okopeople

むかしの匂い

「これね、むかしの匂いがする」 猛烈にキーボードを叩いていた私は、娘の声にハッと顔をあげた。パジャマ姿の娘が匂い袋を手に取りクンクン嗅いでいる。その三つ連なった小袋は数年前に私が縫ったもので、中には香木店で買った詰め替え用が入っている。しばらく住まいの裏口に掛けていたが、模様替え…

春のめざめ、甘やかな記憶たち

編集部より:今春、作家ヴァージニア・ウルフへの愛情に溢れたファンブック『かわいいウルフ』が出版された。編著者である小澤みゆきさんに、ウルフと香りにまつわるエッセイを寄稿いただいた。新しい季節に、甘い青春の香りが蘇る。 この春、『かわいいウルフ』という編著を出版した。もともとは同人…

「泥の香」 ~ 蟲たちの春

週末に買った鉢の植替えをしていたら、部屋がヒヤシンスの花と土の匂いで春一杯になった。 年明け以来、フリージアや水仙、ミモザ、菜の花と“黄色”にばかり目が行っていたが、徐々にピンクやラヴェンダーの花に惹かれてゆくのは季節が進んだ証拠。イエローに始まり、梅~桃~桜と”ピンクの饗宴”へ…

ものを作る家族と、喪失の香り

編集部より:シンガーソングライターのしずくだうみさんにエッセイを寄稿いただきました。もの作りの家に育ち、やがて表現活動へと導かれていったしずくださん。お香のかおりは、そんな家族を喪う記憶とともにありました。お香にふたたび出会い、自身のもの作りと家族の関係を振り返った記録。 お香の…

「Scents of Heaven」 ~ 今ここの記

「三渓園、行ってみたいですね」 「それならぜひ「観蓮会」に。早朝のハスの開花は本当に見事、こんなに香り高い花だったのかと驚きますよ」 ──真夏の日本庭園を思い浮かべながら、ワインバーのカウンターで今年最後のボトルを空ける。店に年末の挨拶をと半年ぶりに自粛を押してやって来たのだ。せ…

潮とラム酒と葉巻香るプエルトリコ、自由と孤独の間で

編集部より:前回、私を取り戻す香りを寄稿してくれたcittaちゃんの新記事では、2年ほど前にプエルトリコを訪れた時のことを回想してくれました。この情勢でいつ行けるとも知れない異国の香りを感じてみてください。 2018年2月、単独でカリブ海に浮かぶアメリカ自治領、プエルトリコのサンファンに行…

伝説の山椒と田舎で見つけた香りの宝

横浜で司書として働きながら、お香づくりや香原料について学んでいる、ヨシコ・コジチさんにご寄稿いただきました。パートナーの実家である兵庫県の丹波と但馬でヨシコさんが出会った、伝説の香辛料「山椒」。その香りをめぐる物語です。 伝説の香辛料「朝倉山椒」 朝倉山椒は、但馬の朝倉の特産品で…

見えない色、見えないかたち

編集部より:SF作家の津久井五月さんにエッセイを寄稿していただきました。調香師に憧れた高校時代から、小説家として活動する現在に至るまで、津久井さんの香りや煙に対する感覚の変化が描かれます。 調香師になるには10年の修業が必要らしい。 10年ほど前、高校生だった頃、文系・理系の選択を前に…

「ホタルノヒカリ」~ 想いに添えて

シソにも実りの季節があったとは。 大葉の鉢が急に枝を伸ばすのに驚いていたら、可愛いらしい蕾や花や実をつけた”穂ジソ”だった。 刺身のツマに付いてくる小房。こんな小さなものにも実りの季節があって、都会のベランダに秋の贈り物を届けてくれる。ささやかな律儀に感謝しつつ、さてどうやってい…

「金木犀」 ~ 思い出でもないくせに

嗅覚にも得手不得手があるのだろう。 私はもしかすると“花”系の香りを感じにくいのかもしれない。 去年今頃のしっとりとした夕方、買い物帰りの住宅街で何ともいえない華やかな香りが鼻をくすぐった。突然景色が変わってしまうような芳香の先には緑の庭木と枇杷色の細かい花の集まり。後からキンモ…