見出し画像

私を取り戻す香り

編集部より:昔からの友人cittaちゃんが寄稿してくれました。色々なことを克服しながら生きる彼女の日常がとてもリアルで心に響きます。お香のことを褒められ(?)すぎてお恥ずかしいくらいなのですが、素敵な文章なのでそのまま紹介させていただきます。

日本の伝統文化には今までほぼ所縁がなかったが、最近習慣になったものの一つに「お香」がある。機会があって始めてみた「OKOLIFE」の定期便をきっかけに「香り」が今では暮らしの欠かせない一部となっている。時には自分を解放し、傍に寄り添い助けてくれ、何しろいつも大きなパワーを与えてくれるのだ。

多くの人々の生活を激変させたであろうコロナウイルスは私の生活にも影響を与えた。今まで考えられなかったような働き方が始まった。テレワークである。

学生の頃から人付き合いが得意でなく、世間話ですらぎこちなく、教室の端っこで読書ばかりしているような人間だった私であるが、確か就活を始めるくらいの時期に、大学受験でお世話になった恩師に「対人能力をどうにかした方がいい」と助言され、素直にそれを高める決心をした。それまでは声も小さく話しかけても人に気づかれないことすらよくあったが、友達を積極的に作りたくさん会話をしてみたり、接客業のアルバイトでは笑顔で初対面の人間に対応することを覚えた。

現在はフリーランスで講師業をしているが、職種は違えど大学卒業以来ずっと人と話す仕事をしている。けれど身についたのは、結局演技力にすぎなかったのかもしれない。本質的に、私はまだ非常に内向的で非社交的な人間であるが、それを悟られない振る舞いができるようになったというだけの話である。

テレワークが始まったばかりの頃は、不謹慎ではあるが、コロナウイルスに感謝ばかりしていた。私にとって、通勤はアドベンチャーである。駅までの10分ほどの歩行ですら大変刺激的だ。突然風が吹いたり虫が飛んできたり人が走ってくるだけで脳内は大パニックである。極度の方向音痴なので知っているはずの道がある日いきなり分からなくなることもあるし、電車に乗ると乗り物酔いをするし密室であるため大声を発する人などがいると逃げられず地獄となる。いつも心を平穏に保っていたいのに次から次へと災難がふりかかる。だから外出は苦手だ。

そんな通勤から解放され、テレワークの恩恵を享受していていたのもつかの間、ある時自分がいつも以上に疲れていることに気が付いた。モニター越しのやりとりでは、対面で話す時よりも話の伝わりやすさがどうしても劣ってしまう。画面を共有して見て欲しい箇所を示すことは出来ても、指をさして目の前の資料を見て確認していたのとは大きな違いがある。

そんな中でもオンラインで仕事をする最大のストレスは、常時自分の顔が見えることだ。鏡を見ながら話している感覚である。単純に恥ずかしいし、自分の容姿が気になって集中できない。また、画面がテレビのように見えるため、ニュース番組のアナウンサーのように、無駄なく簡潔にはっきりと一回で必要なことをスマートに伝えなければいけないというプレッシャーを感じ、それに圧倒されてしまうのである。そこに元来あったコミュニケーション能力への不安も合わさりどんどん自信がなくなっていく。

何度も何度も仕事が嫌になった。けれど、逃げることはできない。自分の人生には自分で責任を持つというのが私のポリシーである。たとえパートナーが富豪であろうと、甘えられる環境にいようと、自分の生活はどうにか自分で支えたいのである。自分の足を使って立ち、かっこよく歩いていきたいのだ。しかし、どうしても足に力が入らず歩くことはおろか、立ち上がることさえも難しくなってしまうこともある。

ある時、試しにお香を焚いてみた。なんとなく手にしたサンプルでいただいたジャスミンの香りのするものだった。空気がじわじわと変わっていった。気分が高揚し、口調も滑らかになった。自然と笑顔になった。魔法のようだ。中学1年生の時に買ったリップクリームの香りに似ていた。肌が弱く合わなかったため結局ほぼつけなかったが、初めて蓋を開けたときその官能的なかぐわしい香りに心拍数が変わるくらいドキドキし、その感覚に酔いしれていつも制服のポケットに入れて持ち歩き、こっそり香りをかいでいた。その頃の自分は友達がほぼおらず、学校はいつも辛い場所であったが、そのリップクリームのお陰でどうにか生き延びることができた。

今の私もジャスミンのお香にたくさんパワーをもらっている。自分の力だけではどうにも立ち上がることが出来ない時は、誰かや何かに助けてもらうことも悪くない。自立という名でかっこつけようとしても無理な時は無理なのだ。そんな時は魔法の道具に堂々と頼っても良いのである。香りが寄り添ってくれるから大丈夫だという安心感が私を守ってくれる。心地よく幸せである。お香との出会いに心から感謝。

画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?