日記/ 政権批判

寒いですねえ、と言っているのだ。あの禿頭の紳士もあのアナ雪のトレーナーの女の子もあの金髪の店員もハシブトガラスも、だれもが、口を開けば、寒いですねえ、ええ、寒いですねえ。なんとまた、藝のないことよ。マイナス7度程度で、岸田政権の無策批判もまいぜんシスターズの声変わりも彼氏の怪しい動静の愚痴もかあかあかあも忘れはて、ビッグ・ブラザーの指令に従うように、ハイル・なんとかのように。創造性に乏しく、従順きわまるこの国民性を思うにつれ、わたしの心は寒い。スノーブーツの縫い目が破れ、近所のワークマンプラスを訪れている。いまのブーツは、ガムテープのすきまから、左足が容赦なく濡れる。ふた冬を耐え、み冬目、ブーツの自然治癒力に見切りをつけた。お気に入りだった。外見こそ、2,000円かそこらに見えるが、実際は7,800円もした。あえて自身を愚物に見せる、なかなかの傑物である。人もブーツも、見た目ではない、実質だ。中身だ。価値観が見事に合致したと言えるだろう。買って一ヶ月半で爪先部分が破れ、見た目だけでなく、実質も大した愚物であることがわかった。こうなると、まるでわたしを見ているようで、ますます愛おしくなる。玄関にはガムテープ、それがわたしの冬景色だが、上に書いた感想は、だいたい真っ赤な嘘だ。ださいくせに微妙に高かったし、目利きには大失敗したし、とにもかくにも、元を取ったことにしたいのだ。わたしはそういう人間だ。心を無にしてそう言い切れば、ビッグ・ブラザーならぬ、ビッグ・ダディの顔がうかぶ。こんどは、7,900円くらいに見えて、なんと2,000円のブーツを買ってやる。引越しやら車検やら進学準備やら本の衝動買いやら、不可避の出費の嵐で、いまはとにかくにっちもさっちも、懐が寒いのだ。ワークマン、あんまりだった。ワークマンを名のるには、わたしはまだまだ怠惰すぎるのだろう。店外に出て、あれ・・が喉元まで出かかる。かたかた鳴る歯をかみ締め、とりま岸田政権の無策を罵ることにする。あの男には、雪が降る日の強風を規制することもできない。これは鋭い批判である、政治の造詣も実はなかなかなのだ。もういいよ、寒い、寒い、アサヒカワモンベツキタミウラジオストクユジノサハリンスクコムソモリスクナアムーレヤクーツクベルホヤンスクオイミャコンの人に笑われても、かまわない、ギブギブ、寒い、寒いです。そして、本日の日記は、これだけであります。二十数年前、わたしが初めて当地を訪れた日、路面はつるつるだった。街中で次々と地元民が転ぶ、そんな惨劇のなか、スタン・スミスで全力疾走する中年男性がいた。あれは、いったい何だったのだろう。まずい、これは走馬灯だ。耐えきれず、あったか〜いコーヒーを買う。

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