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子どもという客人

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向こうの世界からやってきたお客さま、子ども。お客さまとの暮らしを綴りました。 (ヘッダー写真提供:笹渕乃梨)
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この世界への客人

この世界への客人

  みごもりて湊となりぬ異界より客人(まらうど)まねく母とふ湊
  春野りりん

 人間が傷つけあうさまに疲れ果てていた頃、破壊の続く地球環境に新たな命を迎えるか悩んだが、《エネルギーの大きな命がやってくるから大丈夫》という予感に従うことにした。
 私を介してやってきた客人は果たしてエネルギッシュで、ブランコを漕ぐように反動をつけ、ベビーカーを自力で前に進ませた。散歩中赤信号で止まると、彼は不服そ

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異星人との異文化交流記録

異星人との異文化交流記録

ああ、あなたみたいなひとをヤンママと呼ぶのね!マダムわれに駆け寄る
/春野りりん『ここからが空』



十数年前に記した 息子 ξ(仮名)の育児日記を読み返しています。
ひとごとのように可笑しい。
育児日記というより、異星人との異文化交流記録のようです。
たとえば、生後3か月のとある日。



ミルクを飲む ξ は、どういうわけだかかっきり半分で小休止を入れます。急に哺乳瓶から口を離したかと思

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子を抱きて夕映えの富士指させば…

子を抱きて夕映えの富士指させば…

子を抱きて夕映えの富士指させばみどりごはわが指先を見る
春野りりん『ここからが空』



息子 ξ(仮名)が 私のもとにやってきたとき、まだこちらの文化や事情を知らない遠くからの客人(まろうど)のように感じました。そうすべきだと考えたのではなく、なぜかそういうふうにしか感じられなかったのです。
それで、自然と異文化交流のように接していたのですが、それでも 無知の未熟なひとを上から引っ張り上げるよ

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びじゃ、びば、ばわ

びじゃ、びば、ばわ

前かごに幼子入れた自転車を風がおしだす未知の時間へ
/春野りりん

息子 ξ(仮名)が私のもとに生まれたとき、はるか彼方から 客人(まろうど)がやって来たように感じました。 ξ は何もできない未熟な存在ではなく、こちらに来たばかりで、まだこちらの文化や事情を知らないだけのひとだと感じたのです。
そして、「ようこそこの世界へ!いろいろなことがあっても、ここは素晴らしいところなのよ」と歓待するように接

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十数年前の、ほんの一分のご縁

十数年前の、ほんの一分のご縁

息子 ξ が、とても小さかったころのこと。



歩けるようになって間もないころから ξ は溢れんばかりのエネルギーをもっていて、私に似ずバイタリティーがありました。
どんなにたくさん歩いても、走っても、飛び跳ねても疲れというものを知らないようで、ぐずることがなかったのです。

けれども、その日は、空腹や眠気がいっぺんに押し寄せてきたようで、あとほんのわずかで自宅に帰り着くというところまで来て、

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ホーリョン

ホーリョン

ホーリョンと名づけられたる魚ゐてミジンコ七ひきかくしたといふ

ホーリョンのともだちリョンピーそれを見てミジンコ十ぴきかくしたといふ

ホーリョンにまつげたくさん生えてゐてリョンピーの口に歯のとがりをり

さて問題。二ひきのかくしたミジンコの数の差いくつ?式も書くこと!

ホーリョンとリョンピーならんで泳ぎをり孫にと母の描きたる紙に

ホーリョンを生みたる母の娘にあれば退屈といふ言葉を知らず

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サンタクロースの贈りもの

サンタクロースの贈りもの

パパやママの置いてくれたプレゼントに大はしゃぎして、あちらこちらの子どもたちがサンタクロースにお礼を言っている顔を想像すると、温かく満ち足りた気持ちになります。

息子が小さかったころ、毎年サンタクロースからのカードを英語で綴ることにしていました。いつもどこかから息子を見守っている、親以外のだれかに思いを馳せて文面を考えるのは、とても楽しい時間でした。
息子のほうも、サンタクロースへのプレゼントを

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添削すること、育てること、信じること。

添削すること、育てること、信じること。

短歌結社「短歌人」の大先輩、蒔田さくら子さんが、懇親会の席でグラス片手にこうおっしゃったことがある。

「短歌の添削を頼まれて、直してしまうのは簡単。
そうすればその一首はいい歌になるし、直されたひとは、そういう歌の詠み方を身につけられる。
けれども長い目でみると、手直しすることがいいとも限らない。
だから、こうすればうまくなるという指導ではなく、個性を大切にするようにと言葉をかけてきた。
はじめ

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