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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説

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フリムンという言葉は沖縄の方言で、バカ・愚か者という意味で使われる。この物語は、日本最南端の石垣島に生まれ、後に全日本空手道選手権大会を制する田福雄市氏の空手人生、そしてフリムン…
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#フリムン

【自伝小説】第1話 幼少時代(1) |最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島  

【自伝小説】第1話 幼少時代(1) |最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島  

空手フリムンとは?

フリムンという言葉は沖縄の方言で、バカ・愚か者という意味で使われる。この物語は、日本最南端の石垣島に生まれ、後に全日本空手道選手権大会を制する田福雄市氏の空手人生、そしてフリムンな半生(または反省)を描いたノンフィクション作品である。
(記:月刊まーる編集部)

序章

 巨木がひしめく森で視界を遮られ、天を仰いだその視線の先から僅かに覗く星空に思いを馳せる。そんな表現が適切

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【自伝小説】第2話 小学校時代(3) |最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

【自伝小説】第2話 小学校時代(3) |最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

未来少年

その頃の石垣島にはまだ民放はなく、テレビ放送はNHKのみ。更に少年が5年生になるまでアニメ放送は皆無で、子ども向けに放送されていたのは人形劇のみであった。

その日、石垣島に激震が走った。遂にお茶の間でアニメが見られる日が来たのだ。

子どもたちは飛び上がって歓喜し、「ビートルズがやってきたYAYAYA」どころの騒ぎではなかった。

そんな記念すべきアニメ放送の第一弾は、未だ根強いファ

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【自伝小説】第4話 高校編(4)|最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

【自伝小説】第4話 高校編(4)|最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

虹とスニーカーの頃強さに憧れるが余り、これまでファッションには殆ど興味の無かったフリムンだったが、イキりだした頃から少しずつヤンチャなファッションに傾倒していった。

開襟シャツやツータックのボンタン。それと先の尖った革靴が欲しくて堪らなかったフリムン。

バイトの新聞配達も辞め、遊び呆けてばかりで金欠だった彼は、程なく知り合いから「お下がり」を「おねだり」するようになっていった。

そうして何と

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【自伝小説】第4話 高校編(5)|最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

【自伝小説】第4話 高校編(5)|最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

ブロークン·ハートそんなフリムンが酒とタバコを覚え始めた高2の春の事である。

高1の時には一度も会ったことの無かった、ある女生徒が目の前の席に座った。

あのトンボ先生の授業、生物の時間である。

背中越しにチラ見えするその横顔に、ドキッとしたのを今でも覚えているという。

その日から彼は、彼女と会える唯一の時間、生物の授業が待ち遠しくて仕方がなくなった。

もちろん、生物なんて1ミクロンも興味

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第4話 高校編(6)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第4話 高校編(6)

嗚呼·花の応援団そんな高校生活も中盤戦を終え、いよいよ最上級生となったフリムン。待ちに待った3年生の始まりである。

ちなみにその時代の市内三高校には、陸上競技や各種スポーツ競技でスポットライトを浴びる憧れの団体が存在した。

そう、泣く子も黙る「応援団」である。

当時の応援団は、最上級生を応援リーダー(1軍)に置き、残りの2~3年生をサブリーダー(2軍)として控えさせる二段構成となっていた。

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第5話 上京編(1)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第5話 上京編(1)

花の都数あるスポーツの中から格闘技を選び、数ある格闘技の中から空手を選び、数ある空手の中から極真を選んだフリムン。

彼の細胞が、キョクシンの世界観にドンピシャに反応した結果であった。

そんな極真の黒帯を取得し、石垣島に極真空手を広める。その夢の実現のために上京を決意して早1年。

フリムンは19の春を迎えていた。

漸く辿り着いた夢にまで見た大東京。フリムンがそこで見た光景は、余りにも発展した

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第5話 上京編(2)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第5話 上京編(2)

救世主声が聞こえた方向に目をやると、作業服を着たおっちゃんがタバコを銜えながら立っていた。

いきなり店の入り口からホフク前進で男が出てきたのである。きっと驚いたに違いない。

その声を聞いた瞬間、フリムンは心の中で神に感謝した。

しかし、それで痛みが消えるわけではない。

声を振り絞り、事の次第を説明しながら救急車を呼んでくれるよう哀願した。

すると、そのおっちゃんが「兄ちゃん少し痛むぞ」と

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第5話 上京編(3)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第5話 上京編(3)

東京ラブストーリーそれから数ヶ月後、そろそろ労災が切れるとの事でフリムンは東京に引き返す事にした。

もちろん、時間差で彼女も後を追い掛ける約束をしてくれた。

帰省時と違い、東京に戻る時のフリムンはまるで別人だった。

これから始まる「東京ラブストーリー」を想像しながら機上の人となったフリムン。

東京に着くまで、ずっとニタジー(ニヤケ顔)が止まらなくなっていた(笑)

それから更に数ヶ月後、彼

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第6話 帰省編(1)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第6話 帰省編(1)

巧の技

はじまりnoはじまり今から32年前の1991年。2m100kgクラスの超大型外国人選手も出場する4年に一度の「極真世界大会」で、僅か165cm70kgの日本人選手が見事頂点に立った。

フリムン(当時25歳)が石垣島に帰省して直ぐの事である。東京に住む友人からその報せを受けたフリムンは、体を震わせながらこう呟いた。

「俺はいったい何やってんだ…」

主治医から「過度な運動は一生禁止」

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第6話 帰省編(2)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第6話 帰省編(2)

HAPPY WEDDING島に帰省してから約1年後、いよいよカミさんをフリムン家に迎え入れる日がやってきた。今から31年前(フリムン26歳)の夏である。

そしてそのオメデタイ日は、何とフリムンの誕生日でもあった。

わざわざ記念日をその日にしたのは、余りにも記憶力に乏しいフリムンの苦肉の策であった。

そう、毎年“結婚記念日”を忘れ、カミさんに叱られるのを回避するための作戦だったのだ(笑)

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第6話 帰省編(3)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第6話 帰省編(3)

ダダダダ·ダディ何とかカミさんに許してもらい、空手を再開する事に成功したフリムン。

そんな、空手しか頭になかったフリムンに朗報が届いた。
待ちに待った愛娘とご対面する日が来たのだ。

あの感動の披露宴から4ヶ月後の事であった。

フリムンはより一層稽古に力を入れ、「絶対にこの子が自慢できる父親になって見せる」と心に誓った。

それから新米ダディとしての最初の仕事、『命名』に取り組んだフリムン。

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第6話 帰省編(4)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第6話 帰省編(4)

ゴッドハンド来沖極真会館が沖縄に支部を設立して5年目の事である。

遂に県内で初めての公式大会、「全九州空手道選手権大会」が開催される運びとなった。

まだ沖縄県大会が始まる1年前の事である。

フリムンは、この大会を是が非でも観戦しなければならなかった。

何故なら、この世界で本格的に活動するために、県内に住む空手家たちのレベルを知っておく必要があったからだ。

石垣島ではまだ脅威となる相手に出

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第7話 黎明期編(1)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第7話 黎明期編(1)

【カチコミ前日】父の眠る仏壇に手を合わせ、神妙な面持ちで物思いに耽っていたフリムン。これまで生きてきた27年と10か月という人生の中で、父と過ごしたのは僅か2年。

よって彼の記憶の中に、写真以外の父の姿は存在しない。

子を授かり、親となって初めて父の無念さを痛いほど感じることができたフリムン。

「きっと、親父も我が子に背中を見せたかったに違いない」

そう思うと、志半ばでこの世を去った父が不

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第7話 黎明期編(2)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第7話 黎明期編(2)

ターミネーターここまで順調に駒を進めてきたフリムン。
そんな彼の鼻を、根元からポッキリと折る初めての空手家と相まみえる事となった。

開始早々、フリムンは得意の突きの連打に加え、左ミドルやローをガンガン飛ばしながら早い段階で試合を終わらせようとしていた。

何故なら、彼の肉体が“細胞レベル”で相手の強さを感じ取っていたからだ。

スパーリングの相手も居らず、実戦不足によりスタミナに自信の無かったフ

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