OKOPEOPLE - お香とわたしの物語

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ノート

一本の線香の向こうに ~お線香ができるまで~

1986年生まれの筆者が小学生の時に国語の教科書で読んだ、谷川俊太郎『一本の鉛筆の向こうに』。登場人物のゴンザレスさん・ポディマハッタヤさん……。彼らの名前の響きそのものに、当時の私の心は奪われました。

もし学校の授業でこの話に出会っていれば、かなりの割合の方が印象的に覚えているのではないでしょうか? いや知らないよ……という方にかいつまんで紹介させていただくと、みなさんが当たり前のように使って

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離乳食は出汁の香り おっぱいとダシのシームレスな関係

おっぱいとダシは繋がっている。こう聞いてピンとくる人はどれくらいいるだろう。

夜から昆布を浸しておいた鍋を火にかけて、沸騰したらかつおぶしを投入。ひらひらのリボン状のものが、ふああっと動いてしゅんっと縮んで、良い匂いが立ちこめてくる。火を止めて漉して、とれたての出汁で人参を煮る。

離乳食をつくるのだ。

子どもが乳だけを飲む期間は思いのほか短くて、生後約半年、やっと授乳に慣れて落ち着いてきた頃

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「移り香」 ~ 顔うずめる時 ~ (6)

「自分の枕の匂いっていいよね。ときどき突っぷしてクンクンしたくなる。」

私は「へーえ」と応え。そして、恥じた。

よそよそしいくらい洗い立てのリネンやTシャツに、ホッとする気持ちは変わらない。
でもその時の言葉には余白も何も無くて、千の天使が聴き耳を立てた気がした。

ソンナトキモ、アルカモネ
ソンナトキモ、アルカモネ

私はただ狭く小さく、そして斜めだった。

久しぶりに長い風邪をひいている。

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世界の 秋は金木犀の匂い があるところ

廊下に出ると、ひやっとした冷たい空気と一緒に、甘さがふわっと香った。甘さと、木から揮発される何か良さそうなものが混ざった匂いだ。吸うと身体がなかからまるごと洗われる気がして、何度か深く息をした。

廊下は扉を開けっぱなしの洗面所と繋がっていて、匂いはそこの、雨の日以外は開けている窓からきていた。住んでいる集合住宅の後ろには、木の生い茂った広い庭のあるお屋敷があって、雨上がりや早朝など、空気中にたく

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香木と妻

2016年に10年以上お付き合いを続けてきた中学校の同級生と結婚した。中学の頃から「私は看護士になる」と宣言してきた妻は、その夢を叶え、現在もその仕事を続けている。誇り高く仕事をし、家事もそつなくこなす妻には本当に頭が上がらないのだが、一つだけ大きな不満があった。

それは、私の大好きな「香木」を「そこら辺に落ちているような木じゃん」と一蹴すること。これに関しては私も黙っていられないと、言い争いを

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祖父母の香りと“去来”

私は自他ともに認めるおじいちゃん・おばあちゃん子である。大好きだったふたりは、もうこの世にはいない。しかし、今でも私の心の大きな支えである。だから、どんなに仕事が忙しくても、1カ月に必ず1回は墓参りに行く。

祖父母の墓石には、祖父の字で「去来」という文字が書かれている。祖父母とはあれほどたくさん話をしてきたのに、なぜ「去来」なのか知らずじまい。祖父の血を色濃く継いだと親戚中に言われるが、やはりそ

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「慈雨」 〜 Calling you 〜  (5)

雨の日が苦手と言う私に、その人は飛び切りチャーミングでパワフルな”おまじない”をくれた。

「此処はパリ!」

そう声に出して言うだけで、窓の外は景色のパーツそのままに、パートカラーの映画のようにニュアンスだけをハラリと変える。
冷たくくぐもった鉛色の街がしっとり落ち着いた艶を見せ、霧雨のスクリーンはソフトフォーカスの画面、路地の向こうには先の読めない出来事が手招きしているようだ。

寒さが厳しく

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香道具が置かれた場所①:会所と座敷飾り

前回の記事では、香雅堂の朝のルーティーンについて書きました。今回は少し毛色を変えて、私の大学院時代の研究について書こうと思います。大学院では、室町時代の座敷飾りというものを研究していました。座敷飾りの飾りには唐物(からもの)と呼ばれる中国からの舶来品が使用されていました。唐物には掛軸などの絵画、筆や硯といった文房具、茶碗などの茶道具、そして香炉や香合などの香道具といったものが挙げられます。

会所

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「香道」 ~ 漂うように 〜 (4)

余白の匂い
日々漂う匂いの体験と思いの切れ端を綴る「はなで聞くはなし」 

前回の記事: 「盆会(ぼんえ)」 ~ いかれたBaby ~ (3)

香りを”聞く”と言い慣わす世界に迷い込んで十余年。
この九月、「香道」を始めて新しいひと回りの年を迎えた。

”香り好き”ではないが”匂い”には興味があった。
「○○は鼻が利くから。」
母からは冷蔵庫に残ったお肉や魚の「お鼻見」をよく頼まれた。

中学三

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[小説]ながれながれて(後編)

ほりごこち
仏像が日本にやってきてから1500年の間、御像の数だけあったであろう幾多のエピソード。仏像を造ったり修復したりする造佛所で、語り継がれなかった無数の話。こぼれ落ちたそんな物語恋しい造佛所の女将がつづる、香りを軸にした現代造佛所私記。

前回の記事:ながれながれて(前編)

前編はこちら

香りに誘われて

 すっかり寝る支度を整え、少女は再び机の中央に文箱をすえた。

 さきほどとは違

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いま、後光がさしておられます…!
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