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よりぬきしりんさん

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#よろしくお願いします

エッセイ/堂々

エッセイ/堂々

生きてくってことは、まずは、下らないもの、取るに足らないものにしがみついてゆくことだ。家族でも友人でもいい、思想でも主義でもいい、宗教でも哲学でもいい、仕事でも趣味でもいい。とにかく、多い方がいい。まずは、10本の指に少しずつ引っかけて、なるたけ今をごきげんでいることだ。成否も出来栄えも、実は大した意味はない。過度の義務感、熱い正義感、完璧主義、そんなものはどこかに投げ捨てる方がいいんだ。つまりは

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エッセイ/Coffee Broken

エッセイ/Coffee Broken

早起きして、声の多様性について、長ったらしい論考を書いたけど、下書きに寝かせる。文体が気に食わない。
→仕事のメールを整理しながら、昨日書いた短篇について考えていた。どう転んでも死ぬという先行き、身も蓋もないのだ。身も蓋もないものは清潔だが、認識と叙述における清潔とは、観念 notion にすぎない。Memento mori などは実に下らないことで、これは言ったら怒られるんだろうな、それでも言う

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小説/『く旅れた』・番外篇

小説/『く旅れた』・番外篇

今回のコラム『く旅れた』は、ちょっと趣向を変えてみる。

筆者の懲戒解雇のちょっとした休暇を利用して、ヴァカンスの穴場であるプラベント首長国へと足を伸ばすのだ。
あまり聞きなれない地名だが、知る人ぞ知る、まだ知る人に会ったことはないが、私も知らなかった。

まだ雪が舞う当地から、国内便で成田へ、そして国際線の端っこでプラベント・エアに乗り換える。離陸の瞬間は、何度経験しても胸が躍るが、今回は、離陸

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日記/追儺の変

日記/追儺の変

どうにも、虫の居所が悪い日であった。肚のなかに虫が居る、とは頓狂な謂いだが、大脳辺縁系の機能亢進より、体感として、よほど的は射ている。腹には虫など居りませんよ、と断言するのは、腹に虫が居なかった者の特権だ。小五のとき、わたしと信ちゃんだけ、別室に呼ばれた。虫がおったとよ、と保健の先生に言われ、赤いのみ薬をもらった。蟯虫だ。おしりぺったんフィルムを、朝いちばん、肛門に押しつける検査に引っかかった。当

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エセイ/戒語 '23

エセイ/戒語 '23

以下、歯に衣着せぬ自省。

*

構想が湧いた、よしいっちょ小説でもと思えばそこで既に負け戦なのである。エセイと随筆の隙間でちょちょいと筆を動かすから、愚にもつかぬポエムが出来上がるのである。棺桶の型に嵌める覚悟が失せて、細かな行替えと聯立てでどうも分からぬ事を書けば詩、な訳がないのである。存在、事象、言語、認識、認知、社会、文化、鏡像、形式――以上の語をすべて用いて文学の本義を述べよ(二十点)。

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エッセイ/Quod Erat Demonstrandum

エッセイ/Quod Erat Demonstrandum

毛錢の話なのである。

取りみだして失礼、とりあえず、読んでいただければよいのだ。

*

カントもびっくり、きょうも律儀に、朝いちばんのルーティーンである、「娘と歌いながらだれもフォローしていないツイアカのおすすめを読む」を実行していた私は、このツイートを目にし、ことばどおり仰天した。

一読して、軽い動悸をもよおしたものの、これは症状かもしれない。再読して、やや呼吸が荒くなるのを覚えたが、これ

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エッセイ/スラムは消えたのか?

エッセイ/スラムは消えたのか?

昨夜は、科学映像館のサイトから、「スラム」(1960年)という資料映画を観た。

私は映画――さらに言えば映像・音声メディア全般――が大の苦手だ。等質に、無情に侵略してくる情報の大波に、思考と感性がついてゆけない、潰されてしまうからである。私的に観なければならない Youtube 動画は、0.5倍速か0.75倍速に下げる。溢れそうになったら、止める。

世の中は止まらない、こちらから逃げるしかない

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エッセイ/写「真」

エッセイ/写「真」

真実とはなにか、真理とはなにか、と問うとき、この言語で問われたその問いは、すでに幾分、間が抜けてみえるのだ。(もっとも、どの言語であれ、その問いそのものが間抜けていないか、私には何とも言えない。)

ことばという魔物は、いつでもじわじわと純粋思念を侵食するが、「写真」ということばも、そのひとつだろう。
それが白黒の粗い画像の時代から、誰の仕業か、こいつは「真を写す」などと、荷の重すぎる名を背負わさ

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随筆/往きて、還らむ

妻も娘もピアノ一すじ、だけど私はギター推し。
ぴえん。

J.S.バッハの『主よ、人の望みの喜びよ』を村治佳織が演奏したこのチャンネルは、主に、私の望みの喜びである。
私と同い年の村治佳織、べっぴんさんね、声もいいのよ。

弦を指がかすかに掻く、hiccup、という音を待ちわびる。端正な主旋律のなかで、ささやかな私(たち)が必死に、豊かにかなしく生きて死ぬ、また、ささやかな私(たち)が必死に、豊か

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エッセイ/ほんとう

エッセイ/ほんとう

りきんでも、かけ声かけても、どうにもこうにも力が入らず、仕事を休んだ。ベッドに寝ころがって、はめ殺しの羊羹みたいな窓から、まっさおな空を見ている。写真をとってみたんだ。

私が見ているのは、この空じゃない。ほんとうは、空がもっとあおく、屋根の雪がもっと白いのだ。スマホのカメラ、素人の腕――そんな話じゃない。ほんとう、と口にだしたときの、ざらっとした後ろめたさ、ばれもせず、指摘もされない、そんなうそ

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詩/ てじな

詩/ てじな

わたしはしあわせです

まずはきめるわけです
そう
いまここできめましょうか
すると
すべてのものさしが
むいみになる
ものさしこそ
しょあくのこんげんですから
わたしであること
これ
すなわち
しあわせということ
I am happy へのげんそうを
かなぐりすて
I am happiness になるですね
だれにも
そのなふだをとりあげる
けんげんはない
なんでもかんでも
そのはこにいれちま

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日記/ 政権批判

寒いですねえ、と言っているのだ。あの禿頭の紳士もあのアナ雪のトレーナーの女の子もあの金髪の店員もハシブトガラスも、だれもが、口を開けば、寒いですねえ、ええ、寒いですねえ。なんとまた、藝のないことよ。マイナス7度程度で、岸田政権の無策批判もまいぜんシスターズの声変わりも彼氏の怪しい動静の愚痴もかあかあかあも忘れはて、ビッグ・ブラザーの指令に従うように、ハイル・なんとかのように。創造性に乏しく、従順き

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『それ』を何と呼ぶか

『それ』を何と呼ぶか

*注:一部の人にはトラウマを抉る記事かもしれません。ダメだと思ったら、お読みにならないで下さい。

今日は特に体調悪いから、本気で書きますね。

*

中学一年生から高校一年生の半ばにかけて、三年あまり、私は寮生活のなかで、断続的な虐めを受けた。
虐めから逃れるほんのつかの間、それは、次の虐めの対象にならないための、文字通りのサバイバルであった。

あれはいったい、何だったのであろうか。呆然とする

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あっちこっち

あっちこっち

たとえば、航空写真を撮ったあとには、ポートレイトを撮りたくなる。
心ゆくまで電子顕微鏡で細胞組織を見たら、次には満天の星空など眺めていたい。

自伝を読んだら、そのひとが生きたころの地域、国、世界、もろもろについて知りたい。
ある出来事を概説的、包括的に学べば、その渦中にあった誰かしらの日記や書簡、そんなものを無性に読みたい。

うどんがつづけば、鶏モモ焼きが食いたくなる。おせちもいいけど、カレー

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