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おもかげの香り、はじめての香席

香りに恋をして
「あのときの、おもかげの香りが私の道標だ」全てのはじまりは、幼い頃手に取った一冊の本でした。お香初心者による、お香を巡る冒険の記録。

前回、私とお香との出会いについて書いた。今回は、はじめて私が体験香席に参加したときのことを書きたい。というのも、貴族や武士、裕福な庶民が行なっていた華やかなイメージのある香席に参加して、はたして気後れせず楽しめるのか。お香初心者向けのイベントとはいっても、実際に参加するまで不安で一杯だったからだ。自分と同じ気持ちの方の助けになるように、記しておく。

1月18日。私はOKO CROSSINGさんのご厚意で、香雅堂さんで月に一度開催されている体験香席に参加させていただくことになった。元々気になっていたイベントだったので参加は楽しみではあったものの、香席は全く未知の世界。どのような服装にすればよいかなど、つい色々なことが気になって、当日までにホームページを何回も確認してしまった。

服装については、「洋装でのご参加が90%以上です。スカートの場合は和室で座った際に膝が隠れる丈が望ましいです」と、 書いてあったので、いつも通りカーディガンにブラウス、スカートを着て行くことに。芸道というとどうしても着物のイメージがあるが、着物でも洋服でも着慣れた普段の服装で大丈夫だと知って安心した。

「香りを聞いて、楽しむ」

当日香雅堂に着き、会がはじまると、まず「香道・香木・歴史の概説」について教えてもらった。沈香の原木や香炉に乗せるための香木を切り出す作業も見せていただいた。写真や文章で見たことはあっても、なかなか実際に見る機会のないことばかり。いつもは線香やアロマオイルなどでしか香りを楽しんだことがなかったので、焚かれる前の香木自体にはあまり匂いがないことが不思議だった。

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焚かれる前の香木

次に『組香』について教わった。季節ごとに選ばれたお題をイメージした、何種類かの香木の「香りを聞き分ける(あてる)遊戯」が組香である。聞き分けた香りを書き込む回答用紙である「記紙」の書き方や香炉の持ち方、今回の組香のテーマも話された。

初心者である私にとって、その中でも一番印象深く心に残っているのは、「組香は正解することが目的ではない」ということ。実際に香席を体験して、その言葉が実感をもってわかるようになるのだが、「香りを聞いて、楽しむ」。それが一番大切なことだと教えていただいた。

試香

香道の歴史や組香の作法について一通り学んだあと、いよいよ和室へと場所を変え、香席が始まる。最初は、先程説明していただいたとおりに、記紙に名前を書く。使う道具は墨と筆だ。普段使わない道具なので緊張するが、炭の香り、筆先が和紙の上を滑る感触を新鮮に感じた。

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記紙(名前は数字の書いてあるところに書きます)

全員が着席した後、香炉などの道具の用意と筆記の準備が同時に行われていく。そのぴったりと揃った美しい動きは、シンクロナイズドスイミングを見ているようで楽しかった。そういった事前の準備が整ったら、いよいよ主催者(ゲームマスター)である香元から順番に、何種類かの『試香』が回ってくる。『試香』というのは、《答えのわかった状態で炷きだされた香》のこと。ここで、それぞれの香りをよくイメージすることが重要になる。

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用いられる香道具

左手でもった香炉を、すっぽりと右手で覆い、ひい、ふう、みいと三息で胸いっぱいに香りを吸い込み、そっと香炉の外側に吐く。

吸って、吐く。その一瞬のなかで、呼吸の音、心臓の音、微かな雑音、全ての音、緊張が次第に遠くなっていくように感じた。緊張している時は香りがよくわからなかったのだが、段々とリラックスして心地よく香りだけに集中できた。

本香

『試香』が一周する頃合いで、香元から「出香」と掛け声がかかり、『本香』が回されてくる。『本香』とは、先程の回ってきた香炉が完全にシャッフルされた状態で回ってくることだ。回ってきた香は、試香で回ってきた三種類のうちのどの香だったか。先程聞いた香のイメージを参考にして、答えをじっくりと考える。

答えがわかったら、記紙に回答を書き入れていく。そして、全員に香が回り、記紙がそれを記録紙に書き写してくれる執筆者の手元へと送られると、今回の答えが発表される。

そして、「得点」の書かれた記録紙を見せていただくのだが、例えばお正月に行われる松竹梅香では、一や二などの得点以外に、『叶』の文字が書かれている。松竹梅香では、全問正解したとき、お正月らしく「三つ全て正解した際、数字ではなく『叶』と書く」そうだ。書かれる字は各回の組香ごとのテーマによって違うので、参加した際のお楽しみ。

最後には香道具などの写真撮影。お土産にお線香をいただき、体験香席は終了した。

香の世界の入り口で

香道・香席は、敷居の高いイメージがあったり、全く未知の世界で不安だったりする人も多いと思う。私自身、参加するまでは本当に不安だった。

けれど、体験香席では、参加者は全員自分と同じ全くの初心者で、歴史や作法についても、その都度その都度説明してもらえる。道具は勿論、経験や知識も一切必要なく、服装も殆ど自由だ。そのため、最初のお話の時点からすっかり緊張もほぐれ、香の良い香りに癒されながら、楽しく体験できた。

また、今回香席を体験して、気づいたことがある。それは、香を覚えるには「記憶力」も「嗅覚」も、多分あまり関係がないのではないかということ。鼻だけで香りを覚えるのは本当に難しいからだ。

「香を聞いた瞬間、イメージしたものを、どれだけ膨らませることができるか」。そのためには、よく「香りを聞いて、楽しむ」ことが一番大事なのだろう。今回の体験でそのことを知ることができた。

香を楽しみ、香で遊ぶことで、心を磨く芸道。その入り口を体験させてもらったことで、より香の世界に魅了された気がする。

蛇塚 巴詠
群馬県前橋市生まれ。服飾系大学を卒業。在学中の就活疲れや、就職した会社と合わず、メンタル面から体調を崩していたときに「文学」と「アロマテラピー」に心を救われる。現在は仕事を辞め、東京から「水と緑と詩のまち」にUターン。スローペースでアルバイトやボランティア活動をしつつ、香やアロマテラピー、文学、歴史について勉強中。

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