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宮部みゆき『過ぎ去りし王国の城』異世界という名の避難所

早々に進学先も決まった中学三年の二月、ひょんなことからヨーロッパの古城のデッサンを拾った尾垣真。やがて絵の中にアバター(分身)を描きこむことで、自分もその世界に入りこめることを突き止める。友だちの少ない真は、同じくハブられ女子で美術部員の珠美にアバターを依頼、ともに冒険するうち、パクさんという大人と出会い、塔の中にひとりの少女が閉じこめられていることを発見する。それが十年前のとある失踪事件に関連していることを知った三人は、ある計画を立てる...。「今」を引き受けて必死に生きるすべての人へ―心にしみこむ祈りの物語。

 小学校時代に『ブレイブストーリー』の映画に一目惚れして、その後読んだ宮部みゆきさんの原作小説は当時のバイブルになっていました。『過ぎ去りし王国の城』がふと書店で目にとまり、またあの様な冒険ができるかもしれないとワクワクして手にとりました。

 ブレイブストーリーの主人公は小学生で過ぎ去りし王国の城の主人公は中学生です。とはいえその頃触れ合う世界はおよそ学校と家庭の2つがほとんどでしょう。内面的な成長度合いは違うとしても取り巻く環境はそこまで変わりません。そして、もし子供を取り巻くほとんど全てと言っていい2つの環境がどちらもどうしようもないものだったら子供は何処へ逃げる事ができるのでしょうか。

 宮部みゆきさんの小説にはもう本当にしょうもない大人が生々しくリアルに描写されます。子供は逃げ場なくさらされてしまいます。学校では無邪気とも言える邪悪ないじめが行われこちらも心休まる場ではありません。そんな中で全くの異世界が突如隣に現れ、その中を冒険するのです。それがどれだけ心地よく、心躍るものかと思います。異世界が心休まる場所であって欲しいというお節介な気持ちすら持ってしまいます。

 あ、ボツコニアンみたいなライトな作品も好きですし、ドリームバスターも好きです。火車もカード破産の印象がずっと残ってる…。一時の避難場所という点では辻村深月『かがみの孤城』も近しいですかね。おっと、ひとまずそちらは置いておきます。

 現実とはかけ離れた異世界に入り込み一時でも辛さから離れる事が、むしろ辛い現実と向き合う心の余裕をくれるのではと読みながら考えていました。読了していないので結末がどうなるかまだ分かりませんが彼ら彼女らの元いた世界に良い変化が起きるといいなと願いながら読み進めています。

 冒険成分ですが、ブレイブストーリーをイメージすると現実パートの割合が多いです。絵の中の世界は消耗が激しくあまり長く留まると現実へ戻ってきた時リバウンドの様に体調に異変が起きてしまうからです。しかし絵に潜るという異世界と日常との近さがむしろドキドキを冒険に加えてくれます。

 彼らは絵の中という異世界に一時潜って冒険します。何だか本を読んでその世界へ没入することとすごく近い様に思えます。私にとっての現実の隣にある避難所はもしかしたら本なのかもしれないな、なんて考えていました。一時現実を忘れさせてくれて、もう一度現実と向き直す勇気をくれるものです。

 以前辛かったら学校を休んで図書館に来たらいいというような投稿が物議を醸した事があった気がします。その避難所を必要とするが子供は悲しいですがどこかにいるのでしょう。彼ら彼女らの元いた世界に良い変化が起きるといいなと願います。


追記

こちらの鎌倉市図書館のツイートでした。

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