■1 知らない男からの電話(1)
電話が鳴る。
仕事の定時にはなっているけれど、お客様対応がなかなか終わらず、Apple watchがブルブルと震える左腕をチラリと見た。
東京03から始まる電話番号の誰かが私に用事があるらしい。
ずっと鳴っている。でも、電話には出られない。
接客が終わり、廊下へでて、iPhoneで着信履歴をみる。見覚えのある下4桁だ。
留守電が録音されていた。聞いてみると、律儀かつ慎重な声で、男性が「またかけ直します」と録音していた。
知らない声。でも、どんな用件か察しがついた。
あぁ、あれか。私は喜びでもなく、溜息でもなく、観念した面持ちで、戦争の赤紙が届いたかのような絶望感に苛まれた。このまま、電話がこないと思ったのに…。ご縁に身を任せよう、と思い、その電話が来るのを待つのを止めてから、もう忘れることにしていたのに。待っていた電話が来てしまった。
「どうしよう」ボソッと呟く。
一日バタバタとしていたから余計に疲れた脳みそでは感情も思考も滞留していて、濁った川のように留まるしかなかった。
何も考えられず、しばらく数分過ぎる。
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何も考えず、折り返しの電話をかけた。
コール音が数回鳴り、電話は繋がった。
(ノンフィクションです)
(ただの日記です)
⇒ 次へ続く
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