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栗原ちひろのnote小説(無料)

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単発のショートショートと超不定期連載「何も起こらない探偵事務所」の無料マガジンです。更新は超不定期です。
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記事一覧

庭を造る 第一話

庭を造る 第一話

あらすじ

第一話

 現実を美しく編集する。
 僕がやっているのは、そういうことだ。
「はい、こんにちは。ちょっとお久しぶりですね。みなさんお元気でしたか? 庭系動画配信者のガーデナーKです。今日お見せする庭は、こちら」
 明るく平淡な声でまくしたて、僕は小型カメラに向かって微笑む。思い切り表情筋を使って口を弓形にし、自分の感情とは全く関係ない笑みを浮かべる。
「どうですか? びっくりしました?

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【連載小説】何も起こらない探偵事務所 #4

【連載小説】何も起こらない探偵事務所 #4

「みはる。ミイラって食ったことある?」

「あるよ」

「おっと、待って待って。どこで? 博物館? 河童寺?」

 従兄弟の砂倉があっという間に情けない顔になったので、僕はぷうっと膨れて見せた。
 ここはバーの居抜きの探偵事務所。
 事件に巻きこまれがちだが解決しない探偵、砂倉渓一と、従兄弟でワトソン役の僕、三春智史の楽しい遊び場だ。

 小型ノートPCから手を話し、僕は熱弁を振るう。

「いきな

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「少女文学 第二号」について/栗原ちひろ個人サンプル

「少女文学 第二号」について/栗原ちひろ個人サンプル

 同人誌が出ます。

 今回、この本の巻頭にわたしのお話が載ります。「黄金と骨の王国 白銀の騎士と人形の王女の章」といって、少女文学第一号に載せていただいた話の続き、というか、過去編です。
 
 第二号から読んでも全然かまわない、一話完結の物語です。むしろ、こちらから読んでもらって、あとから第一号を読んでいただくと一際趣深いかもしれないので、気になったら気軽に物語の世界に飛び込んでみてくださいね。

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【短編小説】魔法使いは王命に従い竜殺しを試みる【SFファンタジー】

【短編小説】魔法使いは王命に従い竜殺しを試みる【SFファンタジー】

魔法使いは王に「竜殺し」を命じられた。
存在すらしない竜を、どうにかして殺せというのだった。

――遠い昔、もしくは遠い過去、ひょっとしたら今このときに、遠い星で繰り広げられる、ほんの小さな神さまとひとのお話です。

12,768 文字(読了目安: 26分)

初出『ファンタスティック・ヘンジ』2012年

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 ジェニースは夢をみていた。

 どこまでも続く真っ黒な空、赤くひび割れた大地、

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【短編小説】あじさいの幻想クリームソーダ【幻想喫茶】

【短編小説】あじさいの幻想クリームソーダ【幻想喫茶】

 からんころん、という音で、ちょっとだけ目が覚めた。

「ふわ……?」
「おはようございます」

 低めの声が柔らかに響き、目の前に透明なグラスが置かれる。

 あれれ、私って、お店にいたんだっけ。

 よく思い出せないままに、私はグラスを掴んだ。汗をかいたつめたいグラスに口をつけると、ふうわりとレモンの香りが広がる。喉にすべりこんできた香りが体中をすっきりさせてくれるみたいで、私は自然と力を抜い

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合同誌「少女文学」栗原ちひろサンプル

合同誌「少女文学」栗原ちひろサンプル

2019/5/12コミティア発行予定の企画合同誌「少女文学 第一号」に寄稿した栗原ちひろ作品のサンプルです。合同誌についてはこちら↓

黄金と骨の王国 ~半竜人と死せる第一王女の章~

 穴には死が詰まっていた。
 闘士の死。もしくは、獣の死。穴から這い上がるにはどちらかが必要だった。
 闘技場とはそういうものだ。天上の王都でもそうだし、《海鼠色の蛇に似た竜》の名を冠した四十七番目の塔に近い貧民の

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5/12コミティア個人誌サンプル【7】

5/12コミティア個人誌サンプル【7】

2019/5/12コミティア発行予定の個人誌サンプルその7です。6はこちら↓

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6・一番暗い海の底で君と出会った 
「夜の海は好かねえなあ。いまひとつ、よくねえよ。そう思わねえか、エリオ」
「今更帰れないのに、何言ってんだ。もうだいぶ沖に来てるし、ルカ兄貴の着てるそのスーツ、くっそ高えしさ」

 振り返りもせずにエリオが言うと、漁船の甲板にしゃがみこんだルカが嘆きのうなりをあげた。彼はい

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5/12コミティア個人誌サンプル【6】

5/12コミティア個人誌サンプル【6】

2019/5/12コミティア発行予定の個人誌サンプルその6です。5はこちら↓

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5・人形操者のナイトクルージング 
 腹の底から揺さぶられるようなエンジン音と、有機的な揺れ。潮の香りに入り交じるオイルの臭い。削った黒大理石みたいにつやめく、夜の波。
 自分たちを包むすべてを楽しみながら、ジルドはうっとりと言った。

「これが夜釣りだったら、もっと楽しいんだけどね。よく冷えたスプマンテと、

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5/12コミティア個人誌サンプル【5】

5/12コミティア個人誌サンプル【5】

2019/5/12コミティア発行予定の個人誌サンプルその5です。4はこちら↓

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4・片手に銃、片手に夜への招待状 
 「う、うわあああああぁぁぁ!」

 あっという間に叫びが遠くなっていき、エリオは窓枠を掴んで身を乗り出した。
 花柄男がぐんぐん遠くなる。落ちて行く、落ちて行く。
 エリオの大好きな真っ青な海に落ちて行って――ばしゃん、と高い水しぶきが上がった。エリオはまだしばらく海面か

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5/12コミティア個人誌サンプル【4】

5/12コミティア個人誌サンプル【4】

2019/5/12コミティア発行予定の個人誌サンプルその4です。3はこちら↓

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3・宝探しはなんのため? 
 エリオははっとしてドアを見る。客は三人。
 手前の二人はごく普通のちんぴらに見えたが、一歩後ろに控えた奴はいささか面倒くさそうだ。何せ、ド派手な花柄シャツに真っ白なスーツをまとい、どこで売っているのか見当もつかないヒョウ柄のボルサリーノをかぶった、三十代後半くらいの脂ぎった男だ。

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5/12コミティア個人誌サンプル【3】

2019/5/12コミティア発行予定の同人誌サンプルその3です。その2はこちら↓

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2 野良猫は天使を誘う エリオが海から上がって二十分ほど後。
 エリオとエリオの兄貴分のルカは、海辺のレストランの厨房にいた。

「ほふぇで、ひょうのほんだひひゃんだが」
「ちゃんと、口の中のもの食ってから言え」

 エリオがうんざり顔で言うと、ルカはリスみたいに頬張っていたパスタをようやく呑みこむ。彼は

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5/12コミティア個人誌サンプル【2】

5/12コミティア個人誌サンプル【2】

2019/5/12コミティア発行予定の同人誌サンプルその2です。その1はこちら↓

現代ヨーロッパ風異世界のファンタジー・マフィアものだよ。気になったらイベントか通販でよろしくです。

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1 始まりの朝、宝探しの町はレモンの香りがしていた  
 午前の光がまぶしい。
 視界の端で、押し寄せてくる波が宝石みたいにきらめいている。
 海にはりだした半島の国、ウィトルス王国の南。このへんの海は穏

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5/12コミティア個人誌サンプル【1】

5/12コミティア個人誌サンプル【1】

死んだ目をした君と、天国みたいに美しい海で出会った。

とある世界の海辺の町、コローナ。観光と、海底遺跡から財宝を引き上げるサルベージしか産業のないこの町で、ふたりの少年が出会う。  サルベージに魅せられた元ストリートチルドレン、エリオ。マフィアにさらわれてやってきた元資産家の息子、カール。 ふたりのぎくしゃくした友情は、やがて町にはびこるマフィア組織を揺るがし、海に沈んだ古代遺跡の謎をも解き

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【創作小説】偏屈女貴族が美青年ドールを買う話【続くかも?】

【創作小説】偏屈女貴族が美青年ドールを買う話【続くかも?】

※冒頭のみです。いつか続きを書きたい。
※ふるい読者の方は、以前書いたドール小説っぽいキャラと設定だな~と思うと思います。

 それは、遠く古びた未来の話。
 人々がほんの少し疲れてしまって、前へ進むのをやめてしまった時代。
 岩砂漠だらけになった世界には、昔みたいに『貴族』が生まれておりました。
 大災害の時に戦った人々の末裔である高貴なる貴族の方々は、砂漠に点在する都市国家を支配しておいでです

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