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本の猫

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お気に入りの、小さな本箱。映画感想なども放り込んである、雑駁な箱です。
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タオのプーさん

タオのプーさん

30年ほど前のこと。

私は派遣事務の職に就いた。ささやかながら歓送迎会のようなものがあり、私の隣にはそこで一番若手の男性社員が座った。私より確か一つ年下、つまりほとんど新卒の青年で、今で言えばイケメンのインテリ。その彼が私に向かって笑って言った。
「水宮さんはプラトンとか、読んだことないですよねえ」
高卒の私を明らかに蔑んだ物言いだった。はあ、無学でしてと笑いながら内心
「あとで吠え面かくなよ小

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愛のやり方

愛のやり方

愛読してきた『コーリング』という漫画がある。岡野玲子さんの作画がひじょうに麗しい。

妖女サイベルは人間界の愛憎劇に巻き込まれ傷つき、復讐を企てる。が、ふとすべてを放棄してしまう。
そのクライマックスの場面が忘れられない。
彼女は深く愛したからこそ憎み、その憎しみはすべてを焼き尽くさんとした。
けれど結局心の中で、憎悪は愛に完敗する。彼女は完敗する。
彼女はふと大空に気づく。彼女は途端にすべてに気

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子猫に聞かせる物語

子猫に聞かせる物語

いたずら子猫の小次郎は、なんでも興味深々。きっと棚もカーテンも洗濯物もごみばこも全部USJ みたいに見えているのだろう。

お掃除や歯磨き、お料理の最中に可愛くうるさく邪魔をする猫の小さな男の子。お昼をたべて、ベッドに並んで座る。私はかれにお話をした。
たいそう利発な子猫は、ひくい声の物語をまんまるな瞳で聴いていた。

さっきディズニーのシンデレラに釘付けだった彼。
ネズミが出てくるからというより

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漫画 de night

漫画 de night

今宵は偏愛する漫画をご紹介します。

まず佐藤史生(さとう しお、女性)の『ワン・ゼロ』。

と、始まる近未来SF+学園青春+ITビジネス+伝奇、な物語。
20世紀に描かれたこの作品はほとんど予言書で、驚愕というほかはない。
都内のグータラ高校生・明王寺都祈雄は同高校の天才コンピュータマニア、馬鳴アキラに
「入りたい店がある」と持ちかけられる。その店では世界的にセレブ客を集め、仮想現実で瞑想し至高

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『ショック・ドクトリン』ナオミ・クライン著

『ショック・ドクトリン』ナオミ・クライン著

『100分de名著』今月の本。

先月のヘーゲル『精神現象学』は思わず買って読んだが、今月は巧みな解説でエッセンスを頂いた。

ヘーゲルの「相手(敵)を疑い論破(打ち負かすこと)自体を目的とし、自らの主張はまったく正義と信じて疑わない。それでは謗る相手と同等かそれ以下に堕するのと同じである。自らに疑惑を抱き、非を認めるところから分断の夜明けは始まる」
的な考えは気に入った。それは生涯をかけて悩んで

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探偵はBARにあんまいない

探偵はBARにあんまいない

扉は前も書いた私の以前好きだった店。美味しいよ。

先日テレビ放送で映画
『探偵はBARにいる』
を観た。
どさんこスター、大泉洋くん主演の探偵もの。いやあ、よかったよねえ大泉くん、どさんこドサで鍛えた体力が生きたね(『水曜どうでしょう』のことね)。なまじな芸人のやらされるのより酷かったもんねえあれ。

探偵、と名乗る人と遭遇したことなら一度ある。アルタ前で友達と映画のために待ち合わせていると、背

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鬼籍でも鬼平

鬼籍でも鬼平

藤棚の下に中村吉右衛門   今井杏太郎

ということで鬼平サンデー。
ああ、吉右衛門さま。猫八師匠。池波先生。

昔の友達(土建の社長で居合の達人で酒とソープが大好きな元職業潜水士。話し方は女言葉。魚が大好物だが死体に必ずたかってたからということで伊勢エビが苦手)が、
「吉右衛門のカタは綺麗よお、殺陣であの人だけはホント綺麗」と褒めていた。

鬼平こと吉右衛門さんは実はご酒を召し上がらなかったそう

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「武相荘」訪問記

「武相荘」訪問記

こんにちは!てか早朝地震、びっくりしたけど皆さんご無事?

先日、若い頃から念願の鶴川・武相荘についに行くことができました。

小田急線鶴川駅にて長年の友人、N子さんと待ち合わせ。

考えてみればT兄以外と外出すること自体、一年振り。久しぶりに乗る電車、車窓の風景、人々さえものめずらしかったほどだ。

内心、刃物を持った何者かが車内で暴れ出した場合を想定する。避難経路、非常ドアコック、窓の開閉の可

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マーガレットとご主人の底抜け珍道中/望郷篇

マーガレットとご主人の底抜け珍道中/望郷篇

本日はこれにします。
坂田靖子さんの漫画、上下巻の下巻。

イギリスに暮らすマーガレットとご主人のタルカム夫妻。
ご主人は普通の勤め人で趣味はガーデニング。でも、このマーガレット奥さん、クセがすごい。

超のつく旅行好きで、思い立ったら旦那さんとでも一人でも、地球どこにでも直行。旅ばかりでなく市内ミステリーツアーだの古代遺跡だの昆虫だのなんにでも興味を示す。

ご主人は振り回されながらも、いつも二

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本の猫

本の猫

めがねをかけるようになって、頭が痛くなるが読む。

バスルームにも、そこにもここにも。毎日片付けてはまた読み散らかす。数は少ないのでおおごとにはならないが、ちまちましとる。

しかし本の中の世界は自由な次元だ。海に森に街に砂漠によその国、店にオフィスに美術館に他人の家、ミクロにマクロ、現実に想像、バカにロマンにわびにさび。

大島弓子さんの「綿の国星」作中で、子猫のチビが山で迷うくだりがある。

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