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家と香木

特に隠していたつもりはないが、香木が好きだということを特に言わずにいた。

周りに知られたのは結婚式がキッカケだった。会場入り口に、電子香炉と、当時持っていた香木の中で好みのものをすべて展示して、聞香ができるようにしたのである。それが元で、妻の友人には、式の最中に不安な眼差しで「なんか変な木が好きなんですね」と言われた。隣の妻は大笑いするだけで弁明せず。初めて会った妻の友人に必死で説明し、「良いご趣味ですね」とご理解いただいた。夫としての面子は何とか保てた……と信じている。

色々な縁があって、1年前に居をかまえた。自分の城を持てたことは大変嬉しいし、頑張ろうというモチベーションにもなっている。一番嬉しいのは、妻と2人の時間がゆっくり動いていることだ。雰囲気の問題なので、あまり上手く表現できないが、我ながら良い家だと思う。基本的に家具のデザインや色などは、妻の希望を第一にしたものの、一つだけ譲れないお願いがあった。それは玄関。ここだけは私の希望を貫いた。

我が家の玄関には、祖父の香炉と季節の花。そして香道具が飾られている。香雅堂さんで購入させていただいた香りの箱も置き、玄関に入ると良い香りがするようにした。でも近くには洋画が飾ってあり、気の置けない友人曰く「和洋折衷だな」とのこと。好きなものに囲まれる以上の喜びはない。最寄りの駅からは遠いし、仕事終わりは疲れているはずだが、不思議と早歩きになる。

いまの家に越してからは、香りと向き合う時間が以前よりも加速して増えた。休みの日が決まっていない夫婦なので、一緒に行動を共にできるのは1カ月に2度程度だが、毎回簡単な組香をし、感想を言い合う時間がある。私は木所で判断することが多いが、妻はなにか別のものに喩えることが多い。たとえば、「使い古しているけど、ちゃんと天日干ししている座布団の香り」とか、先日の寸門多羅(御家流)については「ネズミのおしっこの香り」とか、嗅いだことあるの?と驚愕してしまうような表現も多々ある。しかも「●●みたい」のような表現ではなく、常に断定的なのだ。恐らく妻の方が、持っている香りのバリエーションが豊富なのだと感じる。


【連載】香木研究所
「敷居が高い」と思われがちの香木・香道ですが、私は単純に香木の香りに魅了され過ぎて、その敷居を感じる間もなく不躾に接してしまったと今さらながら猛省しています。しかし、香木・香道を通じて私と関わっていただいた方々は、皆様素晴らしい人間力をお持ちでした。この連載は若輩者である私にご指導・ご鞭撻下さった諸先輩方、そしてこれから香木に触れることになる方に向けて、これまでの感謝とともに、香木を通じた心の変化を綴っていきたいと考えています。いつの日か、この連載を読まれた方と香木について語り合える日が来たらと夢見ております。
前回の記事:香木と妻

【著者】
学生時代に多くの外国を訪問。特にオーストラリアとネパールには並々ならぬ思い入れを持つ。海外での経験を重ねるごとに日本を顧みる機会を得て、約9年前に香木に出会い、一生の友とすることを誓う。その友を知ってほしく日々紹介するものの、伽羅以外を受け付けない妻に孤軍奮闘中。いつの日か好きな香木と香りを通じて知り合った仲間と一緒に、純粋に香木を楽しめる空間を持つことが夢。「香りで繋がりたい」と心底願っている、語学教育総合企業に勤務する35歳。

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