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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説

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フリムンという言葉は沖縄の方言で、バカ・愚か者という意味で使われる。この物語は、日本最南端の石垣島に生まれ、後に全日本空手道選手権大会を制する田福雄市氏の空手人生、そしてフリムン…
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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第10話 七転八倒編(3)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第10話 七転八倒編(3)

【肉体改造】ウエイトトレーニングに没頭するフリムンに、師範から昇段審査を受けるよう指令が出た。

弐段を許されてから5年後のことであった。

前回の審査の時と違い、現役を退いてからかなりの年月が経っていた事もあり、フリムンは審査に向けある事に着手した。

そう、筋肉の質を変える「肉体改造」である。

空手用の筋肉とパワー用の筋肉は全く違う。

パワー競技に筋持久力やスタミナは必要ないが、空手の試合

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【自伝小説】第3話 中学校時代(3)最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

【自伝小説】第3話 中学校時代(3)最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

実戦の定義いきなり始まった代表戦。二人を取り囲んだ敵側の仲間が、少年にのみ次々と罵声を浴びせてきた。

これ以上の恐怖は他にない。しかし、何もしなければフルボッコは確実だ。

少年は仕方なくジークンドー(李小龍が考案した武術)のサイドキック(足刀横蹴り)を繰り出した。

だが、いつもよりスピード、タイミング、角度までもがイマイチだ。

足がすくんでいるのだから当然だ。

直後、その空手野郎が「フシ

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【自伝小説】第4話 高校編(1)|最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

【自伝小説】第4話 高校編(1)|最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

FIRST LOVE(初恋)

何だかんだあった中学校生活(あり過ぎやっ)、

入試直前に「深夜徘徊」と「無免許運転」で補導されたにも関わらず、奇跡的に県立Y高に入学する事ができたのは、これが初犯であった事と、先生方へのウケが良かった事などが上げられよう。

昔からよくトラブルに巻き込まれてはいたものの、平和主義で揉め事が嫌いだった少年。それを先生方はキチンと見抜いてくれていたのだ。

ただ、そん

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【自伝小説】第4話 高校編(2)|最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

【自伝小説】第4話 高校編(2)|最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

ケンカ空手
部活を辞め、町道場に通う決意をした少年。

退部した後も、顧問の先生から執拗に戻るよう説得されるも、意固地な少年の心が揺らぐことはなかった。

これが少年の良いところでもあり、悪いところでもあった。

しかし、この一本気な性格のお陰で、俗に言うミラクルを何度も引き起こすのだから、それはそれで良かったのだろう。

ただ、それもまだまだ先の話しである。

それから暫くして、知人の紹介で極真

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第5話 上京編(3)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第5話 上京編(3)

東京ラブストーリーそれから数ヶ月後、そろそろ労災が切れるとの事でフリムンは東京に引き返す事にした。

もちろん、時間差で彼女も後を追い掛ける約束をしてくれた。

帰省時と違い、東京に戻る時のフリムンはまるで別人だった。

これから始まる「東京ラブストーリー」を想像しながら機上の人となったフリムン。

東京に着くまで、ずっとニタジー(ニヤケ顔)が止まらなくなっていた(笑)

それから更に数ヶ月後、彼

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第6話 帰省編(1)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第6話 帰省編(1)

巧の技

はじまりnoはじまり今から32年前の1991年。2m100kgクラスの超大型外国人選手も出場する4年に一度の「極真世界大会」で、僅か165cm70kgの日本人選手が見事頂点に立った。

フリムン(当時25歳)が石垣島に帰省して直ぐの事である。東京に住む友人からその報せを受けたフリムンは、体を震わせながらこう呟いた。

「俺はいったい何やってんだ…」

主治医から「過度な運動は一生禁止」

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第6話 帰省編(3)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第6話 帰省編(3)

ダダダダ·ダディ何とかカミさんに許してもらい、空手を再開する事に成功したフリムン。

そんな、空手しか頭になかったフリムンに朗報が届いた。
待ちに待った愛娘とご対面する日が来たのだ。

あの感動の披露宴から4ヶ月後の事であった。

フリムンはより一層稽古に力を入れ、「絶対にこの子が自慢できる父親になって見せる」と心に誓った。

それから新米ダディとしての最初の仕事、『命名』に取り組んだフリムン。

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第6話 帰省編(4)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第6話 帰省編(4)

ゴッドハンド来沖極真会館が沖縄に支部を設立して5年目の事である。

遂に県内で初めての公式大会、「全九州空手道選手権大会」が開催される運びとなった。

まだ沖縄県大会が始まる1年前の事である。

フリムンは、この大会を是が非でも観戦しなければならなかった。

何故なら、この世界で本格的に活動するために、県内に住む空手家たちのレベルを知っておく必要があったからだ。

石垣島ではまだ脅威となる相手に出

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第7話 黎明期編(1)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第7話 黎明期編(1)

【カチコミ前日】父の眠る仏壇に手を合わせ、神妙な面持ちで物思いに耽っていたフリムン。これまで生きてきた27年と10か月という人生の中で、父と過ごしたのは僅か2年。

よって彼の記憶の中に、写真以外の父の姿は存在しない。

子を授かり、親となって初めて父の無念さを痛いほど感じることができたフリムン。

「きっと、親父も我が子に背中を見せたかったに違いない」

そう思うと、志半ばでこの世を去った父が不

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第7話 黎明期編(2)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第7話 黎明期編(2)

ターミネーターここまで順調に駒を進めてきたフリムン。
そんな彼の鼻を、根元からポッキリと折る初めての空手家と相まみえる事となった。

開始早々、フリムンは得意の突きの連打に加え、左ミドルやローをガンガン飛ばしながら早い段階で試合を終わらせようとしていた。

何故なら、彼の肉体が“細胞レベル”で相手の強さを感じ取っていたからだ。

スパーリングの相手も居らず、実戦不足によりスタミナに自信の無かったフ

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第7話 黎明期編(3)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第7話 黎明期編(3)

【行ったり来たり漫才】遂に七戸師範との邂逅の瞬間がやってきた。

県大会では挨拶程度の会話しかできなかったが、これから行うのは挨拶なんて生易しいものではない。まかり間違えば、逆鱗に触れるかも知れない重大な話し合いなのだ。

意を決したフリムンは、一歩ずつ、一歩ずつ、高校時代からの夢を叶えるために道場までの階段を上り始めた。

しかし、途中まで来ると何故か突然心拍数が爆上がり。

呼吸を整えるために

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第7話 黎明期編(4)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第7話 黎明期編(4)

【初審査】入門から3ヶ月後、遂に審査の日がやってきた。
フリムンの白帯に、偽物ではなく本物の色が付く日がやってきたのである。

ちなみに極真の審査は、内容の厳しさもそうだが、黒帯を取るまでに最低でも10回は審査を受けなければならないという厳しさがある。

「白帯」→「橙帯」→「橙帯一本線」→「青帯」→「青帯一本線」→「黄色帯」→「黄色帯一本線」→「緑帯」→「緑帯一本線」→「茶帯」→「茶帯一本線」

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第8話 暗雲編(2)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第8話 暗雲編(2)

【大脱走】術後、そのまま入院する事となったフリムン。

病院のベッドで天井を見つめながら、あの東京での悪夢を思い出していた。

「俺はどうしてこんな星の下に生まれたのだろう」

生まれてこの方、上手くいった試しがなかった我が人生。

もうこのまま朽ち果ててしまうのだろうか。そんな事を考えながら、同好会の先行きや家族のことで頭を悩ませていた。

そんな入院中に、突如沖縄本島より先輩が二人お見舞いに来

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第8話 暗雲編(3)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第8話 暗雲編(3)

【義務教育】1996年。長女が誕生してから5年後に次女が誕生。真に美しい女性になるよう「真美」と名付けられた。

生まれた時からどこか光るものを持ち合わせていた彼女。

笑顔が可愛いという理由で、百日写真を撮ってくださった写真館さんが長きに渡り展示してくれた程である。



その頃より、長女も父親の下で空手を学ぶようになり、フリムン家では極真空手が義務教育の一環となった。

もちろん、次女も例外

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