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揺れる水色

紫陽花が濡れている。蒸した森やコンクリ、それらが溶けた空気が佇んでいて、たまにふく風がそれを遠くへ広げていく。
・・・梅雨の声が聞こえる。傘にあたる雨音に混じって、離れたり近づいたりしている。けれど、追いかけはしない。

熟してきた夜。
冷えた湿気が肌に触れ、体温をすこしさらっていく。そしてゆっくりと染み込んでくる、思い出。

いま、心は何色だろう。この花は鮮やかに滴って、どこか泣いているようだけれど。それを見つめるわたしは、同じじゃない気がする。どれだけ綺麗なものに触れても濾過されず、薄っぺらいのに水彩にもなれない。この悲しみは、何色だろう。

淡いだけのわたしに輪郭がついて、淡いだけのわたしを失った。
ここにあるのは、ただの汚れた額縁。

それでも、水色の花が揺れるのだ。
枯れた感性にも風が吹く。深く息を吸い込むたび、心の境目が曖昧になっていく。また、声が聞こえる。わたしの僅かな水分を呼んでいる。・・・呼んでいるだけ。

いっそすべてが霧となり、ふわりと梅雨に溶けてしまえばいい。そうおもっても、足が重たい。

雨はずっと傘を叩いているのに、どこまでも静かだ。

濡れている。屋根も、街灯も、傘も、花も。瑞々しい夜のなかで、この入れ物だけが乾いている。傘を閉じたって、涙は流れない。

ただ紫陽花がそこにある。淡い美しさに憧れながら、どこか見下していることに気づいている。
わたしは汚れを知っている。そして、その目線が美しくないことも。

それなのに、水彩のようなあの頃を捨てられない。

偽物の憧れを見つめる。この悲しみは、何色だろう。



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