術になれるだろうか。

教室

教室

わたしからなにかを 引き算したら

のこったこたえは 奇数だろうか

白いノートに まるをつけても

あんまりきれいな かたちじゃないや

べつのなにかを足したって

わたしは浮き足 たったまま

だれかがまるを くれたって

わりきれないと ここを出れない。

ネズミの涙

ネズミの涙

安いワインを グラスに注いで

喉をならして 汚い幸せを流し込む

スカスカの魂から 垂れる涙を

知っている者にしか 

分からない苦しみがある

埃まみれの誇り

傷の少ない人生

足踏みしすぎて 窪んだ場所から

離れられずにいる

自分が腐るのを 対岸から眺めて

それをつまみに ビールを流し込む

スカスカの魂の 薄い悲鳴を

聞いた者にしか 

分からない苦しみがある。

憧れに照らされて(詩)

憧れに照らされて(詩)

遥か彼方から 浮遊するように落ちてきた

石が 砕ける瞬間を見た

一筋の光に照らされて 細かく 細かく

自分も光であるように 粒子になって

砕けていった

粉々になった石 何だったのだろう

胸に灯った熱は あの煌めきによく似ている

知っている

これは燻り ただの感情の燻りだ

燃え上がることなく 心のなかで死んでいくだけ

なのに 輝きがこれを照らす

まるで 手を差しのべるように

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和音

和音

熱さの無いマグマがやってくる

いつかの飲み込めていない思い出が

「嘘つき」と無言でみつめてくるようで

絵が 忘れられない

置いた感情

傘でしのぐことは出来ないから

今日はもう人形だ

首を吊った 人の形

けち臭い墓場

こんな ブサイクな自由は

寒いだけなのに

知らなかった傷が疼く

澄んだ空気と一緒に

迫ってくる

素知らぬ顔の景色

たんじゅんだ たんじゅんだ って

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消えた筆

消えた筆

置いた筆が転がってゆく

ころころ ころころ

知らぬ間に 泉に落ちて

ぽちゃん

とろうと思った筆はなく

跡をたどれば 水溜まり

ここに落ちたはずなのに

わたしの筆。

白い忘れ物

雪だるまが死ぬのは いつだろう

頭が溶けてしまったときか

降り積もり 埋もれたときか

子供達の置いていった スコップやバケツも

もうすでに 姿を隠しつつある

忘れものは これだけなのか

遠い雲から

白い細胞が降ってきて

雪だるまの息を ゆっくりと奪ってゆく。

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りょーさけさんとの詩交換朗読企画!第2弾です!

りょーさけさんの詩はこちら。

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人形の灰

人形の灰

人形を焼いた灰を

ふりかけに混ぜてしまおう

炊きたてのご飯にかけて 一気にかきこんだら

愛情を思い出せるだろうか

焚き火をじっと見ていると

恐ろしさと 懐かしさとが 浮かんでくる 

全く他人の顔の 母親のような 奇妙が

焚き火の向こうに立っているようだ

自分のなかにある なまの部分を

人形に重ねて 焼いてしまおう 

その灰を ふりかけに混ぜて食べたら

自分が分かるだろうか。