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〈うまく生きない〉人の美意識、あるいは 高倉健

noteを見ていると、いろいろと違和感を感じることがある。

自己紹介として、経歴や肩書きなんかを紹介しているのだが、いかにも立派そうなそれを、ズラズラ並べている人が少なくない。
まあ、それは嘘ではないのかも知れないし、自分をよく見せたいというのは、人間誰しもあることだから、悪いとは言わないのだが、私の場合、人間が「古い」せいか、そういうのは「恥ずかしい」と思ってしまう。

端的に「自慢は恥ずかしい」のだ。
人間は「謙遜」するくらいの方がカッコいいのだと、そういう感覚がある。

他人が褒めてくれるのは嬉しいが、自分で自分を褒めるというのは、いかにも日頃、人に褒めてもらえない人間のようで、みっともない。まさに「被評価乞食」「被承認乞食」のようで、見苦しいと感じる。

人に誇れるところがあり、黙っていても、人がそれに気づくほどのものを持った人なら、わざわざ自分からそれを吹聴したりはしない。つまり、自慢話なんかしない。だからこそ、自慢話はみっともない、と思ってしまう。

これは、きっと、日本人の古い美意識なのだろう。
寡黙で自己主張をしないけれど、いざとなれば一人でも敵に立ち向かっていく、そんな「高倉健」的な男(人間)はカッコいい。
どんなに、皆に貢献しても、それを自ら吹聴することはなく、むしろ隠そうとする。みんなが幸せになってくれるのなら、それで十分。自分が称賛されたり感謝されたりする必要はない。
それどころか、逆に誤解されたって、いちいち言い訳なんかしない。自分が評価されるためにやっているのではないのだから、誤解する者にはさせておけばいい。ただ、自分は自分の信ずるところを生きていくだけである。

これは、他人から見れば、損な生き方、不器用な生き方だろうが、だからこそカッコいい。
かつて、保険会社のTVコマーシャルで、高倉健が「不器用ですから」とひとこと発するセリフがカッコいい。

要は、要領の良い生き方、器用な生き方は、望ましいものではあるけれど、やはり、どこか美しくない。
「私を見て! 私を褒めて!」とアピールするのは、あまりにも安直に、効率的すぎるからだろう。
だから、表彰台になど、恥ずかしくて、上がりたくはない。高い所が好きな人間は馬鹿だというのが、通り相場なのだ。

真の美とはしばしば、普通から外れた、その稀少性にあるのではないだろうか。
皆が求めるものを、同じように求める人は、当たり前だけれど、凡庸でつまらない。当然、さほど美しくもない。だから、不器用に損な生き方をするくらいの方が、美しいし、カッコいいのだ。

こういうのは、近代合理主義的な感覚からすれば、不合理で倒錯的なのだろう。なんで、わざわざ、そんな損を取るのか、ということになるのは、理の当然だ。
しかし、「美」とは、そもそも不合理なものなのだ。

だから、美しさというものは、必ずしも「金儲け」に繋がるわけではない。
無論、美男美女が経済的に得になる場合が多いのは事実だ。何でも商品化するのが資本主義社会であるから、美が商品化されるのも当然である。
しかし、商品化されない美こそが、真に稀少であり、稀有に美しいのではないだろうか。

当然、そうした美は、当たり前に流通する「美」とは、意図的にズレたところに生み出されるものともなるだろう。
無論、それだと「商品」にはなりにくいのだが、むしろ「商品」になどなってたまるかという、ある種の積極的な反骨心が、そういう美意識にはある。
だから、そうした美は、同時代には評価されにくい。だが、だからこそその美は、いつか誰かに「時代に迎合しない、先駆的は美意識」として評価されるだろう。「その他大勢の美意識」として朽ち果てることはない、特権的立場を得ることもできるのだ。

その頃、すでにその行為者本人は死んでいるかも知れないが、その称賛の声を聞かないまま生きて死んだということが、その行為の純粋性であり稀少性の証明ともなるだろう。だから、カッコいい。
欲しい欲しいと求めるではなく、求めずして得てしまったというのは、いかにもカッコいい。

もちろん、そういうところを狙うというのは、いささか貧乏くさくもあるのだが、しかし、あえてそういうところを狙える人間は滅多にいないのだから、やっぱりそれはそれですごいことだ。

ならば、私はそのあたりを狙いたいと思っている。いささか搦め手にすぎるかも知れないが、あまりにもストレートなのは、馬鹿っぽくて、みっともないと感じるからだ。
正直な「ちょうだい、ちょうだい」ではなく「そんなもの、いらねえよ」という拗ね者の方が、反時代的でカッコいい。

私は、高倉健にはなれないが、高倉健に憧れる人間にはなれる。それはそれで、いまどき稀有なことだと、そう自慢しているのである。

(2021年8月7日)

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