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詩のスケッチブック

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日々や旅の風景をささっと描いた詩たち
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記事一覧

Endoumeの朝

Endoumeの朝

雨戸の隙間から
夜明けの気配が漏れ出る
テラスから見える
仄かな青い、海と空

海沿いの街灯と集合住宅のいくつかの明かり
海辺の道路をもくもくとランニングする人につれられ
半ば勢いで外へ飛び出す

一歩一歩踏み出すごとに
白み始めた空が
じゅわり、じゅわりと
暁の朱に染まる

海沿いの道を過ぎ去っていく車たち…
一日はもう始まっている

車の切れ目を縫って
向いの通りへ
海に背を向けて、丘の階段を

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4月/5月

4月/5月

柔らかな雨に潤され芽吹く
川辺の野
スズメもカモも岸に降り立ち
うれしそうについばんでいる

一雨ごとに塗り替えられていく
その鮮烈さ
毎日目にする山なのに、
今日生まれてきた人のように
驚かされている

しとしとと
重なる若葉をひさしにして
てくてく歩くよ
森の小道

もくもくと
勢いを増す木々の群れに
けおされそうにそうになっている
丘陵地のマンション、家々

つつじはこんなに鮮やかだったかし

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亡霊(スペクトラム)

夜の紅茶
ハイウェイのような血管
電車の通過する音

夜風に紛れた潮の香り
カールしたまつ毛
目元の陰
うかつに微動すると全てが崩れさってしまいそうな精密な空気

生温い大気
港の灯り

もはや自分のものなのかそうでないのか識別できない呼吸
鼓動
ゆらめく陶器の背中…

バーカウンターの薄暗い隅っこが、居場所だった

バーテンはキレイな顔をしていたが
二重と一重のまぶた、
でたらめに調子の変わる電

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8/11

夜の帷が降りる頃、
西の空に
やけに明るく輝いているのは金星だった

剃刀の刃のような
鋭い月の傍らで
乙女座を優しく照らしているのだという

そんな時
私は自分の部屋にいることを知る

我々が知っても知らずとも
彼らはそこにいる
予め定められた
精巧なプログラムに従って
現れ、去っていく

調べ、韻律、
そんなものは知らない
それでも私は描き続ける

私の心は休けい中
飛び上がったり、落ち込んだ

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A weekday morning of Madame Ling

A weekday morning of Madame Ling



🍂
After sending my son to school,Madame Ling prepared a coffee.
Sinking into the sofa in the living room with her favorite cup.
A rich moment in the day.

Looking out to the window,
the sky is bl

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ADO-ADULTE

ADO-ADULTE

僕らはいつまでもADO(青年期)ひきずっている
素敵なモノに目を輝かせ
世界を夢見ることをやめられない

世界は大きく変わってしまった
天災が起き
テロが起き
夢の御殿は一夜で泡となって消えた

子供の頃、未来はもっと建設的だった
それが大人になる頃には
僕らはすっかり刹那的になった

世界を灯すろうそくが必要だ
誰かここへやってきて
そっと衝立立ててくれ

僕らはいつまで

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泡(クレマ)

泡(クレマ)

ぬぐってあげよう
悲しみの泡(クレマ)を
すくってしまおう
赤く滴るラズベリの汁(ジュウ)を
僕らはそれさえも賞味していく

意味はあるのと聞かれたら
ないのかもしれない
どうなるのかと問われても
そんなこと分からない

淡々と積木を積んで
顔色一つ変えない僕らに
先にしびれをきらすのは
彼らの方だ

こちらに向かって 
次々と投げかける
哀れみのパイを
苛立ちの皿を

ぬぐってあ

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二つの地平線

二つの地平線

積み上げた先に
何があるのか見てみたい
たとえお月様には
届かなくとも

君の手にした愛も
味わった絶望も
何もかもうらやましく思うよ
私は私の人生を
きちんと歩んでこれたかな?

遠く離れて
年月も隔てて
それでも同じように疾走して
景色が流れていったこと
今知って うれしく思うよ

つないだ先が
どこに続くか見てみたい
たとえ火星にまで
伸びていかなくても

君の手にした絶頂も

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日曜夜の食卓

オリーブ油とバルサミコ酢、塩・こしょうでさっと和えたサラダ
平日の残りのキャロット・ラペ
にしんの酢づけ

散々飲み、食い、騒ぎ散らかした後の
日曜夜の食卓はひっそりとしている

カチャカチャと慎まし気な音をたてるカトラリー
落とされた照明
控えめな会話

あとは
静かに立ち昇る湯気と
無心にちぎられ、次へと手渡される
バゲットの気配

旅籠

トレンチコートの上からショールをはおり
ポケットに小銭をしのばせると
彼女は出かけていった

落ち葉舞う
晩秋の冷たい風が
彼女を誘う

家路を急ぐ人々の
流れに逆らうようにして
大通りを進む

すでに上空に控える濃い藍の中へ
とろりとしたオレンジが今、
溶け込もうとしている
切り裂くような風が
北の海からの記憶を運んでくる

右から左へ吹きつける風
湿気を含んでまとわりつく砂粒
並んで座り
微動

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テラス

テラス

帰国前の最後の日曜
明と美礼はどちらが声をかけるでもなく
連れ立って出かけていった

午後の広場は
春を先取りしたような陽気に包まれ
冬ごもりをしていた人々が
陽光とビールを求めて集まっていた

冬場はなかなか太陽が姿を現さない
降り続ける雨がハタとやみ
雲の切れ目から一瞬光が差すと
通りでも市電での中でも
人々は一瞬動きを止めて、空を見上げる
そして見知らぬ者同士でも
顔を見合わせながら微笑み合

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どこへいっても

彼はどこへいってもチャーミングな客人だった
そろそろ毛布が恋しくなってきた

彼はどこへ旅立つかしら?
今夜はどこで眠るのかしら?
沢山のドアと人々の間を通り抜け
彼はどこまでも進んでいく

終わりは
世界のどこにもないように思われた

一つの場所で何かに取り組んでいる時
また別の場所で新しい何かが生まれる
遠くのどこかで
何かが朽ちて消えていく

そうして終わりのない終わりが
延々と続く

彼は

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イエールのサンセット

イエールのサンセット

昼の残りのクスクスとドレッシングをさっとかけたトマト
フランボワーズが隠し味に効いたライス・サラダ
食後の温かい紅茶

遠浅の海をあっという間にかけていき
インクのにじみみたいになった
子供達の影

薄いピンクから水色、グレーのグラデーションを描きながら
ゆっくりと暮れていく、イエールのサンセット

まだ暖かさを残した砂浜
淡い色合いの中に浮かんでいる白いヨット
強くなりはじめた夜風など
ものとも

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記憶の層

あなたの歩いた灼熱の砂漠は
夏の盛りのアスファルト
荒野の岩肌は晩秋の夕暮れ、寂寥感

あなたは広い大地で道に迷って途方に暮れる
私は田舎のローカル列車で、
反対方向に乗ってしまって、えらく焦ったことがある

あなたほどではないけれど
私も日常を旅している

だからあなたの足跡を
何となく、
皮フで感じることができる

あなたの骨に染み入る原風景は
私の感覚を通じて保存され
やがて私の記憶となる

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