マガジンのカバー画像

大日本末期文学全集

1,103
終末感が滲み出る文章がまとまったら、ここに投稿します。イラストと文を合わせて一つの作品になっていることもあるので、雑誌のような感覚でお楽しみください。
運営しているクリエイター

2021年3月の記事一覧

『人類の嘘の歴史は古い』

『人類の嘘の歴史は古い』

嘘をつくという行為は

言語の発生以前から

すでに存在したはず

狩猟と採集で以て

身を立てていた私たちの祖先

生きるや死ぬやの瀬戸際で

身振り手振りで

あるいは唸り声で

仲間に富をもたらし

危険を知らせた

また同時に

敵対する者たちを欺いた

人類の嘘の歴史は古い

誰が最初に

嘘をついたかは

誰も知らない

ただひとつ

たしかなことがある

俺は歴史に名を遺す

そう

もっとみる
『店長クビ覚悟!!』

『店長クビ覚悟!!』

"年度末総決算!!"

"出血大サービス!!"

"店長クビ覚悟!!"

安いのなんの

どの品物も

ほとんどタダ同然

自動ドアはもはや開け放たれ

めぼしい品物はほとんど残っていない

レジは荒らされ

ショーウインドーのガラスは割られている

この店は

周囲から取り残された修羅の国じゃないかと

見紛うくらい

兼ねてからの不振に加えて

打撃的な経済危機

あちらにもこちらにも行き場の

もっとみる
『「ささささ、さーせん」』

『「ささささ、さーせん」』

俺より10歳近く年下の上司が

左遷を命じてきた

上司君

あなたが新人のとき

だいぶ俺はお世話しましたよね

でもそうじゃないんですよね

はいはいわかってますよ

お役に立てず

申し訳ありませんでした

命じられた瞬間こそ

辞めてやる!

って

喉元まで来たけど

まだ娘の学費と

家のローンがキツイもんでね

なんとかぐっとこらえて

住み慣れない土地へ

ひとり引っ越す覚悟を決め

もっとみる
『廃線の春』

『廃線の春』

この春に

この路線が

廃止になるって聞いたのは

ちょうど3年前の今頃

東京のイイ大学に入るために

地元のイイ高校に

頑張って入った春だった

時間の経つのは早いもので

昭和の中頃から

ほとんど変わっていないという駅舎は

休むことなく

日に往復4本

列車を迎え入れてきた

今はとても

桜と菜の花が美しい

夏はいわずもがな

青々とした景色が広がる

秋はグレーで

冬は真っ

もっとみる
『仰向けでヘッドスライディングする術を』

『仰向けでヘッドスライディングする術を』

とても長くて

とてもつらい

猛練習の成果で

ようやく身に着けた

シグナルをきっかけに

一目散にダッシュ

ターゲット目前で反転したら

仰向けでヘッドスライディングするという

高度な技術を

コトの発端は寿司

そう

みんな大好き

あの

お寿司

食いたいがそんなカネはない

もう何年もありついていない

このところはずっと

近所の回転寿司屋を

ガラス越しに

指を咥えて

もっとみる
『お手元のリモコンで視聴者投票に参加したり』

『お手元のリモコンで視聴者投票に参加したり』

あっちの遠くのほうの

そこそこ平和な国で

きょう

史上まれにみる劣悪な罪を犯した

ひとりの死刑囚が逝った

死刑が確定すると

その日から

囚人は

独房に入れられ

執行までの日々を

畏れ

開き直り

各々に過ごす

ある日あるとき

予告なしに

トリガーが引かれると

その独房に有毒な気体が充満し

囚人は永眠する

その国では

国民の誰かが

浴室の給湯温度を変えたり

もっとみる
『イタ子はなんにも覚えていない』

『イタ子はなんにも覚えていない』

恐ろしい新人が来た

実家がイタコをやっていて

自身もその修行を積んできたという

試しにいろいろ

あんなひとやら

こんなひとやらを

降ろしてもらった

笑っちゃいけないけど

なんだか少し…

そんなイタ子ちゃん(←そりゃそういうあだ名になります)も

だんだん仕事がイタについてきて

なかなかやるなと思ってイタら

なんと最近では

役員(存命)やら

直属の上司(目の前にいる)まで降

もっとみる
『着陸態勢』

『着陸態勢』

機はすでに着陸態勢に入っている

雲を掻き分けて

無事ランディングした

後ろの方では

早々とベルトを外して起立し

CAさんになだめられているどこかのおっさん

ポン!

安全が確認されて

改めて僕は席を立つ

僭越ながらもビジネスクラスだから

早々に降りることができるとはいえ

若干の時間が…

「あの…」

通路を隔てて機体左側から

僕と同年代の女性が声をかけてきた

僕は彼女と同

もっとみる
『πとカツサンド』

『πとカツサンド』

あれは本命校の入試の日だったと思う

元から朝食は摂らない習慣だった僕

その日は母が朝から張り切って

”カツサンド”を

持たせてくれた

出がけに

「パン剥がしたらダメよ」

とかいう

謎の伝言とともに

胃が弱いから

カツサンドなんか食べて

午後の科目に影響出たら嫌だなあ

などと思いながら

試験会場へ向かった

午前中は数学と国語と生物

手ごたえは悪くない

さてお昼だ

もっとみる
『トーキョー!オダイバー!!』

『トーキョー!オダイバー!!』

トーキョー!オダイバー!!

(以下、脳内で英語に翻訳してお読みくださってもかまいません)

先輩のアーティストから

日本でのライブは

ソレだけ叫んどけばなんとかなるって言われたんダヨ

だって日本語ナンテ

「カラオケ」しか知らないカラネ

だから登場シテ

トーキョー!オダイバー!!

3曲終わってMCデ

トーキョー!オダイバー!!

また数曲ヤッテ

トーキョー!オダイバー!!

エン

もっとみる
『気がかりなこと』

『気がかりなこと』

先輩とのランチの割り勘が10円単位だったこと

肩こりがいつもよりひどいこと

来週もしかしたら転勤の辞令があるかもしれないこと

洗濯モノがたまっていること

会社スマホの不在着信に知らない番号があること

自宅マンションの契約更新がもうすぐなこと

今朝起き掛けに見た夢が不快だったこと

革靴の傷みがわりと目立ってきたこと

取引先との商談に向けた準備がほとんどできていないこと

株持ってる会

もっとみる
『卑しい眠り』

『卑しい眠り』

リスカをしてしまわないように

自分で腕を切断した

首を吊ってしまわないように

自分で首を切断した

あいつを消してしまわないように

自分を抹消した

不快な瞬間を見届けなくていいように

まず視覚を

先に潰してからね

いま私は

夢のなかにいる

私の卑しい行動は

世の人々に動揺を与えてしまったみたいで

申し訳が立たない

でも

そんなこともあろうかと

みんな揃って夢のなかにい

もっとみる
『「そう、で、カプセルの真ん中にあるボタンを押すだけぇ」』

『「そう、で、カプセルの真ん中にあるボタンを押すだけぇ」』

チャラい博士がエグい発明をした

光の速さで何万年もかかる星に

わずか30分ほどでたどり着けるという

特別な装備はいらず

裸一貫

そのままライドオン!

というから素敵だ

助手には詳細を明かすことなく

設計から開発

組み立てまでを博士は一人で遂行し

臨床実験も自ら行っている

仮にXと名付けられた目的の星は

全体が地球でいうところの常夏の島のような

白い砂のビーチと青い海に恵ま

もっとみる
『淡くてラグジュアリーな旅の記憶』

『淡くてラグジュアリーな旅の記憶』

境内まではまだ

あと数百段を登らなければならないようで

僕の先を行くTさんは

そりゃあ慣れたものだ

幼少期から何百回と登っているというのだから

ところが僕にとってはもう苦行でしかない

春先だからまだ良いものの

観光ってなんだろう

そんな愚問が脳裏をよぎる

やっとのことで登り切った僕を

柔和な表情の如来様が迎えてくれた

なんということはない

このために石段を乗り越えてきたんだ

もっとみる