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ショートショート

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僕の綴ったショートショートの物語をまとめました。
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#私の作品紹介

ショートショート「頼みの綱は竜宮城」

ショートショート「頼みの綱は竜宮城」

 むかしむかし浦島は
 助けた亀に連れられて
 竜宮城へ来て見れば
 絵にもかけない美しさ

 乙姫様のごちそうに
 鯛やひらめの舞踊り
 ただ珍しく面白く
 月日のたつのも夢のうち

 幼稚園から聞こえてくる懐かしい唱歌が、公園のベンチで途方に暮れる男、「時和金成」の心に虚しく染み渡る。

 「この歌の続き、なんだったっけか」

 ふと呟いてみるも、そもそも歌に大してさほど興味がないことに気が付

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ショートショート「豊かな世界」

「私たちは、互いに持っている財産を分かち合って生きているの。自然溢れる環境の中で、”そこに在るもの”だけで日々を暮らしているわ」
「では、やはり物々交換で取引をしている……と、独自の通貨はないのですか?」
「そんなものは知らないわ」

 山に囲まれた小さな村。雲ひとつない晴天の下、私は大変、貴重な機会を得ていた。異なる時代の住人から話を聞くことは滅多にない。この者たちがどのような理念で生きているの

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ショートショート「吾輩はイグアナである」

ショートショート「吾輩はイグアナである」



吾輩はイグアナである。正式名称は『グリーンイグアナ』の『アザンティックブルー』と呼ばれる爬虫類の一種であり、この家では『ソラ』と名付けられている。吾輩が物心ついた時には、すでに人間たちで構成された共同体に引き取られていた。共同体の名は『家族』というものらしい。

 吾輩には親がいない。故に、なぜ人は共同体として生きていくのか? 甚だ疑問であった。なので、吾輩は自身のルーツを探るとともに、人と

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ショートショート「能力主義」

ショートショート「能力主義」

「よしよし、入金されてるな」

 約束の15万円が振り込まれていることを確認すると、無職の男「キナシ」は、生まれて初めて時代の変化に賞賛した。3年前、働かずとも一定の金額が全国民に給付される制度が始まってから、キナシは勤めていた会社を何の躊躇いもなく退職。以降は朝の3・4時間ほどだけアルバイトをしながら追加の小遣いを稼ぎ、悠々自適な生活を送っていた。

 国民の半数は”働かない生活”を選択する一方

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ショートショート「境界線」

ショートショート「境界線」

著者 MAGUMA

 鬱蒼と茂る木々は、あたかも私の心情を表現しているかのように、互いにぶつかり、交わり、入り乱れている。ひとつ違うのは、大自然の様に風通しの良い解放感がないことだけだ。

 生まれてから大学を卒業して就職するまで、ただただ与えられた道をひたむきに走り続けてきた。私を例えるならば、余計な虫を寄せ付けず、見てくれをよくするために農薬を撒かれた野菜のようなものだ。もっと言えば、品種改

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ショートショート「静かなる侵略」

ショートショート「静かなる侵略」

著者 MAGUMA

 我々は、地球の侵略に成功した。

 長い年月をかけて地球という星と生命を研究し、地球で絶対的な主導権を握ることに見事成功したのだ。

 しかし、侵略計画はそう容易くはなかった。武力と知力を持って進化を遂げてきた生命体は、必ずその力によって滅ぼされてきたからだ。高度なテクノロジーを所有する我々でさえ、大いなる力を制御する術をいまだ持ち合わせてはいない。

 同様に、地球も幾度

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ショートショート「不思議な呼び出しベル」

ショートショート「不思議な呼び出しベル」

著者 MAGUMA

 深夜、24時間営業のレストランには、ごく少数の客と、同じく少数の店員のみが各所に点在していた。魂が抜けたようなやる気のない店員たちの姿は、一周回って店のインテリアのような役割を果たしており、かえって清々しい。
 店内には、客が呼び出しベルを押す度に誰が作ったのかもわからない簡素な音色が響き渡っている。

 そんな中、男「深堀信二郎」は、ひとり記憶の図書館を閲覧し続けていた。

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ショートショート「宇宙レベルの恋」

ショートショート「宇宙レベルの恋」

著者 MAGUMA

「お待たせ!瑛李くん!」
「やぁ、美宇ちゃん」
「遅れちゃってごめんね」
「気にしないで。さっ、行こう」
「うんっ」

 私が瑛李くんと付き合い始めたのは、実はまだ三日前のことだ。私たちの出会いは本屋さん。宇宙関連の棚で本を探している私を、瑛李くんが助けてくれたことがきっかけだった。今まで同じ趣味を持つ友達が一人もいなかったけど、瑛李くんだけは私を理解してくれた初めての人だっ

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ショートショート「大きな川の渡りかた」

ショートショート「大きな川の渡りかた」

著者 MAGUMA

 目の前には、大きな川がありました。それはそれは大きな川で、流れが早くなったり遅くなったりしっちゃかめっちゃか。とても泳いで渡ることはできません。川の向こう側を夢見る旅人たちは、我こそはと立ち上がり、大きな音を立てて流れ続ける大自然の力へと挑んでいきましたが、誰一人として渡れた者はいませんでした。

「あんな川、渡れっこない!」
「挑戦する奴は相当なバカだぜ!」

 誰もが諦

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