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■1 知らない男からの電話(1)
電話が鳴る。
仕事の定時にはなっているけれど、お客様対応がなかなか終わらず、Apple watchがブルブルと震える左腕をチラリと見た。
東京03から始まる電話番号の誰かが私に用事があるらしい。
ずっと鳴っている。でも、電話には出られない。
接客が終わり、廊下へでて、iPhoneで着信履歴をみる。見覚えのある下4桁だ。
留守電が録音されていた。聞いてみると、律儀かつ慎重な声で、男性が「また
■7 川を越えていく(2)
「あの…。本日面接に伺いました藤原と申し…」
あかりがそこまで言うと、若い庶務の女が「少々お待ちください」と言って奥に行き、白地に赤い縁どりのマスクをした女が代わりに出てきた。
「こちらへお入りください」
テンポよく事務的に対応する女に着いていくと、会議室のようなところへ通された。
テーブルの上には求人票が置いてあり、席につくなり赤い縁どりマスクの女が説明を始める。早口だけれども聞き取りやす
■11.川を越えていく(6)
真ん中の女が言った。
「では、志望理由と自己PRを3分程度でお願いします」
「はい、私は……」
あれこれと話をしていった。真ん中の女に踏み潰されたような顔の二人のオジサンたちにも質問され、回答し、私も質問し、回答され、私自身について、応募しているその仕事について、深掘りしていった形となった。
「あなたが今いる部署のその仕事と、応募しているこの仕事とでは、何が違うと思いますか?」
白髪の男が言っ
■13.川を越えていく(8)
「先日の面接の結果のことですが…採用です」
簡潔に用件を伝えてくれた。私は一瞬驚いて、間をあけてから静かな声で
「ありがとうございます」
と答えた。
電話を切ると、ポカンと口をあけてその場に佇んだ。しばらくしてハッとし、現実に引き戻された。
や、やった…。4月から新しい生活が始まる。少し勤務時間が変更したり、通勤時間が増えたりするけど、給与があがる。新しい環境で、新しい仕事を覚えられる。そう思