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終身雇用ってオワコン?

近年、「終身雇用は時代遅れ」という声すら聞かなくなり、当たり前という論調が社会に広がっていると私は考えています。
事業のグローバル化や技術革新の加速により、AIやロボットに代表されるGAFAMやエヌビディアといった先進的な企業が注目され、企業環境が急速に変化する中、終身雇用制度は時代遅れ、柔軟性に欠ける、企業が人材を抱え続けられないという批判も少なくありません。
しかし、本当にそうでしょうか?
今一度、終身雇用の意義と可能性を見直す時期に来ていると私は考えています。

そもそも、終身雇用には多くのメリットがあります。
まず、長期的な視点での人材育成が可能となり、技術や知識の継承がスムーズに行えます。また、従業員の会社に対するロイヤリティや帰属意識が高まり、結果として長期目線での生産性の向上につながると考えています。
短期的には利益が出ないが、長期的には大規模かつ継続的な利益をもたらす可能性がある事業について人材面からサポートできるというのが私は最大のメリットだと考えています。

一方で、終身雇用にはデメリットが存在することも事実です。
よく人件費の固定化は財務の硬直化を招くという論調が話されます。しかしながら、見落とされがちなポイントとして、人件費の固定化は企業成長の原資となり得ると考えています。安定した雇用環境下で、従業員は長期的な視点で仕事に取り組むことができると、それが企業の持続的な成長につながる、むしろその環境を整えないと短期的な利益での目線でしか話ができなくなると考えています。
この終身雇用制度における人件費の固定化は、一見すると企業の財務柔軟性を損なうように思えます。しかし、この課題は適切な施策によって効果的に対応することが可能です。

まず、成果連動型報酬制度の導入が重要な鍵となります。
この制度では、従業員の基本給を安定的に保障しつつ、個人や企業の業績に応じた変動給を設けます。これにより、総人件費の一部を変動費化し、企業業績と人件費をある程度連動させることができます。結果として、財務の柔軟性が向上し、経済変動への対応力が高まります。同時に、従業員にとっても自身の努力が直接報酬に反映されるため、モチベーション向上につながり、生産性の向上も期待できるのではないでしょうか。

加えて、適切な人員計画の実施も重要です。
長期的な視点に立った事業計画を基に、計画的な採用と育成を行うことで、過剰な人員を抱えるリスクを軽減できます。例えば、定年退職などの自然減を考慮に入れた採用計画を立てることで、総人件費の急激な増加を防ぐことができます。また、必要に応じて期間限定でフリーランスといったプロジェクトベースの人材採用を組み合わせることで、固定費と変動費のバランスを取ることも可能だと考えます。
これらの対応により、終身雇用制度の基本的な枠組みを維持しながら、人件費の硬直化という課題に対処することができます。

そして、個人的に何より大事だと考えるのは、固定費としての人件費を前提とした経営計画を立てることです。長期的な成長分野への積極的な投資が可能になり、必要経費としての人件費の確保を視点として持つことができます。

次に、組織の柔軟性低下という側面があります。終身雇用制度における重要な課題として、この組織的な課題と若手の登用機会減少が挙げられますが、これらの問題に対しても効果的な対策が存在します。組織の柔軟性低下については、社内ジョブローテーションや副業・兼業の推奨によって対応が可能です。

社内ジョブローテーションは、従業員が定期的に異なる部署や職務を経験することで、組織全体の視野を広げ、柔軟で広範囲な思考を養います。これにより、従業員は多様なスキルを獲得し、組織の変化に適応する能力を向上させることができます。
また、副業や兼業の推奨は、従業員が外部の知見や経験を獲得する機会を提供します。これは、組織に新しい視点や革新的なアイデアをもたらし、市場の変化に対する感度を高めることにつながると言えます。

加えて、若手の登用機会減少に関しては、早期昇進制度やメンター制度の導入で新陳代謝を促すことができます。
早期昇進制度は、能力と実績に基づいて若手従業員を積極的に上位ポジションに登用する仕組みです。これにより、年功序列に囚われない人材活用が可能となり、組織に新しい発想や活力をもたらすことができます。
メンター制度は、経験豊富な先輩社員が若手社員の成長をサポートする仕組みです。これにより、若手社員のスキルアップと同時に、世代間のコミュニケーションや知識の伝承が促進されます。また、メンターとなるベテラン社員にとっても、自身の経験を再評価し、新たな視点を得る機会となり、組織全体の学習能力が向上すると言えます。

これらの施策を組み合わせることで、終身雇用制度の安定性を維持しつつ、組織の柔軟性と若手の活躍機会を確保することが可能になります。結果として、急速に変化する経営環境にも適応できる強靭な組織構造を築くことができるのではないでしょうか。

私は、終身雇用制度は日本社会と非常に親和性が高い雇用システムと考えています。
集団主義的な社会を前提とした文化形成、長期的視点を重視する日本的経営、そして雇用の安定という意味での社会保障制度とも密接に関連しています。
この親和性は、終身雇用を効果的に機能させる上で強みとなるのではないでしょうか。

現在の日本経済は、為替などの変動はあるものの比較的安定していると考えています。
この安定成長を実現している今のタイミングこそ、終身雇用を再評価し、適用を検討する時期と言えるのではないでしょうか。人件費を最低限必要な固定費として捉え、それを基盤とした成長戦略を立てることで、新たな企業発展の可能性が開けると言えます。

逆に今、終身雇用を大々的に打ち出し、人材を採用することで、企業は人材市場での差別化を図ることができるとも考えます。優秀な人材の獲得・定着が容易になり、長期的な技術・知識の蓄積が競争力向上につながります。また、「社員を大切にする企業」としての社会的評価も高まり、企業ブランドの強化にもつながると考えます。更に、人件費を固定費として捉えることで、より大胆な投資戦略を立てることができるのではないでしょうか。

社会的な観点からも、終身雇用には大きな意義があります。雇用の安定は社会不安を軽減し、長期的な人材育成と技術継承は日本の産業競争力を支えます。また、企業と従業員の長期的な関係は、地域社会との強い結びつきを生み、企業の社会貢献活動の基盤ともなります。安定した個人の財政基盤は住宅などの購入にも繋がり、多様な経済活動への波及も見込めます。

結果的に、終身雇用は決して「オワコン」ではないと私は主張します。
むしろ、現代の文脈で再解釈し、適切に運用することで、日本企業の強みとなる可能性を秘めているのではないでしょうか。
もちろん課題もあります。ただ課題への対策を適切に講じつつ、終身雇用のメリットを最大限に活かすことで、持続可能な社会の構築と企業成長の両立が可能になるのではないでしょうか。
今こそ、終身雇用を単なる古い制度としてではなく、日本企業の未来を支える重要な戦略のひとつとして捉え直す時なのかもしれません。​​​​​​​​​​​​​​​​

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