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【まとめ】現代中華SF傑作選『時のきざはし』【感想】

【まとめ】現代中華SF傑作選『時のきざはし』【感想】

はじめに なぜ『時のきざはし』を手に取ったか(本の感想は『時のきざはし』から。感想を見たい場合は飛ばして下さい)

 現代中華SF傑作選『時のきざはし』を手に取ったのは、中華という、自分には現実か虚構か判断できないようなことが起きる巨大な国からやってきた、中華SFを読まねばと感じたからだった。そう思い立った理由は2つの作品との出会いだった。と劉慈欣『三体』と、百合SFアンソロジー『アステリズムに花

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「好きを貫く」というテーマを貫き通すマンガ『サークルクラッシュ!』感想

「好きを貫く」というテーマを貫き通すマンガ『サークルクラッシュ!』感想

 『サークルクラッシュ!』はオタクのレオ君に近づくため、非オタのギャルが漫研に入部して繰り広げられるドタバタを楽しめるラブコメディマンガ。「好きを貫く」というテーマが全編を通して描かれている。テーマへ真摯に向き合う本作はコメディだけでなく感動も与えてくれる。なんと5/31まで全話無料です!

 オタクという何かを好きで愛してやまない存在は、その好きを他人と共有できるかというと難しい。多くの人が理解

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謎が予測可能回避不可能にひき殺されるラブコメミステリ 柾木政宗『朝比奈うさぎの謎解き錬愛術』

謎が予測可能回避不可能にひき殺されるラブコメミステリ 柾木政宗『朝比奈うさぎの謎解き錬愛術』

 お約束のお笑いみたいなのに非常に弱い私です。「#予測可能回避不可能」「#腹筋崩壊」タグには腹筋を鍛えられました。「くるぞ、くるぞ……」からのお約束の展開で分かっているのに笑ってしまうあれは何なのでしょうね。今回は「#予測可能回避不可能」タグをつけたいミステリー小説だと思った一冊の感想を記します。

 本来予測できてはいけないジャンルのミステリーなのに、予測可能回避不可能タグを付けたい作品が柾木政

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三体を読み始めました。まだまだ読み始めたばかりですが、なかなかすごいですね。。。中国のSFはこれからたくさんチェックしていきたいと思っています。

SF小説飛浩隆『ラギッド・ガール 廃園の天使Ⅱ』で難しかった「ふた組の目」という概念とフーコー

 何気なくテレビをつけていると自分を内側から監視する監視人が生まれる、、、というような話が聞こえてきた。Eテレの世界の哲学者に人生相談「社会の中での生きづらさとどう向き合うか~フーコー」という番組だった。哲学者ミシェル・フーコーの考えをわかりやすく解説しそれを生活にどう生かしていくか、という番組でこれが面白かった。この話を聞いて思い出したのは飛浩隆の小説『ラギッド・ガール 廃園の天使Ⅱ』だった。こ

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最近お気に入りのマンガ『おひさまバーディー』

最近お気に入りのマンガ『おひさまバーディー』

 何か続けていく中、忘れてしまった事にもなかなか気がつけないのが初心というやつです。厄介なのが、忘れていても大概何とかなるのですが、そのまま続けていくと「あれ?こんなことしたかったっけ?」とモチベーション切れになってしまいます。そもそもはじめた時ってどういうモチベーションか自分でさえよく分かっていないんじゃないかと思います。

キャラクター ジャンプ+にて連載中の『おひさまバーディー』はゴルフ好き

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SF小説飛浩隆『ラギッド・ガール 廃園の天使Ⅱ』とVR体験を読んで内と外の境界って何だろう?と思う

SF小説飛浩隆『ラギッド・ガール 廃園の天使Ⅱ』とVR体験を読んで内と外の境界って何だろう?と思う

アバターを変えることはVRで現実に可能になっています。もし、内面も同じように変える事ができたらどうでしょうか?表題の小説を読みながら考えてしまいます。同じものを見てAと感じる自分と、Bと感じる自分を切り替える。でもそれは空想の話ばかりでなくVR体験でアバターによる感受性の変化に触れられています。すると境界ってなんなんでしょう?なんだか曖昧なものに思えてきました。

・VR睡眠
・VR感覚(ファント

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【SF短編】菅浩江『不見の月』【感想】

【SF短編】菅浩江『不見の月』【感想】

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最近パソコンを買い替え漬物石になっていた以前のPCのデータを整理していると、そのPCの中にはだいぶ前にデジカメで撮った写真がいくつも保存されていた。懐かしく思いながらそれらの写真を眺めていた。私の通っていた高校ではおそらく珍しいと思うが家庭科の夏休みの宿題があった。その宿題は家で料理を作ることで、私はバターライスでハヤシライスを作って家族に振る舞った。その時の写真が残っていたのだがそこに

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宮部みゆき『過ぎ去りし王国の城』異世界という名の避難所

宮部みゆき『過ぎ去りし王国の城』異世界という名の避難所

早々に進学先も決まった中学三年の二月、ひょんなことからヨーロッパの古城のデッサンを拾った尾垣真。やがて絵の中にアバター(分身)を描きこむことで、自分もその世界に入りこめることを突き止める。友だちの少ない真は、同じくハブられ女子で美術部員の珠美にアバターを依頼、ともに冒険するうち、パクさんという大人と出会い、塔の中にひとりの少女が閉じこめられていることを発見する。それが十年前のとある失踪事件に関連し

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やがて君になる今更読破&友人達との感想戦を通して感じたこと

やがて君になる今更読破&友人達との感想戦を通して感じたこと

 結論から言うと『やがて君になる』はすごい百合です。個人的に感じたすごいポイントは登場人物が持つテーマが相互に関係しあってぶつかったり、すれ違ったりしながら最後にはその縺れがほぐされて、それぞれのテーマが解決される見事なストーリーです。表情や仕草が丁寧に書き込まれていて感情の変化を客観的に写生しているのでそれぞれのキャラクターが行き着く先にも説得力があります。

 例えば、一巻の2/3ほどの地点の

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最高のマルチメディア展開を教えてくれてありがとう ハーモニーコミカライズ

最高のマルチメディア展開を教えてくれてありがとう ハーモニーコミカライズ

ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA) 

 伊藤計劃氏のSF小説『ハーモニー』を読んだことがあるでしょうか?私は『虐殺器官』含めたこの2冊以上に面白い本を日々探している途中です。もしあなたがこれらをまだ未読でしたらとても幸運です。原作小説、劇場アニメ、コミック、オーディオブックといった豊富なメディア展開先から好みのものを選び取れるからです。

 今回は三巻文(みなとふみ)さんによるコミカライズ

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東野圭吾『秘密』感想

「ありがとう。さようなら。忘れないでね」

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 同名の映画「秘密」の原作との事だがそちらは未見。

 平介の妻・直子と娘・藻奈美を乗せたバスが崖から転落。妻の葬儀のあと、目を覚ました娘の体に宿っていたのは妻の意識だった。

「世の中には、素晴らしいものが本当にたくさんあるのよね。そんなにお金をかけなくても幸せになれるものだとか、世界観が変わっちゃうものだとかが簡単に手に入る。どうして今まで

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芝村裕吏『やがて僕は大軍師と呼ばれるらしい(2)』感想

芝村裕吏『やがて僕は大軍師と呼ばれるらしい(2)』感想

 読み始めると止まらないんです。昼ご飯食べるのも忘れて一気に読了です。

 舞台は人間やエルフ、オークなどが生活する剣と魔法(と銃)の世界です。いわゆるラノベ異世界という感じです。

 ライトノベルですが極端に客観的な文体です。森見登美彦とかを読んだ後だからか、余計に主観的な表現がない様に感じたのかも知れません。

 主人公が客観的に物事を捉えているので、ヒロインの主観(気持ち)には鈍感です。(ま

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カート・ヴォネガット『タイタンの妖女』感想

カート・ヴォネガット『タイタンの妖女』感想

 想像よりずっと昔に書かれた本で驚ました。

 登場人物のマラカイ・コンスタントは遺産と運で手に入れた金でパーティにセックスにドラッグとやりたい放題のボンボンです。全てを失って火星に行き、水星へ行ってから地球に戻って最後は土星の衛星タイタンへ行きます。

 SF的なネタも盛り沢山です。時空間変換されたおっさんと犬に宇宙戦争にロボトミーに未知の知性体との交流に惑星移住…。

 アポロ11号が月へ行っ

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