お線香みたいな“香菓子”ができました──OKOLIFE「時鳥」から生まれたお菓子の魅力を、菓子職人・小島直子さんと語り合う
時鳥の声をもう一度聞きたい。そんな思いで日を暮らす情景をイメージしたお香の定期便 OKOLIFEのアイテム「時鳥」。そんな時鳥にぴったりな“香菓子”ができました。お線香にそっくりな、おいしくてかわいいお菓子を手がけてくださったのは、菓子職人の小島直子さん。その発売を記念して、直子さんと香雅堂・山田の二人で、制作のプロセスやお香づくりとのつながりについて語り合いました。二人の対話は、お菓子を開封するところから始まります。
いざ、開封!
山田:今日は菓子職人の小島直子さんに来ていただきました。直子さんは、OKOLIFEの「時鳥」にあわせる“香菓子”を制作してくださりました。
小島:よろしくお願いします。もう召し上がっていただけましたか?
山田:じつはまだなんですよ。お話するときに開封して食べようかなと思って。いま、初めて開けます。
山田:わあ、本当にお線香みたい。表面の質感もそっくりですね。ちょっといただきつつ、お話できたらと思います。
小島:緊張しますねえ。あらかじめ少し説明すると、シナモンの甘みをベースにしつつ、スッとしつこくなく抜けるような風味に仕上げています。
山田:(頷きつつ)うん、おいしいです! たしかに、甘さもありつつ、さわやかな風味がありますね。
小島:よかった、安心しました(笑)。さわやかなところは、ペパーミントですね。油で揚げるときに入れるクローブも効いていると思います。油は米油にしているので、酸化しづらくて、時間が経っても香りや風味が落ちにくいんですよ。
山田:今回のテーマである「時鳥」のお香も、少し辛味がありますよね。清涼感が出るように、丁子(クローブ)やハッカを入れているからです。そこを再現いただいた感じがしますね。
小島:そう言っていただけて嬉しいです。「時鳥」の森林っぽい雰囲気を、ペパーミントやクローブで表現したくて。
山田:ありがとうございます。ちょうどそんな風味になっていると思います。
複雑な風味を生み出す
山田:それから、いろいろな風味が入り混じっているところも、お香の世界観に似ていますね。お香をつくるときも、ひとつの香りしかしないものはかなり少数なんですよ。「なんの香りかわからないけど、いい香りだな」という感じが理想なので、はじめはシナモンの香りだけれど、だんだんと複雑になっていく。そういうものが多いんです。
小島:嬉しいなあ。というのも、もともと私は和菓子といっても、エキゾチックで、どこの国のものかわからないようなお菓子をつくってみたかったんです。それで今回のお菓子の場合、日本で採れる原材料は黒糖と和三盆くらいです。ペパーミントはエジプトだし、クローブはシンガポールですね。
山田:お香はシルクロードを通って伝来したものですから、そのコンセプトにぴったりだと思います。この「時鳥」の原材料も、日本で採れる素材はハッカくらいですからね。
小島:今回はお香とのコラボレーションということで、ぜひとも無国籍な和菓子に挑戦してみたかったので、大変良かったです。
“食べられるお線香”をつくる
山田:……と言いつつ、引き続き2本目もいただいているんですが、1本目とまた印象が変わりますね。さっきは風味の話をしましたが、ポリポリした食感がいいなと。
小島:食感については、楽しく食べられるものにしたいと思っていました。そこでブカティーニっていう真ん中に穴の空いたパスタを使っています。空洞のおかげで、揚げるとポリポリするんです。お話をいただいたときから「食べられるお線香があったらおもしろいな」と思っていて、こういう細長いお菓子にしたかったんですよ。
山田:うんうん。お線香の見た目を再現するうえで、最初からパスタでやろうと考えていたんですか?
小島:いえ、そこはかなり試行錯誤が必要でした。最初は駄菓子のきなこ棒みたいな感じで、げんこつ飴と同じようなものにするつもりだったんですが、うまく固まらなくて。賞味期限もかなり短くなってしまうし、これではダメだなと。
山田:なるほど。
小島:ほかにもクッキーみたいなお菓子はどうかと試したり、うどんのように薄く生地を伸ばしてみたり。いろいろやったんですが、お線香とそっくりな見た目、折れない強度、賞味期限の長さ、この3つを兼ね備えたものにすることが難しかったです。正直、途中でもう無理かもしれないと音を上げるところでした(笑)。
山田:軽い気持ちでお声かけしてしまいましたが、そんなに苦労の連続だったとは……。
小島:いえいえ! 最終的には、かりんとうみたいなお菓子だったらいけるんじゃないかというアイデアを思いついて、そこからは一気に実現できました。かりんとうと同じく、小麦でできたパスタを使ったわけですね。
香り文化と飲食物
山田:香菓子と飲み物のかけあわせとしては、どういうものがおすすめですか?
小島:私は緑茶からほうじ茶、中国茶まで、なんでも飲みます。もしこのお菓子とあわせるなら、ハーブティーや中国茶がいいかなと思います。反対に、緑茶や抹茶にあわせるとなると、少し甘さが足りないかもしれませんね。コーヒーなんかもあうと思います。
山田:おお、コーヒーは意外な感じがしますね! 今度試してみたいです。
小島:お香には、飲み物やお菓子とあわせる文化はあるんですか?
山田:特別な指定はないので、なんでもありですね。普通に自宅でお香を楽しむ場合には、お線香の香りがしっかりしているので、食べ物や飲み物の香りを楽しみながら焚くのも素敵だと思います。
小島:いいですね。香道の場合は違うんですか?
山田:そうです、芸道としての香道においては、弱い香りを用いることもあって、香りを楽しんだ後に食べたり飲んだりします。香りが混ざってしまわないよう細心の注意を払う芸事なので、生けるお花も造花にするくらいなんですよ。
小島:なるほど、香道は純粋にお香の香りを楽しむイメージなんですかね。
客観性はほどほどに
山田:お菓子の風味の調整も、かなり細やかな感覚が求められそうですよね。
小島:そうですね。特に難しいのは、味や香りは人によって感じ方がぜんぜん違うところです。私の友人にガソリンスタンドの匂いが好きな人がいるんですよ(笑)。私は苦手なので、聞いたとき印象に残りました。ある人は好きだけれども、またある人は苦手。そういうことがままあるので、悩ましいですね。
山田:そうなると、主観と客観のバランスが難しいですね。
小島:だからこそ、まずは私がおいしいと思うお菓子をつくります。その主観を大事にしないと、他人に迎合したものになってしまいますからね。もちろん、自分以外みんなが嫌いなお菓子になってしまってはダメなんですが。
山田:ちなみに今回の香菓子は、制作中に誰かに食べてもらいましたか?
小島:自分で納得できるものに仕上げたあと、パートナーに食べてもらって、おいしいと言ってくれました。ちなみに、いつもは子どもにも食べてもらうんですが、子どもは嘘をつけないので、褒めてくれると本当に嬉しいですね。ただ、子どもが好きな味には偏りもありますから、必ずそれが正しいとは限りません。客観性はほどほどにって感じですかね。
山田:私も同じです。まずは自分が好きな香りでなければ、出せないですね。OKOLIFEって12種類あるんですけど、すべて自分がいいと思ってから出しています。
小島:でもお菓子をつくっていると、どういう味になっているかわからなくなることもあるんですよね。「これっておいしいのかなあ……」って不安になることがあります。山田さんもありますか?
山田:あります、あります(笑)。味覚や嗅覚は、特にまったく違う感じ方になることもあって、難しいですよね。最近、そのメカニズムに驚かされることが多いです。
今後のコラボレーションの可能性
山田:だいぶ話し込んでしまいましたね。改めて、今回の「時鳥」と「香菓子」は、とってもいいコラボレーションになったと思います。
小島:そうですね。出来栄えにも満足していますし、個人的には新しい扉を開けたような感じもしています。お声掛けをいただかなければ、つくることのできなかったお菓子だと思います。ちなみに、今回の制作でベースとなる部分も固まったので、また違う香りのお線香とのコラボレーションもできそうですよ。
山田:本当ですか! ぜひやりましょう。
小島:今回はシナモンで味付けしていますが、カカオなんかも合うと思います。テーマに合わせて、ハーブティーのブレンドをつくってもいいかもしれません。
山田:いいですねえ。10月にはカモミールを使った「菊枕」というお香もあるので、カモミールティーから考えてみてもいいかもしれません。そういうわけで、今後の構想もたくさんありますので、まずは今回の「時鳥」を楽しんでいただけたらと思います。改めまして、小島さん、本当にありがとうございました。
小島:ありがとうございました!
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