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みしか
2019年8月30日 22:18
あの夜から、3週間が経った。 一人になることに抵抗はなく、ユウイチくんのいない生活には思ったよりも早く慣れていった。結局、私は彼に心を開いていなかったということなのかな。いつでも私のペースで生活をしていて、彼はあくまでも合わせてくれていただけ。彼は、私が彼に合わせていると思っていたかもしれないけれど、実際は逆だったのかもしれない。私は、結局どんなときも自分のやりたいことを優先しているのだ。
2019年1月21日 18:54
『先輩、とても退屈です』 隣に座る先輩にメッセージを送ってみる。 週に1度のミーティングは面白くもないし、正直無意味だと思っている。勉強会も兼ねたこの集まり、正直何も得るものがない。『私だって退屈』 ちらりと横を見ると、表情を崩さずに頷きながら熱心にメモを取る先輩の姿が見える。業務上、パソコンを使うことが多いから、メモは紙よりも電子。覗き込まれない限り、何をしているのかは分からない
2018年11月16日 19:10
彼は早起きだった。私よりも1本速い電車に乗るはずの彼は、私が家を出る1時間前に駅へと向かう。駅前の喫茶店で朝刊を読むのが好きだった。 彼は、私の見送りは必要としなかったし、私に朝食を作ることを強要することもなかった。穏やかで、笑うことは少なかったけれど、激昂するということもなかった。 だからだろうか、終わりもあっさりとしていた。『もう終わりにしよう』 落ち着いた彼の声を、私は拒否
2018年10月26日 23:13
声にならない声をあげて、思い切り背筋を伸ばす。獣のようなうめき声が部屋に響いて、思わず吹き出してしまう。 首をぐるりと、右と左1回ずつ。鈍い音が響いて、思わずため息が漏れる。 ペタペタと音を立てて、フローリングに足を滑らせる。冷蔵庫を開くと、微かな冷気がむき出しの腕を撫でる。「……っし」 3カ月前に買いっぱなしだったコーラ。コーラは絶対に缶が好きなのだけど、あるのはペットボトルだ
2018年6月3日 15:27
耳元で携帯の震える音が聞こえる。 鼻にしつこいくらいにこびりつく甘い匂いに、思わず眉をひそめた。友人が海外旅行のお土産でくれたトリートメントは、数種類の花の香りがブレンドされているらしい。この調子だと、数日はこの香りに悩まされるだろう。枕にもしっかりと染みついているのが、少し恨めしい。 開かない目でしぶしぶ携帯の画面をのぞくと、十数件のメッセージが届いていた。「ミサ、話を聞いてほしい」
2018年8月6日 00:17
ヒロヒトさんを待って3時間。電話は10回以上したけれど、全くつながらない。メールはすべて帰ってくる。「キリ、一緒にどこか行こうか」 裸のヒロヒトさんは、私に笑いかけてそう言った。下着だけを身に着けた私は、自分の予想以上に舞い上がってしまったみたいだ。すぐに行こう!といい、誰も行かないような山奥の民宿を探し出して予約をした。 子どもみたいだな、と微笑むヒロヒトさんに胸が高鳴る。知り
2018年8月27日 23:55
宮本先生はいつも優しい。身体は細いくせに、笑い声は大きくて、若い先生が珍しいうちの高校では女子に人気だ。「瀬戸、寝るな」 注意する声すらも優しい。数学は嫌いだけれど、宮本先生の授業は好き。分かりやすくて、点検されたノートには可愛いスタンプとコメントが添えられている。私のノートに押されるスタンプはいつも「がんばりましょう」。猫が旗を振っていて、私にエールを送ってくれている。『瀬戸ならもっと